皆様、新年おめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

 生命科学研究における情報科学の活用-バイオインフォマティクス-は、過去15年ほどの間に急速に拡大してきました。ゲノム解析・オミックス・タンパク質解析・創薬などの面で、またシステムバイオロジー・合成バイオロジーの面で、更に先端計測制御・可視化技術の面で、それぞれに15年ほど前には考えられないレベルに発展してきました。

 ここでは更に新しい動きとして、参加型サイエンスと社会データの活用のことをご紹介いたしましょう。いずれも最近のICT(情報通信技術)の進歩によるものです。

(I)参加型サイエンス
ソーシャルネットワークサービスSNSの発達で、共通関心グループSIGを結成することが容易になりました。それを利用した共同研究体制が広域的・異分野融合型で作り上げることができるようになってきました。それをもっと拡大したやり方の参加型サイエンスは、不特定多数の人に特定テーマへの参加を求めるやり方です。以前にスタンフォード大学のV.Pande教授が組織したFolding@home はその良い例でした。タンパク質のフォールディング計算を数十万台の自宅・事務所のPCの空き時間を利用して分散処理してもらうことでスパコン以上の計算ができました。
参加型サイエンスのもう一つの良い例は、インターネットを使ったコンペティションです。CASP(タンパク質構造予測)やDREAM(ゲノム機能予測)など多くの試みがあります。理研でも最近GenoCon(ゲノム設計コンペ)をしました。このような動きは、、今後増えていくことでしょう。

(II)社会データの活用
ゲノム科学の進展の中で、「遺伝子型」と「表現型」の関係(G2P-Genotyoe to Phenotype) 及びそれに対する「環境」の影響が常に問題になります。正に”GEP”(Genome x Environment =>Phenome)の解明が必要になっています。

 この環境・表現型のデータの収集を、社会に(実験室・検査室の外に)求めようとする動きが、最近のICTの発達で可能になりつつあります。

 その一つとして、国立保健医療研究科学院の水島洋博士はモーバイル端末を利用して対象者個人から健康や生活情報のデータを集める試みをされています。

 更に広い視点から、科学データの世界と社会データの世界をつなごうという試みが始まっています。理研の豊田博士(生命情報基盤研究グループ)が、これまでの研究データベースの統合から、範囲を広げて社会データとの連携・融合を模索し始めています。具体的には、地方公共団体・企業・学校・病院・個人など、従来ほとんど関係なかった分野に、科学・医学研究に重要な情報が眠っていることに気がつき、そのいくつかの収集・解析を試行して見たところ、大変有用な結果を得ました。

 このようなオープンサイエンスの動きについて、次の二つはよく検討されなければならない問題です。(1)ELSI(倫理・知財・社会事項)、(2)盗聴・監視・流用

 特に(2)は最近の世界ICT会議(ダボス)で筆頭課題だったそうです。(1)は生命科学研究分野では常に考慮しなければならない問題です。

 今年のみならず、長期的に皆様どのようにお考えでしょうか?

 この新しい年が皆様にとって明るいものでありますようにお祈り申し上げます。