今、「英語の壁」で困っている人たちがたくさんいます。そして、多くの人たちが中学英語に立ち戻って英語を勉強し直そうとしています。
中学3年、高校3年、大学4年と10年間も英語を学び、さらに社会人として立派に仕事をしている人たちが、中学レベルのテキストや問題集を開いて奮闘しているのを見ていると、「これはいったいどういう事なのだろう?」と思うのは決して私だけではないと思います。
いったい中学・高校で何がどう教えられてきたのでしょうか。何が問題だったのでしょうか。
私の見るところでは、この問題の根底には、①複雑な文法解説のために英語が分からなくなった②「読み」をしっかりと訓練しなかったので英語に対して自信を持てない――という2つの原因があるように思います。
例えば、あなたは中学レベルの動詞の規則変化・不規則変化をすべて正確に、自信をもって読み上げることができるでしょうか。あるいは、基本単語をアクセントも含めて、しっかりと自信を持って読むことができるでしょうか。
今では多くの入試にリスニング問題が導入されており、またインターネット上には生の英語がいくらでもあります。英語の学習サイトも様々なものがあり、その中には無料サイトもたくさんあります。
でも、だからといって上記2つの問題が今後無くなるかというと、そのような保証はどこにもありません。
なぜなら、まず、文法をシンプルにすることはとても難しいからです。私自身も、基本的な点から詳細部分、そして文法・語法問題、和訳問題の解説方法など、文法のほぼ全域をカバーする技術を作り上げましたが、それには15年ほどかかりました(※)。
「読み」の問題についても解決は難しいです。なぜなら、スピーキングが大学や高校の入試に導入され、相当厳しくテストされない限り、「読み」を教える、あるいは学ぶという動機が生まれにくいからです。
ところが、スピーキングのテストの導入はそう簡単ではありません。まず第一に、スピーキング能力は測ることがとても難しいです。二つ目に、スピーキング・テストが導入されるとなると、その教え方を巡って英語教育が大混乱に陥る可能性があります。スピーキング力というのは、そう簡単には身に付かないからです。
よく「10年間学んでも話せない」といったことが言われますが、生徒・学生は英語だけを勉強しているわけでなく、1週間の英語の学習時間は、宿題を入れても限られています。さらに、他の教科はすべて日本語で教えられていて、日常の環境もすべて日本語です。このような条件下でスピーキング力を身に付けさせようとすると、他の能力が犠牲になるという事態が起こり兼ねません。たとえば、リーディング力が低下するとなると、それは大問題です(※)。
中学英語への正しいアプローチの仕方
いずれにしても、「中学英語へ戻る」という発想自体は決して誤ってはいません。難しいと感じる場合には「基礎へ戻る」というのは学習の基本です。ただ、言葉の場合にはそのやり方、つまり勉強の仕方にしっかりと気を配らないと、同じ轍を踏むことになります。
まず要注意なのが文法です。所有代名詞、補語、目的語、先行詞、所有格の関係代名詞、絶対比較――などとやり出すと、もうそこで(再度)退場ということになります。このコラムの『英語への苦手意識が治る5つのポイント(前編)』の回などを参考にして、できるだけ「意味と形」に注目して学習するようにして下さい。
そもそも、結構な歳になってわざわざ中学の英語に戻るのは、じつは煩雑な文法を学び直すことではないはずです。「別の何か」を求めているはずです。この点をしっかりと心に刻んで下さい(※)。
文法というのは、言葉の「意味と形」から導き出されたものです。言葉には「規則性」はあっても「規則」と呼べるものはほとんどありません。「規則」(つまり文法)というのは、あくまでも人間が頭を捻って作り出したものです。
この点について、その本質を一文で見事に言い表した英文がありますので、ご参考までにここに記しておきます。
Rule-like behavior does not necessarily mean rule-governed behavior.
