あっという間に2016年! 気分も新たに「今年こそ〇〇に挑戦しよう」と、決意している方も多いのではないだろうか。その候補に、ぜひ「アンチエイジング」を加えてみてはいかがだろうか。最新予防医学を活用すれば、老化のスピードを緩やかにして、見た目も中身も健康な状態を保つことができる。

 アンチエイジングといえば、女性の関心事と思いがちだが、そうではない。WHO(世界保健機関)の「世界保健統計2015」によると、平均寿命84歳の日本は世界一の長寿国だ。しかし男女別に見ると、女性は第1位なのに、男性は第6位にすぎない。日本では、女性は健康に気を遣っているが、男はそうでもないという現実がそこから見て取れる。本当にアンチエイジングが必要なのは、実は男性のほうだった!

 男には男性特有のエイジングの悩みがある。今回のテーマは男性ホルモンと認知症。認知症の半分以上を占めるアルツハイマー病は、脳の中にアミロイドβ(脳神経細胞の老廃物)やタウたんぱく質がたまっていき、それらによって脳神経細胞が死滅することで発症する。長いこと、アミロイドβがたまるのを防ぐ方法はないとされてきた。

 しかし最近の研究から、アルツハイマー病と糖尿病に深い関係があることが明らかになってきた。さらに、男性ホルモンがアルツハイマー病を抑える可能性もあるという。

2025年には700万人に達する認知症

 「絶対なりたくない病気」のアンケートを取れば、おそらく認知症はがんと一、二を争うことだろう。

 年を取れば、体力と同じように、記憶力も衰えていく。テレビで見た女優の名前がとっさに出てこないなど、いわゆる度忘れは若者でも起こる。これは認知症とは違う。

 認知症とは、「認知機能の低下によって、日常生活に支障が表れた状態を呼ぶ」と、慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室の三村將教授は定義する。

 例えば、2時間前に食べたはずの昼食の記憶がない、空間認知力が落ちて知っている道で迷子になる、問題解決能力が落ちて味噌汁の作り方がわからなくなる、といった状態だ。厚生労働省の推計によると、2012年の時点で認知症患者は約462万人いて、65歳以上の高齢者の15%を占める。2025年には700万人に達すると予想されている。

 医療現場では認知症かどうかを判断する指標として、下の「改訂 長谷川式簡易知能評価スケール」などが使われている。30点満点中20点以下だと「認知症の疑いあり」と判定される。気になる方は、ぜひ試してみていただきたい。

改訂 長谷川式簡易知能評価スケール
改訂 長谷川式簡易知能評価スケール

 認知症には、いくつか種類がある。脳梗塞や脳出血など脳の血管の病気で脳に酸素が届けられなくなった結果、脳神経細胞が死滅して起こる「脳血管性認知症」や、神経細胞にできるレビー小体という特殊なたんぱく質が大脳皮質や脳幹に蓄積して脳神経細胞が死滅する「レビー小体型認知症」、そして、認知症の中で最も多く、50%以上を占めるのは「アルツハイマー病」だ。これは脳にアミロイドβ(ベータ)などの異常たんぱくが増えた結果、脳の神経細胞が急速に壊れていくことによって引き起こされる。

 アルツハイマー病は加齢と深い関係がある。

 「60歳以上では1~2%の人が発症するが、80歳以上では20%が発症。85歳以上になると30%を超える」と三村教授は指摘する。

 アルツハイマー病はある日突然、発症するわけではない。アミロイドβなどの異常たんぱく質は、10年以上かけて脳に少しずつがたまっていく。やがて、脳神経細胞が死滅し、日常生活に支障を来たすようになる。この前段階、つまりアミロイドβはたまっていて、もの忘れはあっても日常生活は送れる状態をMCI(軽度認知障害)と呼ぶ。三村教授によると、ここから「1年間で12人に1人くらいが認知症に移行する」という。

糖尿病&予備軍はアルツハイマー発症リスクが4.6倍

 なぜアミロイドβがたまるのか、はっきりとはわかっていない。そのためアルツハイマー病の予防も難しかったわけだが、大阪大学大学院医学系研究科・臨床遺伝子治療学寄附講座の森下竜一教授らの研究グループは、アルツハイマー病と糖尿病に強い相関関係があることを明らかにした(Proc Natl Acad Sci USA.2010 Apr 13;107(15):7036-41)。

 「糖尿病のマウスとアルツハイマー病のマウスをかけ合わせたら、生まれたマウスは生後わずか2カ月でアルツハイマー病になってしまった。アルツハイマー病の人が全員糖尿病というわけではないが、糖尿病を患っていてその後にアルツハイマー病を合併する人は確実に増えている」と森下教授は指摘する。

