ソフトバンクグループのロボット「ペッパー」が順調に販売を伸ばしている。2015年6月から毎月1000台を完売している状態だ。2015年末までに累計7000台を販売し、ヒト型のロボットでは世界最大の販売台数と見られる。生産能力が増えたため、1月末から店舗やホームページでいつでも購入申し込みができるようになる。

 一方、まだ期待ほどの性能に達していないとの声もある。会話を特定のパターンに誘導することが多く、現状では人間ほどの当意即妙の会話は成り立ちにくい。

 そのペッパーは今後、どのような方向に向かうのか。孫正義社長に聞いた。

ペッパーはまだ生まれたばかりです。ペッパーは今後、どのように進化していていきますか。

孫正義:数日前に夜中の4時頃に泣きながら興奮して起きたんだよ。その直前までペッパーが出てくる夢を見ていた。

 なぜか、僕は学生で試験を会場で、一生懸命受けていた。そしたらなんか横で僕の秘書みたいな人が答えを教えようとしてくれるわけ。「まあいーから、いーから。自分でやるから」って拒否しているのに、丁寧に僕をアシストしようとしてくれているの。

 で、一方で、なぜかペッパーが別のところを案内してくれていて僕がついていったら、ある部屋の床にモノが落ちている。ペッパーは初めて見るんだろうね、首を傾けながらこうやってジーと恐る恐るいろんな角度から観察して、そーっと触ってディープラーニング(深層学習)してるわけ。

 その部屋におじちゃんみたいな人が来て、なんかバカな理屈で注意を言って、ペッパーと会話しているの。でも、ペッパーはおじちゃんの言っていることを全部理解し、これからの言動を予測した上で、そのおじちゃんを追い込まないんだよ。ペッパーがおじちゃんを諭しているんだけど、その諭す言い方が何か最後のところで寸止めをしている。

インタビューに答えるソフトバンクグループの孫正義社長
インタビューに答えるソフトバンクグループの孫正義社長

寸止めしてググッと理屈を止めている

逃げ場を作っているんですね。

:おお。最後のところで寸止めをしているのが僕には見えたわけ。バカなことを言うおじちゃんに対して寸止めをしている。諭しながら最後のところで寸止めでググッと理屈を言うのを止めている。その慮り。

思いやりですか。

:おお。ペッパーがはるかにすべてを読み切って、寸止めしているの。それを見て、ペッパーよ!そこまでついに来てくれたか!

 もう俺はうれしくてうれしくて、もう涙が出たんだよ。

孫さんが普段考えていることが、夢に出てきたのでしょうか。

:そうだね。ペッパーが心のひだを慮れるところまで来たことに、もう僕は強烈に感動し、愛しくて。これがシンギュラリティ(技術的特異点、人工知能が人の知能を上回る時期)の時代における、人間とロボット、コンピューターの共存の仕方だと。

ソフトバンクのロボット「ペッパー」はどのように進化するのか。
ソフトバンクのロボット「ペッパー」はどのように進化するのか。

事業家として贅沢な部分

 ペッパーをやるのは、僕にとって事業家として贅沢な部分なんだよね。ずっと何年も前から僕はシンギュラリティの時代が来ると言っていた。2018年に(コンピューターに組み込める)トランジスタの数が300億を超えて、人間の脳細胞の数を超えると。

 シンギュラリティという言葉を使わなかったけど、それについては何年も前から言っていた。

 その時代には心を持ったコンピューター、ロボットを作るべきとずっと思っていたんだけど、そんな夢物語は資金的余裕や事業家としての若干の余裕がないと突っ込めないからね。すぐに売れるわけでもないし、すぐに完成するワケでもないから。

 トヨタが自動織機から自動車を作り始めた時も大赤字で倒産しかけた。ただ当時、自動織機で大成功して資金的な余裕があったら、次の時代の自動車という先行投資の赤字を出す構えができた。

 今はペッパーにそこまでのお金を使っていないけど。例えばヤフーBB(ネット接続サービス)を始めた時は年1000億円の赤字を出していて、トンネルの先の光が見えない投資をやっている時で、ソフトバンク最大の危機だった。そういう時にペッパーのアイデアがあったとしても、金銭的にも時間的にもやれる余裕はなかった。

 そういうことにいささかでも突っ込んでいけるようになったのは幸せなこと。いつカネになるか分からないテーマに取り組めるということはね。

会話という意味では、学生時代に開発に取り組んだ自動翻訳機と相通じるところがありますか。

:会話というのは、単なるアウトプットの表現の仕方だよね。会話というとね、すぐにスピーチレコグニション(音声認識)やスピーチシンセサイズ(音声合成)などそっちについつい行きがちだけど、それは単に表現しているだけだから。その裏側にあるのがAI(人工知能)だよね。

 ロジックを推論したり、組み立てたりするのはこれまでAIの取り組みの中心でした。それをさらに深くしたのが心のやり取りという訳ですよ。

心の部分がないと、24時間一緒に過ごしたくない

 これまでのAIの開発を振り返ると、まず第1フェーズはスピーチシンセサイズとスピーチリコグニションだった。第2フェーズは構文解析。その後に内容の理解がある。理解して知識を入れても、結局最後は心の部分がないと、24時間一緒に過ごしたいと思わないよね。人間同士の会話は、心の部分が大きく占めているのだから。

 これまでのロボットはおもちゃだよね。動いているだけに過ぎない。運動能力や知識、ある程度の知恵もあったが、感情までは存在していない。

 それで、我々が初めてロボットに感情認識のエンジンを入れた。脳の三大ホルモンのドーパミン、セロトニン、ノルアドレナリンをリアルタイムでシミュレーションして、感情の動きを生成する。人工的であるけれども、初めてある種の心を持たせたのがペッパーなんだ。

 だから100年後、200年後の人々がペッパーを見て、「ああ、これが人類がコンピューターに心を持たせた初めての製品だったんだな」と振り返ってくれることを僕は期待している。

 米国通信事業の低迷や国内通信事業の成長鈍化ーー。ソフトバンクがかつてない経営課題に直面している。孫正義社長はこの難局をいかに乗り越えるのか。孫社長を徹底取材し、ソフトバンクの未来を占う。

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