日経ビジネス1月18日号特集「無気力社員ゼロ計画」の連動企画。掲載号が店頭に並んだ1月18日、首都圏では雪の影響で朝から一部の交通網が麻痺。いくつかの鉄道路線では大混乱に陥り、「いつもは30分の通勤時間が3時間もかかった」といったケースが相次いだ。こうした事態に直面した際、社員の心身の負担と業務への影響を最小限に抑えるために、企業は何をすればいいのか。被害を未然に防いだある企業のケースを紹介する。

 1月18日の午前6時45分。パッケージソフトを開発するインフォテリア本社で働く全社員に1通のメールが届いた。同社の平野洋一郎社長からだ。

1月18日朝、インフォテリアの平野洋一郎社長が全社員に送ったメール
1月18日朝、インフォテリアの平野洋一郎社長が全社員に送ったメール

「今朝の東京は、降雪で交通機関がかなり影響を受けているようです。 また首都圏全域で大雪注意報(一部警報)が出ています。今日のオフィスへの出勤に大きな支障がある場合は、各自上長と連絡をとり、業務に支障がないことが確認できれば、積極的にテレワークを選択してください。上長の了解があれば、午前中のみなど、時間限定のテレワークもOKです」

 東証マザーズにも上場するインフォテリアの本社は、東京都品川区のJR大井町駅の近く。平野社長は現在、東南アジアへの事業展開のためにシンガポールに常駐している。シンガポールと東京の時差は1時間。このメールを送ったのは、現地時間では朝の5時45分ということになる。

 前の日から、天気予報などで翌朝の通勤のことが気になっていたという平野社長。18日は早朝からフェイスブックやツイッターなどで日本の状況をリアルタイムでチェックしていた。多くの社員が会社にたどり着くのが難しくなる可能性が高いと判断し、いち早くメールを送ったのだ。

シンガポールに常駐するインフォテリアの平野洋一郎社長
シンガポールに常駐するインフォテリアの平野洋一郎社長

 平野社長は「日本では、雪の中頑張って会社に出たことを評価する風潮があるのかもしれない。ただ、我々の仕事は単純作業ではなく創造性が必要で、心の持ち方がアウトプットに大きく影響する。時間と労力をかけてオフィスに来るよりも、場所はどこであれ効率よく仕事をしてもらいたかった」と話す。

 結局、その日は本社で働く約50人のうち、18人が自宅などでの仕事を選択した。通勤に支障がない社員は通常通り出勤し、混乱が続いた鉄道沿線に住む社員は、早い段階で自宅勤務に切り替えた。

カギを握る平時の働き方

 あの日、首都圏の多くの駅や鉄道路線で大混乱に陥ったのは、「とりあえず会社に行かなくては」と多くのビジネスパーソンが考え、行動したためである。インフォテリアのように、早い段階で自宅待機などの指示があれば、あれだけの混乱は避けられた可能性が高い。

 平野社長が即決できたのは、インフォテリアが普段から、会社以外の場所で仕事をする「テレワーク」の導入に取り組んできたからでもある。

 2011年3月の東日本大震災後、緊急時に社員の安全確保を優先しつつ業務を継続することを目的に、テレワークなど柔軟な働き方を積極的に取り入れてきた。社員に配布しているタブレットなどを使い、ネット経由で会議することも当たり前になっている。

 2015年8月からは、最高気温35度以上が予想される日にはテレワークを推奨する制度も開始。当日の天気予報で最高気温が35度以上になると、社員に自動的にメールが送られる仕組みを作っている。

 テレワークのような制度をうまく運用するための条件として、平野社長は「役職の上の人間が実践すること。会社に出ないことで申し訳なく思ったり、評価が下がるではないかと不安がったりすると、使いにくくなる」と言う。18日も、本部長クラスでもテレワークに切り替え、社内の会議に自宅から参加した社員もいた。

 最近では多くの企業が在宅勤務制度などの導入を進めている。ただ、制度だけ用意しても、経営者が日頃から柔軟な働き方や生産性について意識していなくては機能しない。平野社長は雪とは無縁のシンガポールにいながらも、東京の状況にきちんと配慮していたことで、18日も素早く決断できた。

 「無理して会社に出なくてもいいようにすべきだ」。1月18日、混乱に巻き込まれた当事者も、駅での大混雑などを映像などで見た人も、誰もがそう思っただろう。ただ、首都圏の交通網が大雪で影響を受けるのは年に1回あるかどうか。1月18日の「悲劇」も、何ら対策がないまま忘れられかねない。同じ混乱を繰り返さないためにも、個々の企業レベルで実行できることがあるはずだ。

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