 実際、糖尿病とその予備軍の人たちがアルツハイマー病を発症するリスクは、血糖値が正常な人に比べて実に4.6倍も高い(老年期認知症研究会誌2011;18:20-4)。

 なぜ糖尿病になるとアルツハイマー病のリスクが増すのか? 森下教授によると、その原因は「インスリン分解酵素」にある。

 食事をすると、血糖値が高くなる(血液中のブドウ糖が増える)。すると、すい臓からインスリンが分泌され、血液中の糖を筋肉などに運び込む。その結果、血液中の血糖値は下がる。このインスリンが効きにくくなった状態を「インスリン抵抗性が高まる」といい、これが糖尿病への第一ステージとなる。インスリンが効きにくくなると、血液中の糖を消すため、より多くのインスリンを分泌するようになっていく。

 余ったインスリンはインスリン分解酵素によって分解されるが、このインスリン分解酵素は脳にたまるアミロイドβも一緒に分解するという重要な役割も持っている。ところが「血中のインスリンが多いと、そっちの分解に専念しなければならず、アミロイドβまで手が回らない。その結果、脳内にアミロイドβが増えていく」と森下教授は説明する。

「夜だけ糖質制限」と運動と睡眠を

 糖尿病からアルツハイマー病が起こる――。逆に言えば、糖尿病にならないようにすればアルツハイマー病の予防にもつながる可能性があるかもしれない。

 血糖値が気になる人の糖尿病予防対策として、森下教授は「糖質制限食」を勧める。ご飯やパン、スイーツといった糖質をなるべくとらない食事法で、ダイエット効果が高いことでも有名だ。3食すべてで行うのはつらいが、「夜だけ糖質制限」ならハードルは低い。基本は、夕食にご飯やパンなど炭水化物の主食を食べないことだという。どうしても食べたいときも白米は避け、玄米、パスタ、全粒粉のパンなど、食物繊維が多く血糖値を上げにくいものを選ぶといいだろう。

 運動や睡眠も大切だ。毎日の睡眠時間が5時間を切ると、7~8時間の人に比べて糖尿病の発症リスクが2.5倍に上がるという(Arch Intern Med.2005 Apr 25;165(8):863-7)。

 最近はテストステロン(主要な男性ホルモン)と認知症の関係も注目されている。テストステロンには「アミロイドβの蓄積を抑える」作用があるのだ(Brain Res Rev.2008 March;57(2):444-53)。

本来、男性はアルツハイマー病になりにくい

 国内では東京大学大学院医学系研究科加齢医学講座の秋下雅弘教授らが、テストステロン値の低い認知症の男性たちに6カ月間テストステロンを与え、認知力が改善したことを確認している。認知症の男性24人を2グループに分け、一方にだけ1日40mgのテストステロンをのませた。テストステロンをのんだ人たちは前出「改訂 長谷川式簡易知能評価スケール」の点数が高くなっていた(グラフ参照)。

 もともとアルツハイマー病は女性のほうがなりやすく、三村教授によると「患者の男女比は女性が倍近く多い」という。男性がなりにくいのは、もしかするとテストステロンのお蔭なのかもしれない。

 この連載の第1回で、テストステロン値が低い人は太りやすく、糖尿病にもなりやすいことを紹介した。BMI(身長と体重の比率から肥満度を見た体格指数)の増加に応じてテストステロン値が下がることもわかっている(Diabetes Care.2010 Jun;33(6):1186-92)。テストステロンと糖尿病、アルツハイマー病と糖尿病がそれぞれつながっていれば、テストステロンとアルツハイマー病に関係があっても納得できる。

 食事、運動、睡眠といった生活習慣によって、テストステロン値は大きく変動する。糖尿病やアルツハイマー病を防ぐためにも、テストステロン値をキープする健康的な生活を心がけよう!

(次回に続く)

『男こそアンチエイジング』伊藤和弘・著

アンチエイジングが本当に必要なのはオトコのほうです

 迫り来る加齢に男はどう立ち向かったらいいのか。AGA、ED、老眼、前立腺がん、男性ホルモン低下、ドライマウス、オヤジ臭、シミ・シワ、尿漏れ、かくれ肥満、ドライアイ──。中年男性特有のテーマに対して最新予防医学はどんな答えを持っているのか? 抗加齢研究の第一線で活躍している医師に徹底取材し、その答えをまとめたのが本書『男こそアンチエイジング』(日経BP社発行、1500円+税)です。

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