12月14日の首脳会談で、習近平主席と文在寅大統領は米国の軍事行動を牽制する条項で合意した(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
12月14日の首脳会談で、習近平主席と文在寅大統領は米国の軍事行動を牽制する条項で合意した(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

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 韓国が米国ではなく、中国とスクラムを組むことを鮮明にした。中韓首脳会談で中国と一緒になって、北朝鮮に対する米国の軍事行動に反対したのだ。

「平和」が「核武装」呼ぶ

鈴置:韓国の保守系紙が「文在寅(ムン・ジェイン)政権は北朝鮮の核武装を認めるつもりか」と悲鳴をあげました。

 北朝鮮に核放棄を迫るため、米国は軍事行動も選択肢の1つに掲げています。というのに12月14日の中韓首脳会談で韓国は中国とともに、それにはっきりと「NO!」を突きつけたのです。

 朝鮮日報の社説「韓国が米国に軍事的選択肢を放棄しろと言うなら、交渉カードに何が残るのか」(12月16日、韓国語版)から一部を要約し、引用します。

  • 文在寅大統領と習近平主席が合意した「4大原則」で注目すべきは第1項目の「朝鮮半島での戦争は絶対に容認できない」である。韓国の大統領が同盟国の米国に対し、北朝鮮への軍事的な選択肢を放棄しろと要求したということだ(「中韓首脳会談で合意した『4大原則』」参照)。
  • 北朝鮮の核問題を対話や交渉といった外交的な方法で解決できるのは、それを拒否した場合、米国の圧倒的な軍事措置に直面すると北朝鮮が圧迫を感じた時だけである。
  • 米国が軍事的選択肢というカードまで捨てれば、北朝鮮が何を恐れて譲歩するだろうか。核武装を既成事実とし、対北制裁を全面的に解除しろと言うだろう。

●中韓首脳会談で合意した「4大原則」(2017年12月14日)

  • (1)朝鮮半島での戦争は絶対に容認することができない
  • (2)朝鮮半島非核化原則を確固として堅持する
  • (3)北朝鮮の非核化を含むすべての問題は対話と交渉を通じ平和的に解決する
  • (4)南北朝鮮間の関係改善は肯定的に朝鮮半島問題を解決するものである

 「戦争は容認できない」といった平和を求める言葉は一見、それらしい。しかし現実の世界では、そんな美しい言葉こそが北朝鮮の核武装を許してしまう――と訴えたのです。

開催しない方がよかった

 朝鮮日報は前日の社説「韓中首脳会談、本当に重要なことは抜け落ちた」(12月15日、韓国語版)でも「4大原則」を批判していました。北朝鮮への圧力に関し全く触れていないからです。

  • 「4大原則」からは緊急かつ重要な文言が抜け落ちた。北朝鮮の核問題に関し、国際社会は「対話に応じるまで北朝鮮に対する制裁と圧力を強化する」で一致している。これが最も効果的な方法だ。ところが「4大原則」にはそれに関する具体的な内容が全くなかった。
  • 北朝鮮が大喜びしているのは間違いない。CIAは「3カ月後に北朝鮮は米本土を攻撃可能な能力を持つ」とトランプ(Donald Trump)大統領に報告したと報じられた。この切迫した状況で、韓中は「制裁と圧力」という大原則に言及しなかったのだ。
  • 今回の韓中首脳会談は「やらない方がよかった」と言わざるを得ない。

 中央日報も社説「文大統領の訪中が外交上の惨事と記録されないためには」(12月16日、韓国語版)で「4大原則」に対し同様の危機感を表明しました。そのうえ、米国との関係悪化を懸念しました。

  • 米国は北朝鮮に核の放棄を迫るため軍事的な選択肢も排除しない姿勢だ。(軍事的行動への)期限が3カ月しか残っていないとの分析まで出ている。同盟国である米国との協調関係が、さらに揺れるという負担を甘受せねばならなくなるだろう。

 同紙は12月18日にも社説「『引き算外交』となった文訪中、自画自賛している場合ではない」(韓国語版)で政権批判を続けました。ポイントを訳します。

  • 文在寅政権は米国や日本の目には中国に傾く「裏切り者」に映り、中国には二股をかける「機会主義者」に見える、という中国専門家の指摘に青瓦台(大統領府)は、耳を傾けねばならぬ。

