福島第一原発事故から5年を迎えた。いまだ様々な問題が山積する中で、大きな岐路に差し掛かっているのが「核燃料サイクル」問題だ。燃料サイクルの前提であった高速増殖炉計画は実現のめどが全く立たず、八方ふさがりの状況に陥っている。現状を打開するにはどうすればいいのか? 東日本大震災と福島原発事故の発生に伴い、内閣官房参与に就任。原発事故対策、原子力行政改革、エネルギー政策転換に取り組んだ多摩大学大学院教授の田坂広志氏に聞いた。

(聞き手は米田勝一)

前回の記事から読む)

核燃料サイクル政策とは「大型タンカー」

前回、我が国の核燃料サイクル政策が転換できないのは、「余剰プルトニウム」「使用済み燃料の貯蔵」「立地自治体からの反発」といった諸問題が複雑に絡み合って、がんじがらめになり、政策の柔軟な切り替えができない「政策的ロックイン」の状況が生まれてしまっているからだとうかがいました。では、そうした状況において、どうすれば、核燃料サイクル政策を転換できるのでしょうか? 

<b>田坂 広志(たさか・ひろし)</b><br/ >多摩大学大学院教授/シンクタンク・ソフィアバンク代表。1951年生まれ。74年東京大学卒、81年同大学院修了。工学博士(原子力工学)。2000年、多摩大学大学院教授に就任。同年、シンクタンク・ソフィアバンクを設立。2011年、東日本大震災に伴い、内閣官房参与に就任。原発事故対策、原子力行政改革、エネルギー政策転換に取り組む。
田坂 広志(たさか・ひろし)
多摩大学大学院教授/シンクタンク・ソフィアバンク代表。1951年生まれ。74年東京大学卒、81年同大学院修了。工学博士(原子力工学)。2000年、多摩大学大学院教授に就任。同年、シンクタンク・ソフィアバンクを設立。2011年、東日本大震災に伴い、内閣官房参与に就任。原発事故対策、原子力行政改革、エネルギー政策転換に取り組む。

田坂:「政策的ロックイン」の状況に陥っている核燃料サイクル政策を転換するには、次に述べる6つの政策を並行的に進める「政策転換の戦略」を採る必要があります。

(1)「核燃料サイクル」の政策全般について
(2)「使用済み燃料の長期貯蔵」の政策について
(3)「使用済み燃料の再処理」の政策について
(4)「余剰プルトニウム」の政策について
(5)「高速増殖炉」の政策について
(6)「放射性廃棄物の最終処分場」の政策について

 それぞれ、順に説明していきましょう。

 まず、「核燃料サイクル」の政策全般については、基本的に、核燃料サイクル政策を「一挙」に転換するのではなく、時間をかけて「徐々」に転換していくべきでしょう。そうでなければ、前回述べたような様々な問題が一挙に噴出して、収拾がつかなくなります。

 しばしば、核燃料サイクル政策の転換は、「タグボート」ではなく、「大型タンカー」の舵を切ることにたとえられます。すなわち、タグボートであれば、小回りが利くため、一挙に方向転換ができますが、大型タンカーの場合は、小回りが利かないため、徐々に舵を切っていかないと、方向転換ができないからです。

 この方向転換の第一歩は、核燃料サイクル政策の要である「高速増殖炉計画」が、まだ、実用化段階にはほど遠く、いまだ研究開発段階であることを認め、将来の核燃料サイクルの実現の可能性は残しつつも、「使用済み燃料の再処理→MOX燃料の高速増殖炉での燃焼」のシナリオを急がなくとも良い「柔軟な政策」に切り替えることです。

 そして、そのためには、この時期に、核燃料サイクル政策と並行して、再処理を行わず使用済み燃料を直接、最終処分する「ワンス・スルー政策」の選択肢を導入し、将来、どちらの政策でも対応できるようにすることが必要です。

 このワンス・スルー政策を、核燃料サイクル政策との「両論併記」の形でも良いので導入しておけば、高速増殖炉計画や再処理計画の実現が遅れても、その状況に柔軟に対応できます。

核燃料サイクルとは、原子力発電で生じる使用済みの核燃料を再処理し、核燃料として再び使用するための一連の流れ。再処理は、使用済み燃料を化学処理した上で、ウラン、プルトニウムと高レベル放射性廃棄物に分離し、ウラン、プルトニウムを再び燃料として利用するための工程。

高速増殖炉もんじゅは、再処理されたウラン、プルトニウムを使用して発電する「夢の原子炉」として計画が進められたが、その後に起こった度重なるトラブルにより、現在、稼働のめどが立っていない。

一方、「ワンス・スルー」は、使用済み核燃料を再処理せず、そのまま最終処分する。そのため、再処理工場や高速増殖炉は不要となる。

使用済み燃料の長期貯蔵施設の実現が、最大の鍵

では、第2の「使用済み燃料の長期貯蔵」の政策については、どうするのでしょうか?

