みなさまごきげんよう。
フェルディナント・ヤマグチでございます。
「しじょう」と打つと変換候補の一番上に「私情」と出て来ます。
最近のAIは凄いです。
今回も軽くヨタから参りましょう。
今回のカリフォルニア旅行では、移動に全てUberを利用してみました。アメリカ本土では、特にL.A.では今まで100%レンタカーを利用していたのですが。物は試しとライドシェアを利用したのです。
空港からホテルへ。ホテルからユニバーサル・スタジオへ。また近所のレストランへ食事に行く際も、全てUberを利用しました。
いやはや驚きました。こんなに便利だったとは。トータルで14、5回ほど利用したのですが、平均の待ち時間は2分ほど。夜のコリアンタウンでお互いに場所が分からず行き違いがありましたが、それでも待ち時間は計10分ほど。目的地までの道順と料金が先に示されますから、遠回りされることも、ボッタクられることもありません。これは素晴らしい。
今まで空港からのピックアップは規制されていたのですが、最近になりそれも解禁されました。ともかくこちらのタクシーは酷いですからね。クルマは汚いし遠回りはするし運転が乱暴です。チップの強要もウザい。Uberなら自動でカード決済ですから、面倒はおカネの遣り取りは一切ありません。
日本では当局の規制で白タク扱いとなり、本来の形でのUberは展開できていません。日本交通などが二種免許を持つドライバーで運用しているのが実態です。
ハイヤー・タクシー、自動車教習所、観光バス労働者の組合である自交総連なんて、参入に大反対していますからね。ま、そりゃそうでしょう。Uberが本格的に稼働し始めたら、コンベンショナルなタクシーなぞひとたまりも有りません。最終的にはどのような形で落ち着くのでしょう。トヨタもuberと「ライドシェア領域における協業を検討する旨の覚書」を締結しましたばかりです。今後の展開を見守りましょう。
ちなみに今回利用したUberのプリウス比率は4割程でした。「何でプリウスを?」と尋ねると、全員が異口同音に「Mileage!」と。なるほど。
さてさて、それでは本編へと参りましょう。
「全てのクルマは血肉を分けた自分の子供」、とサラリと言ってのける章男社長。
だから全社が一丸となり、受賞に向けて一台のクルマに“のみ”集中して応援するカー・オブ・ザ・イヤーには多少の違和感を覚えるのだと言う。
無論受賞すること自体は目出度いし、賞そのものはリスペクトする。だが会社として、「一台のクルマ」だけを取り上げて大騒ぎするのは如何なものか。少なくともトヨタの社内では、違う方法で社員のモチベーションを上げていく方法は無いものか。もっとフェアに、もっとイコールにクルマと向き合いたい。
トヨタ・豊田章男社長インタビュー第三弾。今回は章男社長が編み出した“妙手”の話から始めよう。
社員投票で決めるトヨタ・アワードに加えて「モリゾウ賞」
豊田社長(以下、豊):トヨタの開発者にとっても、全てのクルマに対してそれぞれの思い入れがある。自分にとっては全部大切な子供です。だからそこにはフェアに、うんとフェアに向き合わなければいけない。そのためにはカー・オブ・ザ・イヤーとは別に、社内でモチベーションを上げる方法を考えました。
F:それはどのような?
豊:トヨタ・アワードという社内の賞を作りました。
F:トヨタ・アワード、ですか?
豊:そう。トヨタ・アワード。言うなれば社内のカー・オブ・ザ・イヤーです。始めたのはもう5年ほど前になりますかね。去年はMIRAIが取りました。従業員の投票により選出されます。
F:アワードのクルマは社外にも発表するのですか?
豊:あれはどうだっけ?発表という形にしていた?