和訳すると、「規則があるように見える行動が、必ずしも規則に基づいているとは限らない」、もしくは、「規則があるように見えるからといって、必ずしもそこに規則があるとは限らない」ということになります。
なんだか、禅問答のようですが、中学レベルの英文と和訳を交互に何度も何度も読み上げていると、だんだんとこの英文が伝えようとしているメッセージが分かってきます(※)。
次に大切なのは、もちろん、英語をしっかりと声に出して読み上げることです。この場合も、ただ闇雲に読み上げるというのではなく、必ず音声を聴き、それをそっくり真似るようにして下さい(※)。
また、「中学英語なら意味は簡単だ…」などと安易に考えず、必ず日本語で確認するようにして下さい。そして、文脈をよく理解して、丁寧に、気持ちを込めて音読するようにして下さい。こうすることで、意味と形(音)がしっかりと結びつき、使える英語の基礎がしっかりと身に付いていきます。
練習の目標の1つとして、「全文を完全に覚え切るまで繰り返しリスニングし、音読を繰り返す」を必ず組み入れて下さい。「暗記・暗唱は応用につながらない」というのは旧パラダイムの発想です。どうせ中学英語からやり直すというのであれば、ぜひ新しいパラダイムの発想で再チャレンジして下さい。
「でもテストは、取り合えずリーディングとリスニングだけだから…」などと言っていると、2~4年かけて四苦八苦して高得点を取れるようになっても、スピーキング力が要求された途端にまたしても奈落の底へ落ちることになります(※)。
中学英語の広がりを理解する
中学英語というと、「高校で文法が分からなくなった、だから中学からやり直す」という発想で取り組む方が数多くいます。確かにそれも大切な点ですが、中学英語の本当の凄さ、可能性というのはそこにはありません。むしろ、簡単な単語が持つ驚くほどのパワーを発揮する点にあります。
中学レベルの単語を使いこなせるだけで、ネイティブスピーカーも思わず唸るほどのクールで斬れる英語が話せるようになります。そして、これが理解できると、英語に対する見方や取り組み方がまるで違ってきます(※)。
例えば、tryを例に取ると、「(何かを)出来るかどうかやって見る」と言いたいときには、I’ll give it a try.と言えばビシッと決まります。また、「もう一度やって見る」と言いたいなら、I’ll give it another try。「頑張ろう!」と言いたいのなら、Let’s give it a try. で伝わります。
これらの英文はすべて中学レベルの単語で出来ていますが、その破壊力(コミュニケーション力)は抜群です。
もう一点見過ごされている点は、熟語の重要さです。私たちは熟語を避ける傾向が強くあります。それは、おそらく、①まずは単語を覚えないといけない(≒熟語までは面倒)、②熟語は簡単な言葉の組み合わせなので紛らわしくて覚えにくい、③用法がややこしい――という3つの理由のためだと思われます。
しかし、①についてはごく簡単に決着がつきます(『英語への苦手意識が治る5つのポイント(前編)』参照)。②についてはこう考えて下さい。あなたは、cake(ケーキ)とcase(ケース)をキチッと区別できますね。この2つはかなり紛らわしいにも関わらず。
熟語も同じように考えれば良いのです。
具体的には、例えばgoであれば、go by (年月が過ぎる)、go out of date(時代遅れになる)、go out with(異性と付き合う)、go too far(言動などが行き過ぎる)など、簡単な単語の組み合わせが多数ありますが、それをくっつけて、一つの単語のようにしてしまうわけです。
go by | → | goby (年月が過ぎる) | go out of date | → | gooutofdate (時代遅れになる) | go out with | → | gooutwith (異性と付き合う) | go too far | → | gotoofar (言動などが行き過ぎる) |
このようにすると、脳が「なるほど、似ているけれど確かに違う!」と納得してくれるので、cakeとcaseを覚えたときのように“機嫌良く”覚えてくれます。
③の用法についても、どのようにすれば上手くいくか、そのコツを次回にお話したいと思います。熟語を単語のように扱えるようになると、100-150/週程度は簡単に覚えることができるようになります。熟語の数は単語よりはるかに少ない上に、覚えると表現力が一気に強化されます。
英語に関する限り、私たちの能力は30%程度しか引き出されていません。これはとても残念なことです。このコラムでは、どうすれば残りの70%の能力を発揮できるかについて、日本語を活用するという手法を中心にさまざまな観点からお話ししていきます。
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