かわいすぎるナマケモノの赤ちゃん、笑顔の奥には…

ナマケモノの本を出版した写真家のサム・トラル氏に聞く

2016.07.25
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フタユビナマケモノのカーミー。生後わずか数カ月で木のぼりの練習をしている。(Photograph by Sam Trull)
フタユビナマケモノのカーミー。生後わずか数カ月で木のぼりの練習をしている。(Photograph by Sam Trull)
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 ナマケモノはいつも笑みを浮かべている。毛むくじゃらで愛くるしく、まるで動物界のカウチポテト族だが、実は問題を抱えている。

 中南米には6種のナマケモノが生息しているが、いずれも絶滅の危機に瀕しているか、個体数が激減している。原因は人間による生息地への侵入だ。写真家で、霊長類の保護に取り組むサム・トラル氏は数年前から、樹上に暮らすこのカリスマ的な動物たちを記録している。(参考記事:動画トピックス「ナマケモノの生活」

 「霊長類の仕事をするためコスタリカに移住し、1匹目のナマケモノに出会いました」。その後はこの通りです、とトラル氏は話す。

 米国のNPO、キッズ・セイビング・ザ・レインフォレスト(KSTR)が運営する動物保護施設で、トラル氏は多くのナマケモノの赤ちゃんを世話してきた。孤児となったり、捨てられたりした赤ちゃんだ。そのほとんどは、最終的に野生に戻される。トラル氏は自身の体験を写真で記録し、『ナマケモノ愛』(原題「Slothlove」、未邦訳)という1冊の本にまとめた。

 なぜ興味の対象が霊長類からナマケモノに変わったのだろう。トラル氏に直接、話を聞いてみた。

【動画】ナマケモノ救済センターの内部。おなかをすかせたナマケモノの孤児や住む場所を失った大人のナマケモノが見つかると、イスケル・ヤンゲズ氏とネストル・コレア氏が対応にあたる。2人はパナマのガンボアで、ナマケモノのリハビリと野生への復帰を専門とする動物救済センターを運営している。(解説は英語です)

――写真に関心を持ったきっかけは?

 以前、西アフリカで仕事をしていたころです。異国ではあらゆるものが魅力的に見えて、なんでも写真に撮るようになりました。米国ノースカロライナ州に戻った後、家族写真や結婚式の写真、新聞の写真を撮る仕事を始めました。

 その後、KSTRとともにコスタリカに移住し、野生生物のためのリハビリ施設で働くことになりました。(参考記事:「【連載】コスタリカ 昆虫中心生活」

気持ちよさそうに眠るフタユビナマケモノのカーミー、エレン、ペロタ。キッズ・セイビング・ザ・レインフォレスト(KSTR)が運営する保護施設で撮影。(Photograph by Sam Trull)
気持ちよさそうに眠るフタユビナマケモノのカーミー、エレン、ペロタ。キッズ・セイビング・ザ・レインフォレスト(KSTR)が運営する保護施設で撮影。(Photograph by Sam Trull)
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――霊長類と多くの時間を過ごした後、ナマケモノの仕事をするのはどのような感じでしたか?

 ただ恋に落ちたということです。私はナマケモノたちの代理母になりました。カメラを持ち歩くことが多く、自然に写真を撮り始めました。彼らを愛し、尊敬するようになり、助けてあげたいと思いました。(参考記事:「ナマケモノは小さな生き物たちのスローでエコで暖かい「宇宙」だ」

ハイビスカスの茎で遊ぶミユビナマケモノのモンスター。撮影当時は生後1カ月。ハイビスカスの花は大好物の一つだ。(Photograph by Sam Trull)
ハイビスカスの茎で遊ぶミユビナマケモノのモンスター。撮影当時は生後1カ月。ハイビスカスの花は大好物の一つだ。(Photograph by Sam Trull)
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――本を出版しようと決めた理由は?

 主な動機は、ナマケモノについて人々に知ってもらうことでした。誤った情報があふれているためです。ナマケモノはストレスを感じないなどといった、事実と異なるひどい情報もあります。おそらくそうした情報のせいで、ナマケモノはあまり敬意を払われないのでしょう。

 車にひかれたり、イヌに襲われたり、電線に絡まったりと、ナマケモノが様々な脅威にさらされていることを知っている人も多くありません。ただ柔らかくてかわいく、ストレスとは無縁の動物だと思っています。だから、多くの人が気軽にナマケモノと写真を撮るのです。彼らが混乱していることなど想像もつかないのでしょう。(参考記事:「ナマケモノ、危険なトイレ旅の見返りは」

昼寝をする生まれたばかりのフタユビナマケモノ。(Photograph by Sam Trull)
昼寝をする生まれたばかりのフタユビナマケモノ。(Photograph by Sam Trull)
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――お気に入りのナマケモノはいますか?

 モンスターと名付けられたミユビナマケモノです。彼女は生後わずか2週間で施設にやって来て、最初はヒステリーのような状態でした。小さな毛皮のボールくらいのときに、道路を渡っているところを保護されました。大きな鳴き声で何度も何度も母親を呼び続けていました。初日の夜は、どうしても落ち着かせることができませんでした。抱きしめたり、一緒に歩いたりしましたが、結局、落ち着くことはありませんでした。(参考記事:「ミツユビナマケモノ」

 その夜は一睡もできませんでした。翌朝、別のボランティアが出勤し、新入りの赤ちゃんについて尋ねてきました。私は思わず、「このナマケモノはモンスターよ!」と叫びました。それがモンスターという名前の由来です。今は、ばかな名前を付けたと思っています。彼女はこれ以上ないほどかわいくて、愛くるしく、まさに天使の心を持っているのです。(参考記事:「動物の赤ちゃんフォトギャラリー10選」

保護施設で体を寄せ合うロケットとエルビス。(Photograph by Sam Trull)
保護施設で体を寄せ合うロケットとエルビス。(Photograph by Sam Trull)
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――モンスターのその後は?

 本の中では、モンスターのことや彼女に皮肉な名前が付いた経緯を語っています。本が出版されたのは、彼女を野生に戻す前でした。現在、彼女は2歳半になり、自然の中で元気に暮らしています。野生に戻したすべてのナマケモノはVHF発信器の付いた首輪を装着しているため、様子を確認したり、行動を追跡したりできます。彼女は遠く離れた場所で、最高に幸せな暮らしを送っているはずです。(参考記事:「【動画】野生復帰したトラに子ども、初めて確認」

――現在の仕事は?

 2014年にコスタリカ・ナマケモノ協会(Sloth Institute of Costa Rica)を立ち上げ、着実に規模を拡大しています。私たちの主な目的は、人工飼育のナマケモノを野生に戻す手助けをすることです。ナマケモノを野生に戻すには、長く単調な作業を地道に続けなければなりません。さらに、野生のナマケモノの行動研究、彼らの健康状態を調べる取り組みも始めました。つまり、人間が彼らに悪影響を及ぼさないよう、あらゆる情報を集めているのです。(参考記事:「ナマケモノやカメはなぜのんびり生きられる?

毛布にくるまるミユビナマケモノのエルビス。撮影当時はまだ生後数週間。(Photograph by Sam Trull)
毛布にくるまるミユビナマケモノのエルビス。撮影当時はまだ生後数週間。(Photograph by Sam Trull)
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文= Carrie Arnold/訳=米井香織

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