広報室長:社外的にですか?社内報に載せて、皆さんにもお配りするという形にしています。別に隠している訳ではありませんが、積極的にPRしているという姿勢でもありません。
豊:そしてトヨタ・アワードの中には別枠でモリゾウ賞というのが有ります。トヨタ・アワードは社員みんなの投票だけど、モリゾウ賞はモリゾウが一人で選んじゃう。
モリゾウとは章男社長がレース活動を行う際に使われている名前だ。 トヨタ自動車の社長である“豊田章男”と、レーシングドライバーの“モリゾウ”は完全に別人格という建付けになっている。まあ物書きのフェルディナント・ヤマグチと、しがないサラリーマンの山口某みたいなものでしょうか。え?スケールが違う? 因みにモリゾウ名義のブログも有るのだが、こちらは4カ月も更新されておらず、現在は開店休業のご様子。
豊:初代のモリゾウ賞はタクシーに使われるコンフォート。次の年はカムリだったかな。
広報室長:ハイエースも取りましたね。
豊:ハイエースはもうちょっと後。長期間に渡って確実に売れ続けてきたロングセラー商品としての立ち位置を評価しました。カー・オブ・ザ・イヤーはもちろんクルマから選ばれるのだけど、ウチの社内でやる賞にはその縛りがない。エンジン単体を選んだりもするし、ビジネスの手法が取る事もある。
86が出た時は車両がトヨタ・アワードを取りましたが、モリゾウ賞ではマーケティング施策が評価された。いろいろな試乗会の方法を試してみたり、ワンメイクレースやってみたり、コマーシャルも変わった物を打ってみたり。86ではいろいろ面白いことをやってくれましたからね。いろいろ変えてくれた。だから“チーム”を評価しました。
F:チームを。
豊:そう。チームを。クルマはチームで作りますから。チーフエンジニアだけではなく、チーフエンジニアを支えている全ての人、それから関連する様々な部署。そういう人達も評価されなくちゃいけない。チームなんだから。クルマは一人じゃやれないから。絶対に。
F:なるほど。
豊:あるときはユニット部隊、あるときはマーケティング部隊。全員でもっていいクルマを作っているんだということ。トヨタ・アワードはね、そこを見ます。そしてそれはほぼ定着してきたと思っています。
「私はモリゾウシールの方がうれしい」
プリウス開発責任者のデストロイヤー豊島さん(以下、D豊島):今年はプリウスが頂きました。このシールを貰うがために……みんながこのシールを貰えることを夢見て頑張るんですよ。私は正直、こっちの方が嬉しいもの。
豊:賞状よりもこっちのほうが嬉しいの?(笑)
D豊島:はい。正直こっちの方が嬉しいです。今年はプリウスが取ったので、ウチのエンジニアはみんなこのシールを持っています。
豊:ですが、モリゾウ賞はもう止めてしまいました。
F:えぇ?せっかくこんなに盛り上がっているのに。
豊:こういうことは余り長く続けないほうが良いんです。続けてやっていくと、賞の存在自体が当たり前になる。
F:うーん。そういうものでしょうか。何かもったいないような……。
豊:ええ。そういうものだと思います。大企業というのはね。最初に選んだコンフォートにしたって、周りの反応は、「え? コンフォート?」っていう感じでしたよ。サプライズが有った。
F:終わってしまった賞を云々するのも妙な話ですが、全てはモリゾウ氏のご判断で。
豊:うん。もうモリゾウ賞はモリゾウの独断と偏見で決めてきた。今後もトヨタ・ワールドの中で、突然ね。突然、モリゾウ賞が復活するかも知れない。あれ、今年は有ったのか、なんて年が来るかもしれない。だからみんなにはその日が来るような商品を考えて欲しいなと思います。いや、商品のみならず、何でも良い。ビジネスでもマーケティングでも。
チェンジ!チェンジ!チェンジ!章男社長は常に変化を求めている。そしてご自身も変化し、進化し続けている。オバマ大統領は最大のスローガンである”チェンジ“を思うように実現できなかったが、章男社長は本当に周囲がアッと驚くような変化を”日常的“に続けている。
「悪いけど、レクサスは絶対に負けないから」
豊:よく「こういうのを選んでくれませんか?」って僕の所に持ってくるのだけど、それは当たり前だから。当たり前の正規軍だから。それは普通に会社に任せておけば良いんじゃないかと思いますね。
F:もうちょっとゲリラ兵を育成したいという感じですか。トヨタの社中に。
豊:うん。そういう意味では、モリゾウは完全にゲリラですからね。“豊田章男”はトヨタの社長です。だからトヨタ車に対するコメントと、他社のクルマに対するコメントとでは、多少の色が付いて違うニュアンスになってしまっているかも知れない。
でも、モリゾウは関係ありません。別に色は付いていません、だから何でも好きなことが言える。例え他社のクルマだって、乗って良ければ「良い」と正直に言います。
F:モリゾウなら他社のクルマをベタ褒めしても構わない。
豊:ぜんぜん構わない。先日もお台場のBMWに行ってきたのですが、あれは素晴らしかった。M4を用意してくれていたのだけれど、僕が乗ると、ちょっと問題が有るでしょう(笑)