田坂:実は、このワンス・スルー政策導入の要となるのが、「使用済み燃料の長期貯蔵施設」です。

 前回、全国の原発サイトの使用済み燃料貯蔵プールは、平均70%程度の満杯率になっていると言いましたが、青森県六ケ所村の再処理工場に付設された使用済み燃料貯蔵プールも、ごく近い将来、満杯に達することを考えるならば、全国の原発サイトや再処理工場サイトの外での使用済み燃料長期貯蔵施設を実現することは、今後の政策的柔軟性を確保するためには、極めて重要です。

 なぜなら、原発サイトや再処理工場サイト外での大規模な使用済み燃料長期貯蔵施設が実現するならば、「再処理工場計画の遅れ」「高速増殖炉計画の遅れ」「最終処分場計画の遅れ」のいずれの状況に対しても、柔軟に対応できるようになるからです。

 この「計画の遅れ」という問題は、現実に起こっています。再処理工場は、これまで23回、稼働延期になっていますし、高速増殖炉もんじゅは、20年間、まともに稼働していません。そして、地層処分場(ガラス固化した高レベル放射性廃棄物や容器に収納した使用済み燃料を地下深くの安定した地層に埋める施設)についても、2002年から候補地を探してきて、いまだに見つかっていないのです。

 その意味で、日本の原子力政策は、過去、何度も楽観的な計画を打ち上げ、その計画がうまく進まないため、何度も、計画の見直しを余儀なくされてきたわけです。

 一部には、こうした状況を「ミラージュ計画(蜃気楼計画)」と揶揄する向きもあります。あたかも砂漠の蜃気楼のように、近づいてみると、また遠くに逃げていくという意味です。そうした揶揄はともかく、こうした「楽観的な計画→計画の遅延→その場しのぎの弥縫策」ということを続けていると、我が国の原子力政策と原子力産業は、国民からの信頼を失ってしまうでしょう。

 その意味で、再処理工場、高速増殖炉、最終処分場のいずれの計画も、今後も計画が遅延する可能性を考慮して、柔軟な対策を打っておく必要があります。その対策の要が、使用済み燃料長期貯蔵施設です。

その使用済み燃料長期貯蔵施設は、十分な安全が確保できるのですか?

田坂:この使用済み燃料長期貯蔵施設には、原発サイトの貯蔵で使われる「水冷プール方式」ではなく、極めて強固な金属製容器(キャスク)に収納して貯蔵する「乾式キャスク方式」が適しているでしょう。この乾式キャスク方式であれば、十分な安全性を確保したうえで100年程度の貯蔵は容易です。必要であれば、300年の貯蔵も技術的には可能です。海外では、貯蔵キャスクに対する航空機衝突まで想定し、安全性が確認されています。

しかし、その「乾式キャスク貯蔵」が技術的に十分に安全であるとしても、そうした使用済み燃料長期貯蔵施設を受け入れる地域があるでしょうか?

田坂:国内のどこかの地域に、その施設を受け入れてもらうための絶対的な条件は、この施設が「放射性廃棄物の最終処分施設」ではないこと、従って、最終処分は、この地域の外で行うことを確約することが必要です。それ抜きには、地元の人々や自治体の了解を得ることはできないでしょう。

 しかし、それでも、この施設の受け入れに難色を示す地域は多いと思います。そのときの政策的方法については、後ほど、改めて述べたいと思います。

 ただ、一点付け加えておきますと、この使用済み燃料長期貯蔵施設は、再処理によってウランやプルトニウムという核燃料を取り出し、これを高速増殖炉や軽水炉で燃やすという政策が存在しているかぎり、「廃棄物の貯蔵施設」ではなく「エネルギー資源の貯蔵施設」でもあるということです。

 このことは、今後の核燃料サイクル政策転換のプロセスにおいて、重要な意味を持つことなので、付け加えておきます。

再処理計画はスローダウンしつつも、当面、維持する

では、第3の「使用済み燃料の再処理」の政策については、どうするのでしょうか?