「4大原則」の名付け親は韓国

「裏切り者」との批判が国内からも出ているのですね。

鈴置:「機会主義者」とも。肝心な時に中韓共闘を始めたのですから。世界は「米国がいつ北朝鮮を攻撃するか」とかたずをのんで見守っている(「『北朝鮮に先制核攻撃も辞さず』と言明した米国務省」参照)。というのに中国と足並みを揃えて米国を牽制したのです。

 米朝間で戦争が始まれば大きく影響を受ける周辺4カ国のうち、2カ国が「戦争反対」で声を合わせたのです。だからと言って米国が戦争を思いとどまるとは思えませんが、中韓共闘は国際世論にある程度は影響するでしょう。

 なお、両国は共同声明や共同記者会見は開きませんでした。「中国側が避けた」とのニュアンスで書く韓国メディアが多いのですが、本当のところは分かりません。結局、両国はそれぞれに記者発表することで中韓の合意を説明しました。

 青瓦台の「韓中首脳会談開催の結果と尹永燦(ユン・ヨンチャン)国民疎通首席のブリーフ」(12月14日、韓国語)で読めます。ここで「4大原則」と名付け、お披露目しています。

 一方、中国外交部の発表「習近平主席、文在寅韓国大統領と会談」(12月14日、中国語)にも、同じ趣旨が盛り込まれています。ただ「4大原則」との名称はなく、箇条書きにもなっていません。「4大原則」は韓国が主導したのでしょう。

米韓同盟に投げ込んだ爆弾

米韓同盟は持つのでしょうか?

鈴置:中国は自前の時限爆弾も米韓同盟に放り込みました。中韓の発表文に全く同じ文言の1文があります。韓国側に不利な文章なので、中国が入れるよう要求したと思われます。以下です。

  • 習主席はTHAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)問題に関連、中国側の立場を改めて明らかにし、韓国側がこの問題を引き続き適切に処理するよう希望した。

 中国は10月31日の中韓合意に「中国は韓国がTHAAD問題を適切に処理することを希望する」との条項を入れさせました(「中韓合意のポイント」参照)。今度はそれを、韓国の大統領に直接、確認させたのです。

●中韓合意(2017年10月31日)のポイント

  • 韓国側は、中国側のTHAAD問題に関連する立場と懸念を認識し、韓国に配置されたTHAADは、その本来の配置の目的からして第3国を狙うものではなく、中国の戦略的安全保障の利益を損なわないことを明らかにした。
  • " 中国側は国家安保を守るために韓国に配置されたTHAADシステムに反対することを改めて明らかにした。同時に中国側は韓国側が表明した立場に留意し、韓国側が関連した問題を適切に処理することを希望した。
  • 双方は両国軍事当局の間のチャネルを通して、中国側が憂慮するTHAAD関連問題に対し、話し合いを進めることで合意した。
  • 中国側はMD(ミサイル防衛)構築、THAAD追加配備、韓米日軍事協力などと関連し、中国政府の立場と憂慮を明らかにした。韓国側はすでに韓国政府が公開的に明らかにした関連する立場を改めて説明した。
  • 双方は韓中間の交流・協力の強化が双方の共同利益に符合することに共感し、全ての分野での交流・協力を正常的な発展軌道に速やかに回復することに合意した。

※注:韓国外交部のサイト「韓中関係改善に関連した両国の協議の結果」から作成

 この条項こそが曲者です。中国はこれをタテに「在韓米軍基地に設置済みのTHAADも撤去させろ」と言い出す可能性があります。

配備済みのTHAAD撤去まで要求できるのでしょうか。

鈴置:その前段で、韓国は「THAADは中国の戦略的安全保障の利益を損なわない」と約束しています。

 それを活用して「配備済みのTHAADも中国の利益を損なっている」と主張。さらに「韓国が適切に処理する」条項を使ってTHAADの完全撤去を要求する手があります。

米軍基地を中国が査察

いくら中国でも、そんな強引な要求をするでしょうか?

