仕事やプライベートの時間をやりくりするために、真っ先に削ってしまうのが「睡眠」ではないだろうか。また、年齢とともに、眠りが浅くなったり、目覚めが悪くなったりする人も多いに違いない。もう眠りで悩まないための、ぐっすり睡眠術をお届けしよう。

不眠の原因は生活習慣だけでなく、病気のケースもある。(©Tom Baker-123RF)
不眠の原因は生活習慣だけでなく、病気のケースもある。(©Tom Baker-123RF)

 不眠症は大きく2つに分けられる。一つはストレスや生活習慣の乱れから起こるもの、もう一つは病気が原因となっているものだ。

 「あまり知られていませんが、不眠を引き起こす原因に“他の病気”の存在があります。それに気付かず、安易に睡眠薬やお酒でごまかしていると、どんどん病気が進行する危険もあるのです。まず、不眠の背景に他の病気が潜んでいないかチェックすることが必要です」と、もりしたクリニック(東京都品川区)の森下克也院長は注意する。

商談中に突然眠りに落ちる「ナルコプレシー」

 では、どんな病気があるのか、主だったものを見てみよう。

 よく聞く「睡眠時無呼吸症候群」は文字通り睡眠中に呼吸が止まってしまう病気。2003年に山陽新幹線の運転士が居眠り事故を起こし、広く知られるようになった。「10秒以上の無呼吸が1時間に5回以上、または一晩に30回以上」と定義されている。

 呼吸が止まっても苦しくなれば自然と再開するが、その度に肉体にかかるストレスは相当なもの。当然、睡眠も浅くなる。

 「原因はのどの奥の筋肉がゆるみ、睡眠中に気道を塞いでしまうこと。中高年になると起こりやすくなります」と森下院長。睡眠時無呼吸症候群は生活習慣病のリスクも高くする。虎の門病院(東京都港区)睡眠センターが751人の患者を調べた結果、63.8%が高血圧、51.1%が脂質異常症、17.7%が糖尿病を合併していた。

 次は、「睡眠相後退症候群」(すいみんそうこうたいしょうこうぐん)という病気。ひと言でいえば「遅寝遅起き」で、夜はなかなか寝付けず、朝はなかなか起きられない。単に生活リズムが普通の人とずれているだけの話だが、どうしても遅刻が直らないなど、社会生活に支障を来たす場合は病気とみなされる

 朝起きられないのは、夜の布団に入る時刻が遅いから、と思われがちだ。しかしこの病気の人は体内時計がずれているため、強引に早起きしても深夜になるまで眠くならないという。光照射療法や薬物療法によって、少しずつ睡眠のリズムを修正していく必要がある。

 珍しいのは、「ナルコレプシー」という病気だ。大事な商談の途中など、あり得ないような場面で突然眠りに落ちてしまい、周囲の人たちを驚かせる。夜中に金縛りにあうことも多い。日本では500人に1人の割合でいるという。「オレキシンという脳内の神経伝達物質が足りないことで起こる先天的な病気。薬物療法で改善するので、必ず病院に行ってください」と森下院長は話す。

更年期障害でも不眠に

 生理の1週間くらい前になると、昼間の眠気に悩まされる女性も少なくない。これは「月経随伴睡眠障害」。排卵時に分泌される黄体ホルモン(プロゲステロン)によって起こる。

 「黄体ホルモンが脳に作用して眠気や頭痛を引き起こす。夜、眠れなくなる場合もあります。ホルモン補充療法や漢方薬で対処します」(森下院長)

 更年期障害によって不眠症になる人も多い。ある調査によると、更年期の女性の半数が不眠を訴えたという。ホルモンバランスの急激な変化によって、自律神経が乱れることが原因と考えられている。

