中国経済の減速と原油安で年明けから世界の株式市場が揺れている。1月20日の日経平均株価の終値は前日比632円安の1万6416円と、昨年来の安値を更新。およそ1年3カ月ぶりの安値を付けた。

 そんな中、今年に入り、今後の世界経済のカギを握る米国と中国の企業が絡む2つのM&A(合併・買収)が話題になった。

 1つは中国家電大手、海爾集団(ハイアール)による米ゼネラル・エレクトリック(GE)の家電事業の買収である。1月15日のハイアールの発表によると、買収額は54億ドル(約6370億円)。ハイアールは2012年に旧三洋電機の白物家電事業を買い取ったこともあり、日本でも有名だ。

 中国という巨大マーケットでの高いシェアを背景に、世界でもトップレベルの家電メーカーとなったが、中国以外での知名度はまだ高いとは言えない。今回の買収でハイアールはGEのブランドや知的財産も取得すると報じられている。GEのブランド力により、中国以外での事業を広げるのがハイアールの狙いだ。

アジア1の富豪が米映画製作会社を買収

 もう1つが中国の不動産大手、大連万達集団による米映画製作会社レジェンダリー・エンターテインメントの買収だ。こちらの買収額は35億ドル(約4100億円)に及ぶ。

 レジェンダリーは2000年創業で、ソフトバンクも同社の株主に名を連ねる。日本では「ゴジラ」の製作会社と報じられることが多いが、そのほかにも「ダークナイト」や「ハング・オーバー!」「インセプション」「パシフィック・リム」「インターステラー」などのヒット作を生み出している。

 一方の万達集団は日本では馴染みが薄いものの、中国では不動産大手として知られた存在だ。同社は商業施設「万達広場」を中国全土に130以上展開する。万達広場がない主要都市はまずないと言っていい。

 軍人から転じて一代で中国有数の不動産グループを作り上げた王健林・董事長はアリババ集団のジャックー・マー氏を押さえ、アジア1の富豪と伝えられる。近年は娯楽やスポーツといったサービス事業の強化を図っている。2012年には米国の映画館チェーン大手、AMCエンターテインメントを買収。2015年はオーストラリア映画館チェーン、ホイツ・グループも傘下に収めた。

 また昨年はスペインの名門サッカークラブ、アトレティコ・マドリードに出資している。今回のレジェンダリー買収も、同社のサービス事業強化の流れの延長線上にある。

 数千億円の巨費を投じるハイアールと万達集団の買収劇を、「膨張する中国マネーの脅威」という角度で見ることはもちろん可能だろう。一面ではそれも正しい。しかし、最近の株式市場の混乱のきっかけとなっている中国経済の現状と照らし合わせるとまた違った姿が浮かび上がる。

第3次産業の割合が5割以上に

 中国国家統計局は1月19日、中国の2015年の実質GDP(国内総生産)の成長率が6.9%だったと発表した。成長率が7%を割り込んだのは25年ぶりのことだ。減速の主な要因となっているのが、鉄鋼や石炭などの生産能力過剰に伴う工業生産の落ち込みと不動産などへの投資の減少だ。

 政府は過剰生産設備の解消を進めるべく昨年末から大号令をかけている。だが、以前から課題と言われてきた過剰生産設備の問題を解決するのは容易ではない。中国の株安と人民元安は、同国の構造改革に対する不安が引き起こしている面が大きい。

 一方、中国の不動産市場は価格が下落から上昇に転じる都市が増えるなど回復傾向にある。だが「大都市と地方都市の差は大きい」(経済評論家の葉檀氏)。地方都市では未だに不動産の在庫が多く、工事が止まったままのプロジェクトもある。

 不動産市場の不振は冷蔵庫や洗濯機といった大型家電の需要にも影響を及ぼす。米ウォールストリートジャーナルは中国の家電市場の伸びが2015年は1.6%にとどまったと報じる。不動産大手の万達や家電大手のハイアールが海外に成長の活路を求めるのは、中国国内の需要が落ちてきたためと見ることもできる。

 また、中国では2015年、GDPに占める第3次産業の割合が初めて5割を超えた。不動産業に加えてサービス業を強化するという万達の戦略は、投資主導型から内需主導型経済への転換を模索する中国経済の現状と合致するものだ。

 中国の習近平指導部は今後も6.5%程度の成長が不可欠としている。しかし、2016年の成長率は5%台に落ち込むのではとの予測も既に登場している。中国経済の減速に伴う余波は世界の至るところに出てきそうだ。

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