田坂:もんじゅプロジェクトをはじめとする高速増殖炉計画が、現実として、今世紀の後半まで実用段階に入れないことを考えるならば、使用済み燃料の再処理を行うことによって発生するプルトニウムは、当面、高速増殖炉の燃料として使えません。

 従って、これ以上「余剰プルトニウム」を抱えないためには、必然的に、使用済み燃料の再処理計画も、スローダウンさせていく必要があります。

 ちなみに、この問題に対して、「再処理で回収したプルトニウムは、高速増殖炉が動いていなくとも、プルサーマル方式で、軽水炉で燃料として燃やしていけばよい」と主張される方もいますが、この方式は、燃料としてのコストが高いこと、現在の軽水炉で燃やせる量には限界があることから、再処理で大量に回収されるプルトニウムの燃やし方としては、現実的ではありません。

「プルサーマル方式」とは、原子炉で使用した後の使用済燃料を再処理して取り出したウランとプルトニウムを混ぜた燃料(MOX燃料)を、現在の原子力発電所(軽水炉)で使うこと。

再処理計画を中止にした方が現実的に思えますが。

田坂:再処理計画をただちに中止してしまうと、前回も述べたように、再処理のために青森県に搬入した使用済み燃料を原発サイトに返還することになり、大きな混乱を招きます。それを避けるために、再処理計画そのものは、使用済み燃料長期貯蔵施設が稼働し始めるまで、スローダウンしつつも、一定限度、維持することが必要になります。

それでも、再処理計画そのものは、早晩、中止ということになっていくのではないでしょうか?

田坂:それは、今後の核燃料サイクル政策をめぐる政策的判断によります。当面は、核燃料サイクル政策とワンス・スルー政策の両方の選択肢が可能な形で進むべきと思いますが、最終的に核燃料サイクル政策をやめるという判断になったとき、再処理計画もやめることになります。

 逆に、将来、使用済み燃料からウランやプルトニウムなどを取り出して軽水炉や高速増殖炉の燃料として使うという選択肢を残すのであれば、再処理計画は維持されることになります。この場合には、先ほども述べたように、使用済み燃料長期貯蔵施設は、「廃棄物の貯蔵施設」ではなく、「エネルギー資源の貯蔵施設」としての位置づけになります。

 また、核燃料サイクル政策をやめるという判断になったときも、次の二つの理由から、再処理計画を残す可能性はあります。

 一つは、将来の地層処分や最終処分を見据え、高レベル放射性廃棄物の「減容対策技術」として、再処理技術を活用する場合です。いわゆる、放射性廃棄物の体積や容量を低減させる技術としての活用です。

 もう一つは、福島第一原発の廃炉に伴って発生するデブリなどの厄介な放射性廃棄物の「処理技術」として活用する場合です。デブリとは、炉心のメルトダウンに伴って生じた、核燃料と高レベル放射性廃棄物、さらには、圧力容器や格納容器、コンクリート壁の一部が一緒に溶けて融合したものです。

余剰プルトニウムは、英仏に保管を委託する選択肢も

では、第4の「余剰プルトニウム」の政策については、どうするのでしょうか?

田坂:いま述べたように、再処理計画をスローダウンすることによって、使い途の無い余剰プルトニウムが大量に発生し、国内に保管されるという状況は回避されますが、すでに国内に存在する11トンのプルトニウムの問題があります。これについては、少しコスト高になりますが、従来の「プルサーマル計画」を拡充し、MOX燃料として従来の原発(軽水炉)で、少しずつ燃やしていくことが一つの方法でしょう。

 一方、現在、イギリスとフランスに存在する日本保有の36トンのプルトニウムについては、この両国に売却譲渡するか、コストを負担して委託保管してもらう方法が考えられます。この場合、この両国は、すでに核兵器保有国ですので、核不拡散の観点からの国際的懸念は生じません。また、場合によっては、国内に存在するプルトニウムについても、こうした形で、この両国に売却譲渡や委託保管してもうらうことも選択肢になるでしょう。

使用済み燃料の再処理を行うと、ウランだけでなくプルトニウムが回収される。プルトニウムは「核兵器の原料」にもなるため、そのまま国内で保有すると、海外から「核兵器への転用」を疑われてしまう可能性がある。日本は、回収後、速やかにMOX燃料に加工して高速増殖炉で燃料として燃やすことを国際的に約束し、その前提の下で国内に11トンのプルトニウムを保有している。

 いずれにしても、余剰プルトニウムに対しては、こうした政策を取ることにより、海外からの「プルトニウムの核兵器への転用懸念」に対し、適切な説明ができるようにするべきでしょう。

高速増殖炉は「廃棄物専焼炉」としての活用も

では、第5の「高速増殖炉」の政策については、どうお考えですか?

