第1回から第3回までは、主に「国」対「国」のマクロな産業競争力の観点から、日本の自動車産業のポジションを考察してきた。今回からは、よりミクロな視点から「自動車ビジネス」について考える。そのためにまず、自動車ビジネス=自動車メーカーの持つ本質的価値について整理してみる。

自動車ビジネスとエレクトロニクスビジネスの違い

 電気自動車(EV)や自動運転などの自動車の電子電動化・つながる化が進む中で、よく尋ねられるのが「自動車産業がエレクトロニクス産業化(≒コモディティ化)するのではないか?」というものである。ここで言うエレクトロニクス産業が何を指すのかという問題はあるが、自動車ビジネスとエレクトロニクスビジネスの本質的な違いは、以下の三つに集約される(図1)。

図1 自動車ビジネスとエレクトロニクスビジネスの違い
図1 自動車ビジネスとエレクトロニクスビジネスの違い
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 一つ目の違いは、自動車ビジネスにおいて最終製品(完成車)の販売価格が下がらないことである。図2に代表的な車種(トヨタ自動車のカローラ)における販売価格の推移を見ると、数十年にわたってインフレ率以上にはほとんど価格下落が起こっていないことがわかる。これは、年率2桁以上のペースで価格下落に見舞われてきたパソコンや液晶テレビなどのデジタル家電と比べると驚異的なことである(図2)。

図2 自動車モデルの価格推移(カローラ、インフレ率と比較)
図2 自動車モデルの価格推移(カローラ、インフレ率と比較)
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 その最大の要因は、自動車メーカーがグローバルな販売・サービス網を含めて、開発・製造・販売にわたる垂直統合型のビジネスモデルを基本的に維持してきたのに対して、エレクトロニクスメーカーは販売の主体を自社の系列店から量販店へとシフトしたことにある。その結果、顧客接点を持つ販売店と開発・生産投資をするメーカーとの力関係が逆転し、自社製品に対する価格の決定権を失ったのである。