9月15日から千葉県の幕張メッセで開催されている世界最大級のゲーム展示会「東京ゲームショウ(TGS)2016」。昨年、会場の話題と人気をさらった「VR(バーチャルリアリティ=仮想現実)」対応のゲームが、今年はさらにスケールアップ。ゲームの“顔”となっていた。

 VRゲームは、ゴーグル型端末を装着し、360度見渡す限りの立体映像による臨場感や没入感を楽しむ新手のゲーム。首を振ると、その方向に連動して映像も変化するため、まるで、ゲームの世界に自分が入り込んだかのような感覚を得られる。

15日から開幕した東京ゲームショウ。ソニー・インタラクティブエンタテインメントのブースでは「プレイステーション VR」のコーナーに人が殺到していた
15日から開幕した東京ゲームショウ。ソニー・インタラクティブエンタテインメントのブースでは「プレイステーション VR」のコーナーに人が殺到していた

 中でも最前線を走るのが、VRゲームの展示が今年で3度目となるソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)。家庭用ゲーム機「プレイステーション4(PS4)」に対応したVR機器「プレイステーション VR(PS VR)」の発売が10月13日に迫っており、完成間近のタイトルが遊べるとあって、関係者が殺到していた。

開場後「14分」で整理券配布終了

 SIEのブースを訪れると、20台、17タイトルをそろえたPS VRの試遊コーナーはキャンセル待ちの人々で長蛇の列。15日と16日は、メディアやゲーム業界の関係者のみが入場できる「ビジネスデイ」だが、それでも試遊の整理券は「15日は30分、16日は14分でなくなった」(広報担当者)という。

「プレイステーション VR」の試遊整理券は開場後すぐになくなり、キャンセル待ちには長蛇の列ができた
「プレイステーション VR」の試遊整理券は開場後すぐになくなり、キャンセル待ちには長蛇の列ができた

 中でも「あっという間に埋まった」(同)という一番人気のタイトルが、バンダイナムコエンターテインメント(バンナム)の「サマーレッスン:宮本ひかり セブンデイズルーム(税別2759円)」というタイトル。プレイヤーは家庭教師となり、教え子の高校生「宮本ひかり」と夏休みの7日間を一緒に過ごして楽しむというものだ。

 PS VRの発売日に同時発売の予定で、試遊コーナーのソフトは「製品版の一歩手前のバージョン」(バンナムCS事業部のギャンダズ・オノ氏)。VRは普通のゲームとは違い、キャラクターの顔やそこあるモノなどが、数センチと間近に迫ることが多いため、より質感が問われる。「よりリアルにするために『宮本ひかり』の顔やアニメーションを作りなおした」(同)。

 試遊してみると、確かにあらゆる質感が昨年の参考出展時に比べ、格段に高まっていた。

 ゲームは、喫茶店から始まる。ストーリーは別の記事に譲るとして、喫茶店の小物1つひとつが、まるで本物がそこにあるかのような「リアリティー」を醸していた。

 VRゲームは、実際のモノを見るように、顔を近づけたり、いろいろな角度から見たりすることができる。何気なく机に置いてあった陶器製のシュガーポッド。そこに自分の顔を近づけ、首を左右に振ってみると、陶器表面の光の反射も微妙に変化する。そうした細かな表現が随所でリアリティーを増していた。

「サマーレッスン:宮本ひかり セブンデイズルーム」のデモ画面はユーチューブでも見ることができる(画像はユーチューブより)
「サマーレッスン:宮本ひかり セブンデイズルーム」のデモ画面はユーチューブでも見ることができる(画像はユーチューブより)

 教え子が登場すると、いきなり向こうから近づいてくるのだが、その顔や表情の変化は、立体感とVR特有のボケ感も手伝い、コンピューター・グラフィクス(CG)以上の存在感を放つ。昨年から1年でここまで進化するのであれば、「実写並み」のクオリティになる日もそう遠くないのではと思われた。

