東芝は4月26日、原子力事業で約2600億円の減損損失を2016年3月期に計上すると発表した。米原子力事業子会社ウエスチングハウス(WH)などの資産価値を見直し、「のれん」の大半を取り崩す。東芝はこれまで、連結決算での減損処理をしてこなかった。

 会見した室町正志社長は減損の理由として「東芝の財務状況が著しく悪化し、資金調達環境に変化が生じた」と述べた。親会社である東芝の格付けが引き下げられたことで、WHの資金調達コストが上昇した。

3月に減損テストをやり直し

東芝の室町正志社長(写真:陶山 勉)
東芝の室町正志社長(写真:陶山 勉)

 WHを含む原子力事業で計上するのれんなどの額が適正かどうか、東芝は毎年「減損テスト」を実施して検証している。財務の悪化を踏まえ、3月に改めて東芝の連結ベースでの減損テストを実施したところ、減損の「兆候がある」と判断したという。

 東芝は2006年に約5400億円でWHを買収。買収価格とWHの純資産との差額、約29億3000万ドル(当時のレートで約3500億円)をのれんとして計上した。その後、リーマンショックや福島第1原発事故などで経営環境が激変しても、東芝は一貫して原子力事業は「好調」と説明し、巨額ののれん計上を正当化してきた。

 実態は東芝の説明とは異なっていた。日経ビジネスがスクープ(参考記事、東芝、米原発赤字も隠蔽)したように、WHは2012年度と13年度、単体で巨額の減損処理を実施し赤字に転落していた。東芝は本誌が指摘するまで、その事実を隠蔽していた。さらに、WHの赤字が本体に影響しないよう、様々な会計上のトリックを使ってきた。(参考記事、東芝はなぜ、巨額減損の隠蔽に成功したのか

 東芝は今年1月、2016年3月期の減損テストを実施した。2015年10月1日を基準日としてテストを実施したところ「公正価値」が「帳簿価額」を上回ったため、2月4日時点では原子力事業に関しては「減損の兆候なし」と結論づけていた。その時に公表していた帳簿価額は7400億円で、公正価値は8000億円だった。

 なぜ東芝は、3カ月もたたないうちに減損テストをやり直し、違う判断に至ったのか。背景には医療機器子会社、東芝メディカルシステムズの売却があるのだろう。

メディカルの売却益は3800億円

 東芝は3月17日、東芝メディカルをキヤノンに約6655億円で売却する契約を結んだと発表した。独占禁止法関連の審査があるため、2016年3月期に売却益を計上できるかは不透明だったが、東芝はクリアできると判断。平田政善CFO(最高財務責任者)によると「様々なエビデンスを監査法人に提出して検討してもらっているが、今のところネガティブな意見はない」という。最終的な結論はまだだが、税引き後で3800億円を売却益として計上できる見込みだ。

 メディカル事業の売却前では、東芝の自己資本は2016年3月末に1500億円まで落ち込むと予想されていた。ここに3800億円の売却益を加算することで、WHののれんを減損しても債務超過に陥らないような「余裕」が生まれたわけだ。

東芝の平田政善CFO(上席常務)
東芝の平田政善CFO(上席常務)

 なお、東芝はWHの減損とメディカルの売却は「全く関係ない経済事象」(平田CFO)だとしている。

 3月に実施した減損テストでは、格付け低下による資金調達コスト上昇を考慮し「割引率」を見直した。将来得られる収益を現在価値に換算するときに使う値のことだ。1月のテストでは割引率を「9.5%」としていたが、3月のテストでは「11%」に引き上げた。これにより、WHを含む原子力事業の公正価値が6100億円に低下。新たに計算した帳簿価額(6900億円)を下回る計算になり、減損の「兆候あり」と判断。3300億円あったのれんの価値を2600億円引き下げ、700億円とした。

 会見で室町社長は「原子力事業の事業性、将来計画に大きな変更はない」と強調し、「今後は前向きにどんどん原子力事業を進めていきたい」と述べた。東芝連結で、今後15年間に45基(2月4日に46基から下方修正)の新規受注を目指す計画は変えなかった。

 だが、この計画は現実味が乏しい。東芝がWHを買収した当時の社長、西田厚聰氏は「2015年度までに33基の新設受注を見込む」と公言した。後に東芝は39基へ上方修正した。ところが、WHが受注し建設しているのは8基にとどまる。本誌が入手した内部資料によると、現在の計画は“結論ありき”で策定されたものと言わざるを得ない。(関連記事、東芝、原発幹部さえ疑う「64基計画」

 巨額の減損処理を実施することで、東芝の財務体質は厳しくなる。4月26日に発表した新たな業績予想では、2016年3月末の自己資本は3000億円、自己資本比率は5.5%になる見通しだ。東芝は5月12日に2016年3月期決算の発表を予定している。

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