鈴置:すでに中国はこの手法を使って韓国を圧迫しています。11月22日、中韓外相会談の席で王毅外相が康京和(カン・ギョンファ)外相に対し「3NO」に加え「中国の利益を損なわない」条項を守れと要求したのです。

●韓国が中国に表明した「3NO」

  • 米国とMDは構築しない
  • THAAD追加配備は容認しない
  • 日米韓3国同盟は結成しない

 「中韓合意」では「双方はTHAADに関し話し合いを進める」とも約束していますから、中国はいつでも「THAADを完全に廃棄しろ」と言い出せるのです。

 韓国政府は中韓外相会談の場で「約束を守れ」と証文を持ち出されたこと自体を隠していました。が、中国共産党の対外威嚇用メディア「Global Times」が報じたので明らかになりました。「China urges S.Korea to honor pledge about THAAD」(11月23日)です。

 この記事は王毅外相の要求を紹介したうえ、「もし、この約束が破られれば、中韓関係は過去になかった大波に洗われるであろう」との中国の朝鮮半島専門家の談話を引用しました。要は「THAADで中国の言う通りにしないと、ひどい目に遭うぞ」と脅したのです。

 朝鮮日報は、中国がこれらの条項を使って在韓米軍基地のTHAADを査察させろと言い出すだろうと警告しました。社説「3NOに加え1限まで 中国にどれだけ門を開いてしまったのか」(11月25日、韓国語版)でです。

 「在韓米軍のTHAADのレーダーは北朝鮮しか監視できず、中国の安全保障を損なわない」と米韓両国は主張してきました。

 しかし韓国がこうした条項を飲んだことにより、中国に「見せろ。本当にそうなのか、確かめる権利がこちらにはある」と要求される隙を作ってしまったと同紙は政府を批判したのです。

 なお、社説の見出しの「1限」とは「THAAD配備が中国の利益を損なわない」と約束したことにより、韓国の軍事主権に「制限」が付けられてしまったことを指します。

毒素条項の毒が回り始めた

「3NO」に関しては日本のメディアも報じていました。

 文在寅政権は10月31日の中韓合意で「THAADの追加配備は容認しない」など「3NO」を約束しました(「中国に『降伏文書』を差し出した韓国」参照)。

 やすやすと安保主権を放棄したものだ、と世界の専門家は驚き、呆れました。日本のメディアも「3NO」「3不」などの表現を使って「韓国の再属国化」を報じました。この結果「3NO」に焦点が当たりました。

 が、今回の首脳会談で中国が文在寅大統領に直接、約束させたこの条項も猛毒を含んでいます。韓国は「3NO」に加え、いつでも発動できる「毒素条項」まで飲んでしまった。そしてその毒が今、回り始めたのです。

中国はスワップを発動しない

毒素条項をいつでも発動できるとすると……。

鈴置:そこです。第2次朝鮮戦争勃発の可能性が高まり、韓国にTHAADが最も必要になった時、中国がその査察、あるいは撤去を要求したらどうなるのでしょうか。

 韓国が拒否すれば中国はお仕置きできます。韓国側だけが「延長した」と言い張っている中韓通貨スワップ(「韓国の通貨スワップ」参照)。これも発動しないでしょう。韓国に安全保障上の要求を拒否された中国が、経済面で韓国を助けるとは思えません。

韓国の通貨スワップ(2017年12月17日現在)
相手国 規模 締結・延長日 満期日
中国 3600億元/64兆ウォン(約545億ドル)終了→再開? 2014年
10月11日
2017年
10月10日
豪州 100億豪ドル/9兆ウォン(約76億ドル) 2017年
2月8日
2020年
2月7日
インドネシア 115兆ルピア/10.7兆ウォン(約85億ドル) 2017年
3月6日
2020年
3月5日
マレーシア 150億リンギット/5兆ウォン(約37億ドル) 2017年
1月25日
2020年
1月24日
CMI<注1> 384億ドル 2014年
7月17日
カナダ<注2><注3> 定めず。通貨はカナダドルとウォン 2017年
11月15日
定めず
<注1>CMI(チェンマイ・イニシアティブ)は多国間スワップ。IMF融資とリンクしない場合は30%まで。
<注2>カナダと結んだのは「為替スワップ(bilateral liquidity swap)」で市中銀行に外貨を貸すのが目的。中央銀行に対し市場介入用の外貨を貸す「通貨スワップ(bilateral swap)」ではない。
<注3>カナダとは「規模も満期日も定めない常設協定」と韓銀は発表。英文の発表文では、発動は「市場の状況が許せば」「必要に応じて」としているところから、規模などはその都度協議して決めるものと見られる。
<注4>カッコ内は最近の為替レートによる米ドル換算額
資料:韓国各紙

