IT長者らがクリーンエネルギー巨額支援、COP21

マイクロソフト、アマゾン、フェイスブック創立者を含む28名で

2015.12.03
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北海に設置された英国の洋上風力発電所「ロンドンアレイ」。気候変動をめぐる国際的目標を達成させるには、このような風力エネルギーへの投資拡大が必要であるとして、IT長者らによるグループが資金の拠出を発表した。
北海に設置された英国の洋上風力発電所「ロンドンアレイ」。気候変動をめぐる国際的目標を達成させるには、このような風力エネルギーへの投資拡大が必要であるとして、IT長者らによるグループが資金の拠出を発表した。
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 今週から2週間にわたってフランス・パリで開催されている国連気候変動枠組み条約 第21回締約国会議(COP21)の初日、マイクロソフト社の創立者ビル・ゲイツ氏は、10カ国28人から成る民間投資家グループ「ブレイクスルー・エネルギー・コアリション」の設立を発表した。目的は、地球温暖化の原因となる化石燃料から温室効果ガスの出ないクリーンなエネルギーへ移行しようとする政府の取り組みを支援することである。

「テクノロジーが、エネルギー問題を解決へ導くことはできます。しかし、今の政府の資金だけでは、目の前にある課題へ取り組むには全く足りていないというのが現状です」とグループのウェブサイトには書かれている。そして、「長期的に関わっていくことを誓った、これまでにないタイプの投資家」となることを約束している。

 ゲイツ氏のブログによると、参加する投資家は、研究室で開発されたクリーンエネルギーのアイデアを実用化することで利益を得る。2050年までに世界のエネルギー需要は50%増加すると見られており、太陽光エネルギーと風力発電によってこの需要を満たせるかもしれないが、その他の技術も必要になってくるという。

20カ国が参加するプロジェクトと連携

 具体的な投資先として挙げられているのは、どんな物の表面でも太陽光パネルに変身させられるソーラー塗料、電力網規模の大きなエネルギーを貯蔵できるフロー電池、太陽光から燃料を作り出す太陽光化学薬品などである。向こう5年間で、ゲイツ氏は私財から20億ドルを拠出することを約束した。その中には、自らが所有するスタートアップ企業テラパワー社が中国で売り込み中の最新型原子炉への投資も含まれている。(参考記事:「画期的な蓄電池を開発、住宅用にも 米ハーバード大」

 フェイスブックの創立者マーク・ザッカーバーグ氏も、自社の巨大データセンターで使用する電力に占める再生可能エネルギーの割合を増加させており、アマゾン創立者ジェフ・ベゾス氏は、30分以内に荷物を送り届けることのできる新たな省エネ型のドローンを発表した。

 他にも、慈善家のジョージ・ソロス氏、バージン・グループ創立者リチャード・ブランソン氏、ヒューレット・パッカード最高経営責任者メグ・ホイットマン氏、気候変動活動家トム・スタイヤー氏、アリババの会長ジャック・マー氏、そしてタタ・グループ創立者のラタン・タタ氏が参加している。

 同グループは、気候変動会議に合わせて発足した「ミッション・イノベーション」と連携して投資を進める。20カ国が参加するミッション・イノベーションは、クリーンエネルギーの研究開発への各国の投資を、向こう5年間で倍の200億ドルまで増加させる。その約半分ほどが米国からの投資で占められる予定で、他にも中国、インド、インドネシア、ブラジルといった世界で最も多くの人口を抱える4カ国も参加している。(参考記事:「日本は後ろ向き? 各国の温暖化ガス対策を採点」

それでも足りない

 とはいえ、専門家からは二酸化炭素を排出する石炭、石油、天然ガスへの依存度を減らすことは緊急課題であり、これよりもはるかに莫大な投資が必要であるとの声が上がっている。国際エネルギー機関(IEA)によれば、地球の気温上昇を産業革命以前と比較して2℃以内にとどめるという気候変動会議の目標を達成させるには、2014年には2700億ドルだった再生可能エネルギー技術への投資額を、2030年までに4000億ドルへ増加させなければならないという。

 今のところ、実際の投資は大きく後れを取っている。気候変動会議が開かれる前、先進国は2020年まで年間1000億ドルを投じて、途上国の気候変動への適応や、クリーンエネルギー導入の支援を行う方針を掲げていたが、経済協力開発機構(OECD)によると、昨年は官民合わせて620億ドルを、2013年には520億ドルを動かすにとどまった。

 一方で、米国の保守派政治家からはこうした努力へ疑問を呈する声も上がっている。裕福な投資家たちが、オバマ政権によるクリーンテクノロジーへの政府補助金から利益を得ているのではないかというのだ。共和党で気候変動説否定派のジェームズ・インホフ上院議員(オクラホマ州選出)が委員長を務める上院環境・公共事業委員会は昨年、「環境問題をめぐる命令系統:億万長者クラブとその基金は、いかにして環境運動とオバマ大統領による環境保護庁を操っているのか」と題された報告書を作成した。インホフ氏は、石油で巨大な利益を得ているコーク・インダストリーズのコーク兄弟からこのキャンペーンのための寄付を受けとっている。(参考記事:「共和党勝利、環境政策への影響は?」

 ブレイクスルー・エネルギー・コアリションには、カリフォルニア大学の最高投資責任者も名を連ね、「どこで最高のアイデアが生まれるかはわからない」として、農業や運輸など多岐にわたって投資を行っていく方針だ。

文=Wendy Koch/訳=ルーバー荒井ハンナ

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