没入感は「小物」でも高まる

 質感とは違う意味で、これまでとはひと味違ったリアリティーを感じることができたのは、PS VR向けにSIEが開発中のシューティングゲーム「Farpoint(ファーポイント)」。VR向けの新たな銃型コントローラーで謎の生命体と戦闘していくゲームで、国内では初出展となる。

 試遊して分かったのは、映像だけではなく、「小物」によっても没入感は高まるということ。両手で握った銃型コントローラーを敵に向けると、連動してゲーム映像内でも銃が向く。引き金を引けば、弾が出る。通常のコントローラーのボタンを押すのとでは、没入感がこんなに変わるのかと思うほど、違った。

新たな銃型コントローラー「Playstation VR Aim Controller」を利用したゲーム「Farpoint」の試遊風景
新たな銃型コントローラー「Playstation VR Aim Controller」を利用したゲーム「Farpoint」の試遊風景

 もちろん、同ゲーム内での映像もプレイヤーに恐怖感を与えるのに十分なクオリティ。谷底への落差が100mはあろうかと思われる崖っぷちを歩いている際は、足がすくむような思いをした。

 数年かけて入念な準備をしてきただけに、圧倒的な完成度とラインナップを見せつけたPS VR。だが、「可能性」という意味では、SIE以外にも見どころがある。多くのゲームソフト会社がVR関連の展示をしており、その数は100以上。KDDIは離れた場所の友人などと会話ができるVRのアプリケーションを展示するなど、ゲーム以外への応用も多い。

 中でも異彩を放っていたのが、「マンガをVRで楽しむ」という体験を提供していたゲーム大手のスクウェア・エニックスだ。

 スクウェア・エニックスは、人気シリーズの「ファイナルファンタジー」や「トゥームレイダー」といったタイトルをPS VRに対応させることを発表している。一方、ゲーム以外へVRを応用する挑戦にも取り組んでいる。

 スクウェア・エニックスのブースで「プロジェクト Hikari」のデモを体験した。台湾HTCのVR装置「Vive(ヴァイヴ)」を装着すると、眼前に広がるのは白黒のマンガの世界。現実世界でマンガを読むように、見開きになったコマを目で追っていくというもので、解像度もPS VRで体験したタイトルに比べ、かなり粗く感じる。

「プロジェクトHikari」のデモの一部。スクウェア・エニックスが発行する「月刊ビッグガンガン」に連載中の「結婚指輪物語」を利用した
「プロジェクトHikari」のデモの一部。スクウェア・エニックスが発行する「月刊ビッグガンガン」に連載中の「結婚指輪物語」を利用した

 しかし、それぞれのコマは、ちゃんと立体処理が施されており、吹き出しも飛び出ている。かつ、吹き出しのセリフを声優が読み上げてくれる。加えて、一部のコマではキャラクターが動き出す。コマは手元のコントローラーで自在に拡大したり、左右上下に動かしたりできる。マンガとアニメーションの中間とも言える世界では、マンガともアニメとも違う、これまで味わったことのない没入感を得られ、斬新だった。

 映像としてのリアリティは欠けるのだが、そこがポイントだ。マンガを読む延長線上にちょっとした表現の付加をすることで、まったく新しい楽しみ方が生まれる。必ずしもリアリティーの追求だけがVRの道ではない、ということを気付かされた気がした。

「他の国がマネできない表現を見せたかった」

プロジェクトHikariを率いるスクウェア・エニックス テクノロジー推進部の曹家栄氏
プロジェクトHikariを率いるスクウェア・エニックス テクノロジー推進部の曹家栄氏

 このプロジェクトを率いるのは、テクノロジー推進部の曹家栄氏。曹氏は台湾出身で、「日本が海外に誇るマンガというコンテンツの可能性を追求するべき」と話す。「日本企業として他の国がマネできないマンガの表現を見せたかった」。

 今年は「VR元年」。それでも東京ゲームショウにはバラエティー豊かなタイトル、試遊がそろい、あらゆる可能性を見せつけていた。VRは、どこまで進化するのか。仮想世界から帰ってこられないプレイヤーが続出するのではないかと危惧するほどだ。東京ゲームショウは、17日~18日まで一般公開されている。

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