 その時こそ韓国には通貨スワップが必要になるというのに。第2次朝鮮戦争が起きそうになるだけで、韓国から資本逃避が始まるでしょうから。

 12月13日に米国が利上げを決めました。2018年にも3回、引き上げる方向です。米利上げに伴う資本逃避を防ぐため、韓国は11月30日に利上げを決めています。

 しかし韓国は家計負債問題が深刻で、米利上げにどこまで追随できるか疑問が持たれています(「『14年前のムーディズ』に再び怯える文在寅」参照)。

米国も「通貨」が威嚇材料

反対に中国の要求を受け入れ、韓国が米国にTHAAD撤去を要求すれば?

鈴置:米韓同盟が崩壊します。韓国防衛のために駐留する在韓米軍を守るTHAADを取り外せ、と言われるのです。米国は「韓国処分」に出るでしょう。

 韓国が米国を裏切って中国側に付いたことを知らない普通の米国人だって、その時は黙っていない。まずは、1997年のように、通貨危機を演出して警告すると思いますが(「『14年前のムーディズ』に再び怯える文在寅」参照)。

 北朝鮮の核問題がどういう展開になるかは読み切れません。戦争になるのか、その前に金正恩(キム・ジョンウン)体制が崩壊するのか――。一方、北朝鮮は「米国が折れて北の核武装を認める」とのシナリオをいまだに描いています。

 ただ、どういう展開になろうと、米韓関係が決定的におかしくなるのは間違いありません。この部分だけ見れば、中国は笑いが止まらないでしょう。努力しなくとも、韓国が米国に後ろ足で砂をかけたうえ、自分の懐に転がり込んで来るのですから。

米国を追い出すチャンス

いったい文在寅政権は何を考えているのでしょうか。

鈴置:米韓同盟の打ち切りを決断したと思います。民族の団結を最優先する親北左派とすれば、北朝鮮の核問題に最終決着が付く今こそ、米国を追い出すチャンスなのです。

 米国が軍事行動で北朝鮮の核を除去しても、あるいは金正恩政権が暗殺などで崩壊しても、韓国にとって北の脅威は一気に減ります。そのタイミングをとらえ、国民に「もう、同盟はやめよう」と呼び掛ける作戦と思われます。

 親北派は米韓同盟こそが民族を分裂させる元凶と信じていています。今でさえ米国に出て行けと言っているのです(「『米韓同盟破棄』を青瓦台高官が語り始めた」参照)。北の脅威が急減した後、同盟廃棄に乗り出さない方がおかしい。

普通の人は反対しませんか。

鈴置:米韓同盟を廃棄しようと政府が言い出したら、反対する声が噴出するのは間違いない。ただ、普通の人も在韓米軍の存在に割り切れないものを感じています。「外国軍隊のいない、平和で自主独立の国を作ろう」と訴えられたら、心を揺らす人が相当数、出ると思います。

 文在寅政権は米国の方から同盟廃棄を言い出させるつもりでしょう。そうなれば同盟維持派の反対は力を持ち得ません。

 「4大原則」を含め、文在寅政権は露骨な「反米親北」政策によりすでに米国を怒らせています。米国に同盟破棄を言い出させる作戦は、着々と進んでいるのです(「文在寅大統領の「反米・親北」の言動」参照)。

●文在寅大統領の「反米・親北」の言動(2017年)
4月13日 大統領選挙の討論会で「(米国が先制攻撃を準備する場合)北朝鮮にホットラインを通じて直ちに連絡し、挑発を中断するよう要請する」と発言
5月10日以降 「手続きが不透明」としてTHAADの追加配備を認めず。6回目の核実験(9月3日)後の9月5日になって配備容認を決定
8月15日 「朝鮮半島での軍事行動は大韓民国の同意なくして誰もできない」と米国の先制攻撃に反対
9月21日 「時期は未定」としつつ、800万ドルの対北人道支援を発表
9月27日 国連総会第1委員会で、北朝鮮の非核化も念頭に置いた「核兵器廃絶決議案」を棄権
9月28日 「戦時作戦統制権を早期に米国から韓国に移す」と国軍の日の記念式典で演説
11月29日 北朝鮮のICBM発射直後に「米国が先制攻撃を念頭に置く状況にならぬよう防がねばならない」と発言、米国を牽制
12月14日 中韓首脳会談で「朝鮮半島での戦争は絶対に容認しない」など「4大原則」に合意し、米国を牽制

