世間を騒がせたコインチェック流出事件から1カ月余。仮想通貨とその基盤であるブロックチェーン技術の活用へ、企業の熱気が衰える気配はない。国内EC(電子商取引)モール大手の楽天、会計大手のアーンスト・アンド・ヤング(Ernst & Young、以下EY)、システム構築大手のNECなどが、ブロックチェーンの新たな使い道を模索している。

 楽天の三木谷浩史会長兼社長が2018年2月27日(現地時間)、モバイル関連の展示会「MWC2018」の基調講演で「楽天コイン」構想を明らかにした。ポイントサービスをブロックチェーン上で運用し、国境を越えて流通できるようにするという。

 楽天は現在、日本の「楽天スーパーポイント」のほか米国、ドイツ、フランス、ブラジル、台湾でポイントサービスを提供している。このうち台湾のポイントを日本で使えるサービスはあるが、システムや法制度の違いから国境を越えたポイントサービスの運営は難度が高い。これらのポイントをブロックチェーン上で一元管理することで、国境の制約がないサービスを開発しやすくなる、というのが三木谷社長の狙いだろう。

 ただし、同じくブロックチェーンを使ったデジタルトークンである仮想通貨は、法定通貨と比べた価値が乱高下しやすい。仮に楽天コインを、ユーザー間でも相互に交換できるデジタルトークンとして設計する場合、トークンの価値を安定させる仕掛けが必要になる。

 価値が安定したデジタルトークンを流通させる試みとして、インフォテリアやテックビューロなどが参加するブロックチェーン推進協会(BCCC)が試験運用するトークン「Zen」がある。BCCCは2017年7月~11月にZenの発行と価値安定の実証実験を行った。

 BCCCはZenをテックビューロの仮想通貨交換所「Zaif」に上場させた上で、1Zen=1円の買い注文を常に入れることで、1Zenの価値が1円未満にならないようにした。これにより、法律上の位置づけを仮想通貨としつつ、1Zen≒1円の電子マネーとして使えるようにすることを狙う。実験では瞬間的にZenの価値が1万円近くに跳ね上がることもあったが、おおむね1Zen≒1円を実現できていたという。

 ただしZenのような価値安定の方法では、常にトークンの買い注文を入れるため、トークン発行分と同額の法定通貨を銀行口座で保全する必要がある。ICO(Intial Coin Offering)のような通貨発行益が得られず、発行企業にとってのうまみは少ない。加えて、ICOを含む自社発行トークンは会計上の扱いが明確とは言えず、導入に向けたハードルになりそうだ。