4月14日午後9時26分ごろ、熊本県益城町で震度7を記録する強い地震が発生した。震源の深さは約10km、地震の規模はマグニチュード推定6.4。この日、私は取材で熊本を訪れ、夜食を食べた熊本市中央区の飲食店で被災した。
床から突き上げるように、20秒以上大きく縦に揺れた。ガラスコップや皿が割れ、壁にひびが入った。近くのコンビニエンスストアでは、棚の中の缶ビールやペットボトルが横倒しになっていた。周辺ビルの壁からはレンガが落下。歩道には砕け散った破片が散乱していた。
宿泊する予定のホテルに戻っても、大きな揺れが断続的に起き、2台のiPhoneとテレビからは緊急地震速報の警報音が鳴り響いていた。
そんな状態で一晩を過ごし、翌15日朝には大阪へ移動せねばならず、熊本空港に向かった。ホテルの前にあるアーケードは、一部が立ち入り禁止になっていた。だがこの時、市内から空港へ向かう道沿いの建物や空港のターミナル内は、大きな被害を受けているようには見えなかった。熊本空港も一部の便に欠航が生じていたものの、私が予約していた天草エアラインの伊丹行きの便は、予定通りに出発した。
ところが、16日午前1時25分ごろ発生した地震の影響で、熊本空港のターミナルは天井の一部が崩落するなどの被害が発生。18日まで閉鎖となった。
2011年3月11日の東日本大震災から5年。この時は、東北地方の空の要衝である仙台空港が被災し、山形や花巻といった近隣空港が失われた機能を補った。今回の熊本地震で、航空業界は5年前の経験を生かせたのだろうか。
JALとイオンは輸送協定
15日の熊本発着便は、機材や乗員繰りの影響で欠航や遅延が発生。定刻より2時間近く遅れた便もあった。JALとANAのラウンジも、グラスの破片が散乱したことなどで閉鎖された。
熊本空港はその後、16日未明の地震でターミナルビルが被害を受け、旅客便は16日から18日までの全便が欠航している。管制塔も、機器が散乱したことで業務ができなくなった。
一方、滑走路や灯火類は一部被害を受けたものの、運用に支障がなかったことから、気象事務室へ避難した管制官が、小型無線機で業務を継続。自衛隊の輸送機などが24時間離発着できるよう、運用している。
17日夜には、救援物資を積んだJALの臨時便が伊丹空港から到着。流通大手イオンが熊本市から要請された毛布3000枚を、ボーイング767型機で運んだ。
イオンとJALは今年3月、緊急物資の輸送に関する覚書を締結。東日本大震災の発生時も、両社は翌日から緊急支援物資の空輸などで連携してきたが、航空会社と流通業がこうした覚書を交わすのは初めてのことだった。連携を深めたことで、連絡経路や旅客機用貨物コンテナに物資をどのように積むかなど、緊急時に即応できる体制作りを進めてきた。
熊本空港のターミナルが閉鎖された16日は、イオンが熊本県上益城郡へ緊急避難用大型テントを輸送する際も、JALが長崎空港まで空輸。いずれも空港からは陸上自衛隊が輸送した。
災害発生後に連携するのではなく、普段から輸送時の課題を洗い出すようになったことは、東日本大震災から取り組みが一歩進んだと言えるだろう。
益城町にある熊本空港
熊本が最初の激震に見舞われた翌15日朝の時点で、鹿児島空港を拠点とするJALグループの日本エアコミューター(JAC)が、福岡~鹿児島線の臨時便、2往復4便の運航を決定。午前と午後に1往復ずつ飛んだ。回送中の車両が脱線したことで、九州新幹線の運行再開の目途が立たない中、利用増加が予想される九州南北を結ぶ足が増強された。
JALとANAは15日以降、福岡~鹿児島線を中心に臨時便を運航している。同路線は通常、JALグループのJACが1日2往復運航しているのみだが、4月18日は11往復運航。ANAはこの路線の定期便を運航していないが、この日は3往復運航した。
18日はこのほか、伊丹~鹿児島線でJALが7往復のうち1往復の機材を大型化。ANAは臨時便を2往復運航した。
JALによると、東日本大震災の時と比べて、今回はノウハウがあって臨時便の運航を早く判断できたという。安全などの懸念材料があっても、まずは飛ばすことに向けて準備を進めた。東北の空港と比べて、九州は比較的滑走路が長く、熊本以外は被害が出なかったことも、臨時便を飛ばすうえでプラスの材料になった。
しかし、空の便は航空会社の準備ができても、空港の発着枠に空きがなければ飛ばすことができない。特に福岡空港は、今年3月から発着回数を制限する「混雑空港」に国土交通省が指定したため、むやみに臨時便も飛ばせない。今回は国交省が航空会社側の運航計画を早期に了承したことで、地震発生の翌日から臨時便を運航できた。
今回の熊本地震で、熊本空港以外の九州の空港は大きな被害を受けずに済んだ。しかしながら熊本空港は、家屋倒壊がひどい益城町の北部にある。また国内の空港は山あいに作られたところもあり、南阿蘇のような土砂崩れが今後の災害時に起きないとは限らない。
民間機が離発着する国内空港は97。東日本大震災後に安全性などが再点検されたが、近隣空港がどう補い合えるかを、今回の事例も交えて再確認すべきだろう。
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