1Week, 1Million Downloads

 Steveが発表した当初,iTunes Music StoreはMacintoshだけに向けたサービスだった。Apple社がすべてをコントロールできる環境でサービスを立ち上げた。それならばと恐る恐るコンテンツを提供したレコード会社は,数週間後には全く違う見解を持つようになった。

 iTunes Music Storeは,たちどころにマスコミに熱狂を引き起こした。Steveはロック・ミュージシャンのSheryl Crow とともに,米Forbes誌の表紙に収まった。消費者の反応も強烈だった。iTunes Music Storeは,最初の1週間で100万曲以上を売り上げる。Steveは誇らしげに語った。「1週間で,我々はこれまでのすべての記録を塗り替え,オンラインで音楽を販売する世界最大の会社になった」。レコード業界も驚きを隠せなかった。「1週間足らずで100万曲なんて,想像だにしていなかった」(米 Warner Music Group,chairman and CEOのRoger Ames)。「最初の1カ月で100万曲いけば大成功だと思っていた。Appleのやり方は正しかった」(Universal Music Group,CEOのDoug Morris)。

 ここまでくれば,Apple社の勝ちだった。レコード業界は,CDの売り上げの漸減に頭を痛め,ファイル交換ソフトウエアの脅威に神経を尖らせていた。彗星のごとく現れたApple社の成功は干天の慈雨だった。Windows版のiTunes Music Storeの登場を待ち望むのは,ユーザーやApple社だけでなくなった。

 2003年10月16日,Apple社はWindowsパソコン向けのiTunes Music Storeを開店する。売り上げの勢いはさらに増した。Windows版が登場する前は,Apple社が1000万曲を販売するのに4カ月余りを要した。 Windows版が現れると,わずか3カ月で1500万曲が上乗せされた。サービス開始から1年後の2004年4月28日。Apple社はトータルで 7000万曲を販売したと発表する。

The iPod Twiggy Act

 AppleにとってiTunes Music Storeは,あくまでもiPodの売り上げを伸ばすための仕組みである。そのもくろみはまんまと成功した。Macintosh向けのiTunes Music Storeがオープンした直後の1週間で,Apple社は11万台ものiPodを受注したという。Windows版の登場後に,iPodの出荷台数が爆発的に伸びたことは,第8話で触れた。