F:レーサーのモリゾウだったら飛ばすし(笑)
豊:そう(笑)。でも「いや、もう自由にやってください」と言ってくれて。それなら、とスキットパッド(試験路)を自由に走らせてもらって(笑)。お台場のBMW、良いですよ。ウチのお台場と違って、あそこはクルマも売っていますから。
F:そうか。トヨタのお台場は、試乗はできるけれども車両の販売はしていない。BMWは言うなれば展示即売会場なんですね。
豊:そうそう。MEGA WEBはクルマを売っていないんです。BMWさんの方ではオリジナルのBMWも、Mブランドも、それからアパレルまで売っている。立派な試乗コースも有りますしね。凄いですよ。
F:なるほど。
豊:あんまり凄いから、最後に「今度レクサスと競争しようね」って言ってきました。「悪いけど、レクサスは絶対に負けないから」って(笑)。そうしたら向こうも、「俺たちもレクサスには負けないから」って言い返してきて(笑)。
そういう競争は、僕はとても良いんじゃないかと思います。そういうことを言い合える仲というのは、自動車業界には多少必要ではないかと思いますね。
BMWとレクサスの真剣勝負。これは是非見てみたい。「負けませんよ。絶対に」と不敵に笑う章男社長の笑顔が印象的だ。
「トヨタにはアンチが多いんですよ」
F:スミマセン。話を引き戻して申し訳ないのですが、先ほどのトヨタ・アワード。あれは何のためにやっているのですか。モチベーションの向上だけが目的ですか。
豊:「全てのプロジェクトに日を当てるため」、です。
F:全てのプロジェクトに日を当てる、ですか。
豊:そう。やっぱりウチにはね、トヨタにはアンチが多いんですよ。もう「トヨタ」というだけで嫌いという人がたくさんいる。
F:それはCOTY(カー・オブ・ザ・イヤー)の選考委員に、という意味ですか。
豊:いや、COTYに限らず、世の中的に。もうトヨタだから嫌だ。トヨタというだけで嫌いという人が居るわけです。ウチの技術とか広報とかがいくら努力しても、「嫌い」の一言で片付けられちゃうことが結構多い。
F:あー……。
豊:みなさんの前でこんなことを言うのは悪いけれども、ジャーナリストが書いた物を見ても、そういう論調の物が有る訳ですよ。そういうことが続くと、ウチの社員が萎縮してしまう。
もっと堂々とすれば良い。堂々と良いクルマを作っていれば良いじゃないかと。トヨタ・アワードは、そのための賞なんです。正々堂々とやろうぜ、と。
F:なるほどなるほど。
豊:余りにもアンチが多いんです。トヨタには(苦笑)。
F:それは「アンチ巨人」と構造が似ているのでは無いでしょうか。余りにも強大だから嫌われる、隙が無いから好きじゃ無い、という。最近の巨人はちょっとアレですが……。
豊:それは有るかも知れませんけどね。
D豊島:モチベーション上がりますよ、やっぱり。
F:トヨタアワードがあるとですか?
D豊島:はい、アワードで。上がりますよ。純粋に受賞して嬉しいですもん。
さあさあ。ますます盛り上がって参りました。豊田章男社長インタビュー。
次回は「1000万台クルマを作るとどうなるか」についてお話を伺います。
自動車メーカーは製造業からサービス業に?
読者のみなさん、こんにちは。編集担当のY田です。
トヨタ自動車は8月5日、タクシー事業者団体の全国ハイヤー・タクシー連合会(東京都千代田区)と共同で、自動運転技術を活用した運転支援システムの開発に取り組むと発表しました。また、米テスラモーターズは7月20日、バスやトラックのEV開発に参入する方針を明らかにしています。
これらの動きは、急速に進化を遂げる自動運転技術を、新たなサービスの創出に生かそうとの試みの一端です。移動手段を自動車という「モノ」ではなく、「サービス」として提供することを狙っているのです。
例えば独ダイムラーは今年7月、オランダ・アムステルダムで自動運転バス(レベル3)の公道実験を実施しました。空港からアムステルダム中心部を結ぶ約20kmで、停止・発進からドアの開け閉めまでを自動運転システムが管理。クルマだけではなく、次世代型の交通システムを販売する計画です。
こうした動きを象徴する言葉として最近使われ始めているのが「MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)」。自動運転技術の進展に伴いMaaS時代が到来すれば、自動車を所有する意味合いは薄れ、製造だけにとどまる自動車メーカーは、今の事業モデルのまま生き残ることが難しくなる恐れがあります。
日経ビジネス9月5日号特集「ここまで来た自動運転 世界初取材 ドイツ最新試作車」では、ドイツ・日本各社の徹底取材を通じ、自動運転技術の進歩の現状、市場の未来と新サービス創出の可能性について詳細にまとめました。日経ビジネスオンラインの無料会員の方でも、無料ポイントを利用すればお読みいただけますので、ぜひご覧ください。
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