田坂:いま述べた「余剰プルトニウム」についての政策を採ることにより、プルトニウムを燃やすために高速増殖炉の実用化を急ぐ必要は無くなります。

 従って、高速増殖炉計画については、もう一度、研究開発段階に戻し、十分な安全性を確保しつつ、長期的視点で研究開発を進めていくことが一つの選択肢でしょう。ただし、この場合も、現在の「もんじゅ」を活用するかどうかについては、慎重な判断が必要です。

 そして、この研究開発の目的は、高速増殖炉の「発電炉」としての可能性を探るものだけでなく、廃棄物中の超長半減期の放射性核種を「核転換」によって減少させる「廃棄物専焼炉」としての可能性を探るものとするべきでしょう。

 また、この高速増殖炉の研究開発計画を進めていくためには、昨年11月の原子力規制委員会の勧告を踏まえ、日本原子力研究開発機構以外に、十分な能力を有した「運営主体」を設置する必要がありますが、この場合、現在も高速増殖炉計画を進めているフランスなどと共同して、「国際共同研究機関」を設置するという選択肢もあると思います。

NIMBY心理が壁となる放射性廃棄物の最終処分

では、第6の「放射性廃棄物の最終処分場」の政策については、どうするのでしょうか?この問題が、最もハードルが高いようにも思えます。

田坂:高レベル放射性廃棄物や使用済み燃料の最終処分計画については、当面、世界の主流である「地層処分」を選択肢として、国の計画に従って「地層処分場」の選定を進めていくことになると思います。

 しかし、現実には、米国やイギリス、フランスやドイツをはじめとする、多くの原発先進国が、住民や国民の反対によって、数十年にわたって地層処分場の選定ができないという現実を考えるならば、我が国においても、長期にわたり地層処分場の選定ができないことを想定しておく必要があるでしょう。

なぜ、それらの原発先進国においては、地層処分場の選定ができないでいるのでしょうか?

田坂:これらの国で反対の声が大きくなる最大の理由は、社会心理的な問題です。分かり易く言えば、「NIMBY心理(Not In My Backyard=我が家の裏庭には捨てるな)」と呼ばれる社会心理が強くあるためです。そのため、実際に地層処分場を決めようとすると、その地域周辺の住民の強い反対で、実現ができなくなるのです。

世界的に見て、地層処分が進んでいる例はないのですか?

田坂:フィンランドのオルキルオトでは、オンカロと呼ばれる施設で、実際に使用済み燃料の地層処分が実施されようとしています。また、スウェーデンのフォルスマルクでも、地層処分計画が進んでいます。

 ただ、この二つの国で地層処分計画が進展している最も大きな理由は、国民の中に「公共意識」が強いからです。すなわち、自分達が「原子力エネルギー」の恩恵に浴したのであれば、その結果出てくる「放射性廃棄物」についても、その最終処分の方法を、国民全体で責任を持って考え、解決策を見いだしていこうという公共意識が強いからです。フィンランドやスウェーデンなどの北欧諸国では、こうした公共意識は、初等教育の時代からしっかりと育まれているので、国民や地域住民の「NIMBY心理」が障害になることが比較的少ないのですね。

日本の場合、NIMBY心理を背景に地層処分計画が壁に突き当たる可能性が高いように思います。そうなったときには、どのような選択肢がありえますか?

田坂:その場合には、2012年の日本学術会議の提言を参考にしつつ、高レベル放射性廃棄物や使用済み燃料の「数十年を超える長期貯蔵」が選択肢として浮かび上がってくると思います。言葉を換えれば、この長期貯蔵によって十分な時間を確保しつつ、引き続き、国内での地層処分の可能性を探り、同時に、それ以外の最終処分の方法を検討していくべきでしょう。

それ以外の最終処分の方法とは?

田坂:「国内での地層処分」以外の選択肢としては、「国際的な共同による地層処分」や「核転換技術による消滅処分」、さらには「宇宙処分」などの選択肢も検討していくことになるでしょう。

 いずれにしても、国内での地層処分計画が壁に突き当たったとき、先ほど述べた「使用済み燃料の長期貯蔵施設」が実現されていれば、時間をかけて解決策を見いだすという、柔軟な政策を取ることができるのです。

「受益者負担」の原則にもとづく放射性廃棄物問題の解決へ

しかし、「最終処分場」はもとより、「長期貯蔵施設」に対しても、大きな反対の声が上がる可能性が高いのではないでしょうか?

