【動画】カエルの交尾に「7番目の体位」発見

メスの背中に射精する「背中またぎ」、「ドラマを見ているよう」とインドの研究者

2016.06.17
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カエルの交尾の新たな体位「背中またぎ」
ボンベイナイトフロッグは、他のカエルとは違う体位で交尾を行う。その様子がビデオに初めて撮影された。(Video footage courtesy SD Biju)

 カエルは世界で約7000種が確認されていて、これまで知られている交尾の体位は6種類だった。ほとんどは、オスがメスの腰のあたりや脇の下をつかむ「抱接」と呼ばれる体位だ。できるだけ多くの卵子を受精させるため、この姿勢でお互いの体を密着させる。

 しかし、インドに生息するボンベイナイトフロッグ(Nyctibatrachus humayuni)は、これまで全く知られていなかった「背中またぎ」と言う体位で交尾することが明らかになった。(参考記事:「逆立ちで交尾する新種のカエル、インド」

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 カエルのオスは通常メスの総排出腔付近に精子を放出するが、6月14日付でオンライン学術誌「PeerJ」に発表された研究によると、ボンベイナイトフロッグのオスは相手の背中に射精する。放出された精子は、メスの背中を伝い下りて卵子と出会い、受精する。

 また、彼らは似たような体勢をとるにもかかわらず、メスの体をつかまない。オスは自分の腹をメスの背中に押し付けて、メスが座っている枝を前足でつかむ。(参考記事:「モテないオスにもチャンスあり、カエル研究で判明」

「背中またぎ」で交尾するボンベイナイトフロッグのオスとメス。(PHOTOGRAPH BY SD BIJU)
「背中またぎ」で交尾するボンベイナイトフロッグのオスとメス。(PHOTOGRAPH BY SD BIJU)
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「今のところ、このような体位が確認されたのはボンベイナイトフロッグだけです」。インド、デリー大学の生物学者で、研究リーダーのサティアバマ・ダス・ビジュ氏は言う。

「この風変わりなカエルの生殖行為を一部始終観察するのは、非常に面白い経験でした。まるで台本のあるドラマを見ているようでした」と、ダス氏はメールインタビューに応えてそう語った。

 米エバンスビル大学の爬虫両生類学者のノア・ゴードン氏は、とても「変わった」体位だと、感想を述べた。

「カエルの『カーマスートラ』に新たな章が書き加えられましたね」

激しい雨と洪水の季節に限定

「インドのカエル男」というニックネームをもつダス氏は、生物多様性に富んだインド西部の西ガーツ山脈で、ボンベイナイトフロッグの珍しい行動を数年間観察してきた。(参考記事:「新種の“踊るカエル”14種、インド」

 メスがオスを誘ったり、オス同士で縄張り争いをするなどの独特な生態を見て、その生殖行動を詳しく研究してみようと思ったという。(参考記事:「地中からメスを誘う紫のカエル」

オスのボンベイナイトフロッグが、木の幹からメスを呼び寄せる。カエルには珍しいことだが、ボンベイナイトフロッグの場合、メスから誘うこともある。(PHOTOGRAPH BY SD BIJU)
オスのボンベイナイトフロッグが、木の幹からメスを呼び寄せる。カエルには珍しいことだが、ボンベイナイトフロッグの場合、メスから誘うこともある。(PHOTOGRAPH BY SD BIJU)
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 しかし、簡単な作業ではなかった。夜行性のボンベイナイトフロッグはめったに姿を見せることはなく、交尾は激しい雨と洪水に見舞われるモンスーンの時期に限られるため、研究は困難だった。

 忍耐強く研究を重ねた結果、2010~2012年にかけて、ダス氏のチームはカエルを刺激しない赤外線ライトを使い、ボンベイナイトフロッグを観察し、記録を付けた。40日間、夜間の観察で得られたデータから、新しい体位が発見された。

オスが去ってからメスが産卵

 米ハーバード比較動物学博物館爬虫両生類学の学芸員であるジェームズ・ハンケン氏は、背中をまたぐという行為は独特ではあるものの、他のカエルがやっていることとそれほど変わりはないという。

 しかし、ハンケン氏が面白いと思ったのはその後だった。

「ほとんどのカエルは、メスが産卵するのと同時にオスが精子を出します。ボンベイナイトフロッグの場合、メスはオスが去ってだいぶ経ってから卵子を放出します。これにはとても驚きました」

 ダス氏とその研究チームは、この時間差はオスの精子がメスの背中を下りてきて受精するのを待つためではないかと考えている。ハンケン氏も、おそらくその推測は正しいだろうとしながらも、卵子と精子が正確にいつどこで出会うのかについてこの研究は言及していないと指摘した。

「今回の研究は、インドの両生類に関する多くの素晴らしい発見のひとつにすぎません。つい最近までほとんど研究されることはありませんでしたが、これほど生物多様性のある国ですので、まだまだ驚きが隠されているのではないかと思います」(参考記事:「絶滅したカエルを140年ぶりに再発見、卵を食べさせて子育て」

文=Carrie Arnold/訳=ルーバー荒井ハンナ

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