 こうした親北左派の巧妙な作戦に、保守は危機感を募らせています。朝鮮日報など保守系メディアが国民に「文在寅に騙されるな」と必死で訴え始めたのもそのためです。

「北の核」は「民族の核」

可能性は低いのでしょうが、北朝鮮の核武装が国際社会で認められてしまったら?

鈴置:親北派には願ったりかなったりです。米国を追い出し、民族が団結して統一国家をつくる――。これが親北派の夢です。その際は核保有国との同盟を失うわけですから、北朝鮮が開発した核、あるいは「核を持つ権利」は民族を守る最終兵器として必須なのです。

 彼らは「南の経済力と北の核を合わせれば強力な国をつくれる」と固く信じています(「『約束を守れ』と韓国の胸倉をつかんだ中国」参照)。「北の核」は「民族の核」なのです。

 南北が手を組み、北の開発した核ミサイルを日本に撃ち込むという粗筋の小説『ムクゲノ花ガ咲キマシタ』(1993年刊)はそんな夢を語ったものでした。この小説はベストセラーになったうえ、映画化までされたのです(「北の核ミサイルは日本を向く」参照)。

あれは日本向けの核だ

普通の人も「民族の核」が欲しいのですね。

鈴置:その通りです。「自前の核さえあれば、大国に翻弄されないで済む」との思いは南北、イデオロギーに関係なく、共通しています。

 もう1つ、見落としてはいけないことがあります。韓国に「北朝鮮は同じ民族が住む韓国に対し核は使わないだろう」との認識が広まっていることです。北朝鮮に反感を持つ人の中にも、そう考える人が多い。

 『ムクゲノ花ガ咲キマシタ』のような、エンターテイメントの形をとって「南北は和解できるのだ」と呼び掛ける小説や映画が、1987年の民主化以降、雨後のタケノコのように生まれたからです。

 日米に比べ「何が何でも北の核武装を阻止しよう」との意識が韓国社会に薄いのもそのためです。ここを日本人や米国人は勘違いしがちなのですが。

 そんな北の核への楽観的な空気を利用して、文在寅政権は「戦争絶対反対!」と叫んでいるのです。

 「自分たちには使われない、米国や日本向けの核を阻止するために我々は戦争に巻き込まれるのか」と呼び掛ければ、かなりの韓国人が「その通り!」と応じるでしょう。

「民族の夢」が再び映画に

 12月14日、韓国で映画『鋼鉄の雨』が公開されました。主人公は北朝鮮のスパイと韓国政府高官の2人。北の最高指導者が開城(ケソン)工業団地で暗殺されそうになったり、米国が北を先制核攻撃したり「緊迫した今」を映した映画です。予告編(韓国語)を見ることができます。

 この映画には、韓国側が北の最高指導者をソウルで治療した後、救急車で北朝鮮に送り届け、見返りに核兵器を半分譲ってもらうというエピソードがあるそうです。「民族が手を携え核で周辺強国ににらみを利かせる」という韓国人の夢を、この映画も語ったのです。

 朝鮮日報の映画評「南北が核を共同保有? いくら映画と言っても」(12月13日、韓国語版)は以下のように批判しました。

  • 南北が北朝鮮の核を「共同資産」のように活用できる、あるいは北朝鮮側の宣伝通り核問題を「わが民族同士」で解決できるなどと、誤って受け止められる恐れを指摘する向きもある。
  • キム・テウ元統一研究院院長は「北朝鮮の核危機が進む状況下で韓国映画が軍事・安全保障分野を取り上げる際、事実の検証や専門家のアドバイスもなく、想像と虚構を織り混ぜて製作する風土は、普通の観客を誤導する可能性がある」と語った。

 この映画が「北の核を認めよう」とのムードを盛り上げるのではないか、との元院長氏の懸念はよく分かります。

 でも、映画が普通の人々の夢を語るものとするなら『鋼鉄の雨』こそが“正しい”映画なのです。

(次回に続く)

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