 他にも、血圧やコレステロールを下げる薬の副作用として起こる「薬剤性睡眠障害」などがある。また、うつ病になると、ほぼ確実に不眠症になる。

 まずは下の「睡眠障害セルフチェック」を試してほしい。半分以上の項目にチェックがついたら、その病気である可能性が高い。軽く考えず、医師に診てもらおう。

1~5のカテゴリーの質問において、チェックが半分以上ついたカテゴリーがあった場合は、睡眠障害の背景に別の病気が隠れている恐れがあるので、医療機関を受診するべきだ。(森下院長が作成)
1~5のカテゴリーの質問において、チェックが半分以上ついたカテゴリーがあった場合は、睡眠障害の背景に別の病気が隠れている恐れがあるので、医療機関を受診するべきだ。(森下院長が作成)
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とても簡単な「つぶやき入眠術」

 どの項目もチェックが半分以内であれば、「病気が原因の不眠症」である心配は少ない。つまり、ストレスや生活習慣の乱れから起こる不眠症ということになる。

 不眠症にもいろいろな悩みがあるが、最も多いのは「眠いのに眠れない」、つまり寝付きが悪いタイプだろう。体はくたくたに疲れているのに、ベッドの中で目がらんらんとさえてくる。「眠らなければ!」と焦ると、いよいよ眠れなくなってしまう。毎晩ではなくても、翌日に大きなイベントがあるときなど、経験したことがない人はいないと思う。

 そんなときにぜひ試してほしいのが森下院長の提唱する「つぶやき入眠術」。やり方は実に簡単だ。

 ①仰向けに寝て足は肩幅に開く。手のひらを下にして敷布団に乗せる。枕は使わないのがベストだが、どうしても欲しいときはタオルなどを折りたたんで低い枕を作る。

 ②少しあごを反らせるようにして口の力を抜き、ポカンと開ける。

 ③何も考えず、心の中で「アー」と何十秒かつぶやく

 これだけだ。一発で眠れなければ、何回でも「アー」を繰り返せばいい。ポイントは“筋肉の弛緩”と“ものを考えない”こと。「うまくできれば確実に眠れます」と森下院長は断言する。

 では、少し細かく説明しよう。

浮かんでくる言葉をつぶやきで“打ち消す”

 横向きで眠る人も多いが、最も力が抜ける姿勢はあおむけだ。枕をしないのは、昼間に前屈気味になっていることが多い首の力を抜くため。口をポカンと開けることで、全身の力が抜ける。「眠れないときは必ず顎に力が入っている。全身の力を抜くには、顎の力を抜くのが一番です」と森下院長は説明する。

 口を開けていても、呼吸は鼻を使うこと。口呼吸は粘膜が乾燥するし、ウイルスなども取り込みやすい。また、鼻で呼吸したほうが脳に酸素が運ばれやすいという。

 「眠れない原因は、筋肉の緊張とひとりごと」と森下院長。全身の力が抜けたら、次はひとりごとを止めることだ。

 声に出していなくても、私たちはベッドの中でいろいろなことを考えてしまう。その結果、どんどん眠気が去っていく。「アー」と心の中でつぶやくことで、次々と浮かんでくる言葉や思考を打ち消すわけだ。最初はうまくいかなくても、何回かやっていれば少しずつコツがつかめてくるだろう。

 つぶやき入眠術は、中途覚醒のときにも使える。深夜に目が覚めて再び眠れなくなったら、仰向けで口の力を抜き、「アー」と声に出さずにつぶやけばいい。

 うまくできるようになれば、意識しなくとも自然と眠れるようになっていくはずだ。寝付きが悪くて悩んでいる人は、今夜から早速試してみてほしい。

森下克也(もりしたかつや)さん
もりしたクリニック 院長
森下克也(もりしたかつや)さん 1962年生まれ。心療内科医。久留米大学医学部卒業。浜松赤十字病院、法務省矯正局、豊橋光生会病院心療内科部長を経て、2006年より現職。著書に『「うつ」は漢方でなおす 医師が教える「心と体の不調」の改善法』(PHP研究所)、『お酒や薬に頼らない「必ず眠れる」技術』(角川SSC新書)など。

この記事は日経Gooday 2016年2月15日に掲載されたものであり、内容は掲載時点の情報です。

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