群馬大学大学院 理工学研究院 知能機械創成部門 客員教授(元 富士重工業 スバル技術研究所 プロジェクトジェネラルマネージャー)の松村修二氏
群馬大学大学院 理工学研究院 知能機械創成部門 客員教授(元 富士重工業 スバル技術研究所 プロジェクトジェネラルマネージャー)の松村修二氏
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 次世代自動車開発の中で、電気自動車(EV)の存在感が増している。欧米を中心にEVの開発は加速しており、日本でもEV技術の基礎について習得を望む声は日増しに高まっている。「技術者塾」において「クルマのプロから学ぶEV&PHEV講座」を持つ、群馬大学大学院理工学研究院知能機械創成部門客員教授(元富士重工業スバル技術研究所プロジェクトジェネラルマネージャー)の松村修二氏に、EV技術の基礎を学ぶ理由やポイントについて聞いた。(聞き手は近岡 裕)

──小さなEV、「マイクロEV」を題材にEVの基礎を学ぶ松村先生の講座が人気です。EVの基礎を学ぶことは今、なぜ求められているのでしょうか。

松村氏:エンジン車一辺倒だったクルマのパワートレーンに今、大きな変化が訪れています。ご存じの通り、ハイブリッド車(HEV)が「普通のクルマ」として十分普及し、特に日本では売れ筋の人気車種となりました。しかも、自動車メーカーはHEVに飽き足らず、その先にプラグインハイブリッド車(PHEV)を見て開発を進めています。

 確かに、HEVの販売台数に比べると純粋なEVの販売台数は少ないと言えます。日本にいると特にそう感じるかもしれません。しかし、世界に目を転じると欧米を中心に販売台数が拡大しています。2025年のEVの生産台数は、2014年と比べて実に11倍に増えると予測する調査会社もあります。

 そして何より、技術者として押さえておきたいのは、こうしたクルマの変化の「本質」です。エンジン車からHEV、そしてPHEVへの変化の本質は「EV化」であるということです。HEVはエンジンとモーターを組み合わせたものですが、多くの自動車メーカーがモーターだけで走れる距離、いわゆる「EV走行距離」を延ばしています。EV走行距離とは、満充電時にEVとして走行できる距離のことです。PHEVでも、EV走行距離が50~100km程度に達するモデルが増えています。これだけあれば、通勤や通学、買い物といった近距離用途だけでなく、ちょっとした旅行も可能な距離です。EVでは、航続距離が200マイル、すなわち約320kmが標準的な開発目標になりつつあります。

 確かに、エンジンも高効率化が進んでいますし、まだまだクルマのパワートレーンの“主役”であり続けることでしょう。しかし、その一方でEV化も急速に進んでいる。事実、ドイツの自動車メーカーを中心に、現在、水面下でPHEVの開発が加速しています。これにより、自動車産業の構造も大きく変わりつつあります。そう遠くないうちに、EVを電機メーカーなどが製作し、家電製品のように販売することも可能になるかもしれません。

 こうした変化の本質を捉えれば、「EVの基礎」を知っておくことが極めて重要であることが分かるでしょう。EVの基礎を押さえておけば、企業として先を見た開発や投資ができるようにもなるはずです。

 2015年2月に、米Apple社がEVに新規参入するというニュースが世界を駆け巡りました。Apple社の動きは未来を予見したものかもしれません。

自動車として必要な性能を満たす設計手法が必要

──EVの基礎を習得することは、今後ますます必要とされるようになるのでしょうか。

松村氏: EVの開発を進める自動車メーカーが世界で増えている理由は、先の通り、変化の本質を捉えていることに加えて、もう1つ理由があります。欧米が先陣を切って進める厳しい環境規制の存在です。

 欧州では、販売した新型車の二酸化炭素(CO2)排出量の平均値を、2015年時点で走行距離1km当たり120g以下に抑えるように規制されています。この規制は年々厳しくなり、2021年には95g以下に規制されることが見込まれています。HEVや、高効率エンジンを搭載した小型車はクリアできても、利幅の大きな大型車やSUVといったエンジン車でこうした厳しい規制値をクリアするのは難しい。こうした背景から、EVの開発は避けて通れないと考える自動車メーカーが多いということです。

 COP21(気候変動枠組み条約第21回締約国会議)で議論されているように、地球温暖化は深刻な状況にあります。温暖化防止のための自動車に対する規制、例えば「CAFE(Corporate Average Fuel Economy:企業平均燃費)」と呼ばれる燃費基準なども厳しくなり、それをクリアするにはCO2削減に大きく貢献するEVは不可欠になることでしょう。

 今後、各自動車メーカーは何らかの形でEVに関わらざるを得なくなります。従って、部品メーカーとしても、EVの中身を知っておくことは重要なことだと思います。

──EVの基礎を学ぶ上でのキーポイントは何ですか。

松村氏: EVは構造が簡単です。しかし、当然クルマですから、自動車としての基礎を押さえることが重要です。そこで、まずは自動車として最低限必要な性能を満たすための設計手法を学ぶ必要があります。その上で、EVの心臓部であるモーターの原理なども把握しておかなければなりません。そして、EVも良いところばかりではありませんから、課題やその解決策を知っておくことも大切です。

──「技術者塾」の講座では、どのようなポイントに力点を置いて解説するのですか。

松村氏:マイクロEVを実際に作れるようになる講座に仕上げています。マイクロEVの作り方を具体的に解説し、受講後はその気になれば作れるようになることを目指します。本格的なEVの作り方とは異なる点がありますが、マイクロEVの作り方を知っておくことでEVの理解を深めることができます。

──本講座はどのような方々に参加いただきたいですか。また、本講座を受講することで、受講者はどのようなスキルを身に付けることができますか。

松村氏:EVについて基礎から学びたい人や、部品メーカーの設計者、次世代自動車に関心のある人、EVの商品化を目指す中小企業経営者、そして自らEVを作ってみたい人などが受講対象者となります。

 受講効果としては、EVの基本的な原理を知ることができます。加えて、マイクロEVを自分で製作できるようになります。さらに、次世代の自動車はどうなるかなど、今後の交通機関の動向を探る上での参考になります。