米ウーバーは無人タクシーの実証実験に取り組んでいる(写真:AP/アフロ)
米ウーバーは無人タクシーの実証実験に取り組んでいる(写真:AP/アフロ)

 自動運転車が普及することで大きな打撃を受けるとみられる業界の1つが、自動車保険業界だ。先進国では自動車保険に強制的に加入させる制度が整っている。事故の9割が人的過失(ヒューマンエラー)によって起きている現状では、過失を犯したドライバーが加入している保険会社が賠償金を支払うこの制度は、合理的に機能している。

 だが自動運転車の普及に伴い、事故は従来の5分の1程度にまで減少すると想定されている。また、事故の原因も、ヒューマンエラーではなくなるだろう。監査法人のKPMGによれば、自動車保険市場は2040年までに6割程度縮小する可能性がある。

 弁護士や保険会社は、事故が自動運転モードで走行中に起きた場合、責任の所在は自動車の持ち主から自動車メーカーに移ると主張している。しかしながら法律事務所のアレン・アンド・オーヴェリーのリチャード・ファーンヒル氏によれば、英国および米国の現在の法制度の下では、最新のソフトウエアへのアップデートを怠った場合、自動運転モードで走行中の事故でも自動車の持ち主が責任を問われる可能性があると言う。また自動車メーカーは責任を部品メーカーになすりつけようとするかもしれない。

責任のなすりつけ合いをなくすには

 果てしない責任のなすりつけ合いと訴訟を避ける最善の方法は、弁護士が“厳格な賠償責任制度”と呼ぶ制度を導入することかもしれない。同制度は、責任は自動車の持ち主にあるとする。保険会社は被害者に迅速に賠償金が支払われるよう手助けしたり、自動車メーカーなどの責任を明らかにしたりする上で、引き続き重要な役割を担うことになるだろう。

 だがそうしたアプローチがとられたとしても、自動運転技術によって事故が起こるリスクが低下することに変わりはない。保険会社は、保険料収入の低下を免れ得ないだろう。

 “厳格な賠償責任制度”はまた、個人が自動車を保有する形態が一般的であり続けることを想定している。だが将来は、一段と強力になった米ウーバーや自動車メーカーが自動運転車をまとめて所有し、運用する形になるかもしれない。そうなれば、個人向けに自動車保険を提供する会社は淘汰され、生き残れるのは事業用自動車保険に特化した保険会社だけになるだろう。

自動車メーカーは自らに保険

 一部のメーカーは、運用するクルマに自ら保険をかけ、賠償責任を自ら担う形態を目指しているようだ。ボルボ、グーグル、メルセデスは、自社製の自動運転車についてこうした措置を取る方針だと述べている。

 フランスの保険会社、アクサでエマージングリスク部門の責任者を務めるエレン・ショーヴォー氏は、製造上の瑕疵など既存のリスクと、ハッキングなどの新たな脅威に対応する必要があるため、保険会社が果たす役割はなくならないとみている。

 だが監査法人、PwCのアナンド・ラオ氏が指摘するように、保険会社の大半は予想を超えたテクノロジーの進歩に対応できていない。この進歩に保険をかけるための頼りとなる保険数理表など、存在しないのだ。

© 2016 The Economist Newspaper Limited.
Sep 24th - Sep 30th 2016 | From the print edition

英エコノミスト誌の記事は、日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。

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