第26回 朝型勤務補講:夜型生活から脱却する効果的な方法

 どのくらい早起きするかによっても違うけど、一般的には睡眠が体内時計にキャッチアップして体調が安定するまでは3週間くらいかかるね。その間は、早起きした割には早寝ができないため、一時的にせよ睡眠不足になります。これが最初に話した苦しい点で、夜型の人が早起きにチャレンジして1、2週間でギブアップする最大の理由だね。

 ひえー、今でも寝不足なのに、さらに寝不足になるのでは死んじゃいます!

 文字通りそうなんだよ。朝型勤務の回にも書いたけど、サマータイムの切り替え時期に心筋梗塞や交通事故死が増える原因の1つがこの睡眠不足なんだ。

 ひえーーー、でも、週末の寝だめもダメなんですよね。

 うーーん、言いにくいけれど、朝型生活に馴染むためには避けた方が良いね。たった2日の寝だめでも、体内時計はあっという間に夜型に戻ってしまうからね。そこはこらえて週末も平日と同じ生活リズムを保ってほしいな。

 とは言っても睡眠不足で事故を起こすのも怖いよね。そこで対策としては「戦略的な昼寝」だね。時間を決めて、30分くらい昼寝をする。その程度の昼寝でも眠気はかなり軽くなるし、目覚めた後もぼんやり感(睡眠慣性)が少ないからね。13時・14時くらいがお薦めだが、昼食を早めに済ましてお昼寝もいいでしょう。

 また、一気に1時間早起きするのではなく、最初の2週間は30分だけ早起きするなどワンクッション入れると楽なこともあるよ。

 教えてもらったコツを利用してチャレンジしてみようと思います。でも、何週間も頑張って……その先はどうなるんでしょうか。ずっと一生がんばり続けなくてはならないんでしょうか(涙目)

 根拠もなく楽観的なことは言いません。いったん朝型生活に適応しても、気を抜いたら夜型生活に戻ってしまいます(キリッ)

 でも、当初の辛い状態がそのまま続くわけではないよ。まず体内時計を朝型にリセットして、数週間で睡眠リズムが追いつく。その頃には、寝つける時間も早まってきます。睡眠不足も徐々に解消されるわけです。睡眠不足が解消されれば朝起きも少しずつ楽になる。朝型生活になれば夜に浴びる光量は減り、早朝に浴びる光量は増える。

 もしかしたら朝食も食べられるようになるかもしれない。光ほど強くはないけど、朝のカロリー摂取も体内時計のリセット効果があることが分かってきているよ。

(イラスト:三島由美子)
(イラスト:三島由美子)
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 少しは希望を持ってよいでしょうか?

 朝型生活を頑張ってしばらく経つと、光や食事、運動などの環境因子を巻き込んで睡眠リズムをその時間帯に安定化させるメカニズムが働き始めるんだ。もともとの朝型の人と違って楽に早起きできるわけではないけど、朝型生活を始めた当初の苦しみは徐々に軽くなります。

 朝型勤務を命じられたときはオーストラリアのゆるキャラに転職する前に、一度はあがいてみましょうよ。切り替え時期の健康管理に気を付けながらね。

 了解です! うおーー! トリを見返してやるぞーー!!

つづく

三島和夫

(イラスト:三島由美子)

三島和夫(みしま かずお)

1963年、秋田県生まれ。秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座 教授。医学博士。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大助教授、米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部部長を経て、2018年より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。これまでに睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者も歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、集英社文庫)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。近著は『朝型勤務がダメな理由』。