「食事の内容によって、睡眠はある程度コントロールできます」

 そう伊達友美さんは話し始めた。これまでに5000人以上の食事を指導し、カリスマ的な人気を持つ管理栄養士だ。「眠ってはいけないとき」、「ぐっすり眠りたいとき」、それぞれどんな食事をすればいいのか。伊達さんに聞いた。

ランチは糖質のとりすぎに注意

 まず、眠ってはいけない場合。午前中はバリバリ仕事をしていたのに、昼食をとった途端、睡魔に襲われる人は少なくない。原因は食後に血糖値が上がること。胃に血液が集まり、脳に回る血液が少なくなることも関係しているという。

 「血糖値を上げないように、ご飯などの炭水化物を食べすぎないのが基本です。アフターランチで砂糖いっぱいのスイーツを食べるのも要注意です。午後、仕事に集中したいなら“糖質は控えめに”が鉄則ですね」と伊達さんは言う。

 ご飯おかわり自由、なんて聞くと「食わなきゃ損だ!」という気分になるもの。しかし、もう高校生ではないのだから自重しよう。中高年の食べすぎは生活習慣病に直結するし、仕事の集中力も落ちてしまう。

 昼食後に絶対眠ってはいけない場合は、いっそのこと「ご飯を食べない」糖質オフをランチで実行してもいい。コンビニで弁当やサンドイッチではなく、「おつまみ」を買って昼食にする。ビーフジャーキー、チーかま、さきいか、ナッツなどは、いずれもたんぱく質が豊富で糖質が少ない。糖質をとらなければ血糖値は上がらないので眠くなりにくい。

 「ナッツやビーフジャーキーなど、固いものをかじると覚醒作用があります。柑橘類、梅干し、酢昆布など酸味の強いものもいい。一方、ガムやおせんべいは糖質が多いので避けましょう」と伊達さんはアドバイスする。

最初に温かい汁ものを胃に入れる

 眠気覚ましにカフェインの多いドリンク剤を愛用する人もいるが、ドリンク剤は想像以上に砂糖が入っていて血糖値が上がりやすい。昼間にコーヒーを飲むときも、砂糖を入れないほうが理想的だ。

 そうは言っても、お昼の糖質オフはつらい――という人も少なくないだろう。そんな人は、食べる順番に気を配ろう。

 同じ品数を食べても、食べる順番によって食後の血糖値の上がり方は異なる。まず食物繊維の豊富な野菜を最初に食べて、たんぱく質のおかずとご飯を一緒に食べる。できれば、「寒い季節は生野菜より汁ものがお勧め」(伊達さん)という。

 「生野菜は体を冷やします。最初に温かいものを胃に入れることによって、満腹感を得やすくなるだけでなく、胃が動きやすくなり、血液が胃腸に集中するのを防ぎます。ミネラルが豊富な味噌汁だと理想的ですね。外食だと冷たい水が出ることが多いですが、できるだけ、温かいお茶を飲むようにしてください」(伊達さん)

ケールの青汁が快眠を導く

よく眠りたいならメラトニンが豊富なケールの青汁がお勧めだ。(©Cris Kelly-123RF)
よく眠りたいならメラトニンが豊富なケールの青汁がお勧めだ。(©Cris Kelly-123RF)

 逆に、よく眠るためには、どんな夕食を取ればいいのだろう。昼とは逆に「しっかり食べること」と伊達さんは話す。

 「満腹になれば自然に眠くなるもの。実際、お腹がすいていると眠れないでしょう」

 お勧めの成分は欧米で不眠症用のサプリメントに使われる「メラトニン」。食品に含まれる量は少ないが、青汁の原料となるケールはずば抜けて多い。100g中に含まれるメラトニンは、トウモロコシ139ng(ナノグラム=10億分の1g)、白米100ng、バナナ46ngに対し、ケールはなんと4300ngも含んでいる。

 「糖質オフで夜にご飯などの炭水化物を食べない人は血糖値が上がらないので眠くならず、メラトニン不足にもなりがち。夜、ご飯をしっかり食べるか、ケールの青汁を飲むのがオススメです」(伊達さん)

 メラトニンのもととなるアミノ酸「トリプトファン」を含む食材もいい。大豆、カツオ、ゴマ、タラコなどに含まれる。牛乳にも多く、そのため安眠効果があると言われるが、「日本人は牛乳をうまく消化できない人が多い。豆乳のほうがいいと思います」と伊達さん。

マグネシウム、カリウム、オメガ3脂肪酸の摂取も積極的に

 ミネラルではマグネシウムとカリウムを取ると快眠につながる。これらはナッツや海藻類に多い。マグロやレバーに多いビタミンB12も有効だ。ただし、「ビタミンやミネラルが働くためには、糖質、たんぱく質、脂質という三大栄養素をきちんととることが必要です」と伊達さん。栄養バランスのいい夕食を取ることが大切だ。

 また、「良質な油は、脳や自律神経を整え、快眠の助けになる」(伊達さん)。魚に含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)、大豆やクルミに含まれるαリノレン酸などのオメガ3脂肪酸は、とりわけ現代人に不足しがちなので意識して取る必要がある。

 漬け物などの発酵食品もいい。「腸脳相関」という言葉があり、腸内環境を整えることが脳を整え、そのおかげでよく眠れるようになるという。

細かいことを気にせず、ワイルドに生きよう

 ここまで挙げた栄養素を自然にバランスよく取れるのは伝統的な和食だ。和食は塩分が多いと言われるが、「現代人は塩分を気にし過ぎ。和食は確かにナトリウムは多いですが、ナトリウムを排出するカリウムも多く、バランスがいいんです」と伊達さん。

 夕食は時間帯も気になるところ。食べてすぐに寝ると太りやすい。しかし、伊達さんは「あまり神経質にならないほうがいい」という。

 「食べること、眠ることは本能なので、変にルールを決めないほうがいい。残業で帰りが遅くなった場合、すごく眠かったらそのまま寝るほうがいいし、お腹が空いて眠れないようなら何か食べて寝るほうがいい。朝起きた時に、胃がもたれていたら無理に朝食を取る必要もありません」(伊達さん)

 不眠症は神経質な現代人ならではの病気。細かいことを気にせず、体の声に耳を傾けよう。食べたいときに食べて、寝たいときに寝る。本能に忠実に生きる開き直りも大切だ。

伊達友美(だて ゆみ)さん
管理栄養士、日本抗加齢医学会認定指導士、日本ダイエット健康協会理事
伊達友美(だて ゆみ)さん アンチエイジングクリニックなどのカウンセラーとして、これまでに5000人以上の食事指導を行う。自身の20kgのダイエット経験から、ストイックな食事制限ではなく、“食べてやせる"驚きのダイエット法で、数々のメタボ男子を救っている。主な著書に、『夜中にラーメンを食べても太らない技術』(扶桑社文庫)、『大盛りご飯を食べてもやせる技術』(池田書店)がある。ホームページはこちら

この記事は日経Gooday 2015年12月22日に掲載されたものであり、内容は掲載時点の情報です。

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