田坂:その場合には、もとより容易な方法はありませんが、これまで、一つの政策的方法が提唱されています。この政策は、少し過激な政策に聞こえるかもしれませんが、本来の放射性廃棄物の貯蔵と処分の在り方を考えて頂くために、あえて、紹介したいと思います。

 それは、「受益者負担の原則」にもとづいて「使用済み燃料の貯蔵施設建設」を各都道府県に求めることを、法律的に定めることです。

 分かり易く言えば、各都道府県が過去において「原子力発電の電力を利用した割合」に応じて、その原子力発電によって発生した使用済み燃料の貯蔵に責任を持つ、という法律を定めることです。

 これが、「受益者負担」の原則による「廃棄物受け入れ」の法律論です。

しかし、その法律に従えば、過去において、福島原発も含めた原発電力に大きく依存し、人口密度の高い東京都は、かなりの使用済み燃料を受け入れることになりますが…。

田坂:たしかにそうですが、同時に、この法律において、「ただし、各都道府県が協力し合って集中貯蔵施設を建設することを、国は全面的に支援する」ということをうたうのです。

 この条項によって、現実には、大都市の東京都や大阪府に使用済み燃料の貯蔵施設を建設することを避けるという道も開けます。

そうした法律が、現実に成立すると思われますか?

田坂:現実的には、かなり難しいと思います。ただ、この政策的提案は、我々に、「受益者負担の原則」というものを思い起こさせてくれるという意味で、一度、議論をしてみる価値はあると思います。

 なぜなら、好むと好まざるとに関わらず、我々は、過去、原子力発電の恩恵に浴しており、その発電の結果、現実に、目の前に使用済み燃料や放射性廃棄物が発生しているわけです。

 それらの使用済み燃料や放射性廃棄物をどうするかという問題を、我々国民が、一人ひとりの問題として考えることをしなければ、「NIMBY心理」の広がりの前に、どの地域も使用済み燃料や放射性廃棄物を受け入れることをせず、結果として、「現在、使用済み燃料と放射性廃棄物を抱えている地域」が、未来にわたって、それを抱え続けることになってしまいます。

 その不条理を避けるためにも、一度、この使用済み燃料と放射性廃棄物の問題は、我々国民一人ひとりが、「どこか遠くの地域の問題」として眺めるのではなく、「自分の問題」として考えてみるべきと思います。

 その意味で、この過激と見える政策提言は、一度、議論をしてみる価値があるでしょう。

「原発維持」「脱原発」の立場を超えて

最後に、これまで聞かせていただいた話は、「原発維持」「脱原発」といういずれ下されることになる最終結論とは関係なく、現状の八方塞がりの状態を打開するための政策論ということですね。

田坂:そうです。現在「政策的ロックイン」の状況に陥っている核燃料サイクル政策を、問題の噴出を最小限に抑えながら転換していくためには、この「政策転換の戦略」にもとづき、以上述べた「6つの政策」を並行的に進めていく必要があります。

 ここまで繰り返し述べてきたように、すでに現実性を失ってしまっている核燃料サイクル政策を転換し、いま、現実的なワンス・スルー政策の選択肢を導入しておくことは、 「原発維持」「脱原発」という立場を超え、「目の前の現実」に対処していくために、避けることのできない課題と思います。

 高速増殖炉もんじゅの問題は、「原発維持」を考える方にとって、現在の核燃料サイクル政策一本槍で、国民に対して、現実的な説明がつくのか、国民に納得してもらえるのか、それを一度、深く考えてみる機会かと思います。

 また、「脱原発」を考える方にとっては、仮に明日、脱原発の政権が誕生したとしても、避けがたく「目の前に立ちはだかる問題」、すなわち、余剰プルトニウムの問題、使用済み燃料の貯蔵の問題、放射性廃棄物の最終処分の問題に対して、どう対処していくのか、その現実を考える機会かと思います。

 「原発維持」か「脱原発」か、最後にその選択をするのは、国民一人ひとりと思います。ただ、国民に、その選択を求めるためには、「徹底的な情報開示」と「柔軟な政策的選択肢」が不可欠です。

 私の提言が、その「柔軟な政策的選択肢」を考えるための一助となれば幸いです。

まずは会員登録(無料)

登録会員記事(月150本程度)が閲覧できるほか、会員限定の機能・サービスを利用できます。

こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

この記事はシリーズ「キーパーソンに聞く」に収容されています。フォローすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。