2021年までに完全自動運転車を共同で開発すると発表したBMW、インテル、モービルアイの記者発表の様子(写真:BMW)
2021年までに完全自動運転車を共同で開発すると発表したBMW、インテル、モービルアイの記者発表の様子(写真:BMW)

 ご覧になった方も多いと思うが、9月17日のNHKスペシャルで、自動運転のことを取り上げていた。これまでニュースなどで取り上げてはいたが、長時間の番組で正面から取り上げたのは今回が初めてではないか。ただ、現実は、あの番組よりもずっと先を行っていると感じる。そう思わせるニュースがこの半年ほどで立て続けに起きたからだ。そのニュースとは、世界の完成車メーカーや部品メーカーが、わずか5年後に、人間の運転が不要なクルマの実用化を目指すと表明したことである。

BMWはインテル、モービルアイと協力

 完成車メーカーでは、ドイツBMWや米フォード・モーター、スウェーデン・ボルボなどがこの6月から8月にかけて、完全自動運転車の2021年ごろの商用化を目指すと表明した。口火を切ったのはBMWだ。2016年6月に、米インテル、イスラエル・モービルアイと共同で、自動運転車の開発に共同で取り組み、2021年までに「完全自動運転車」(レベル4)の量産を目指すと発表したのだ。モービルアイは、先に紹介したNHKの番組でも取り上げていた、運転支援システム用半導体の大手企業である。

 BMWが2021年までに量産を目指しているのは「iNEXT」と呼ぶ完全自動運転車で、高速道路だけでなく、市街地での自動走行も可能な、ライドシェアリングサービス向けの車両だ。最終的には「無人運転」(レベル5)の実現を目指している。

 一方フォードも2016年8月に、ライドシェア向けの完全自動運転車の量産を2021年に始めると発表した。同社が目指しているのは、ハンドル、ブレーキ、アクセルのない自動運転車で、決められたエリア、決められたルートでのライドシェア向けに量産すること。このために、関連のベンチャー企業4社に投資するほか、シリコンバレーの開発拠点で、研究開発の人員を倍増するほか、2016年内に自動運転の実験車両を3倍の30台に増やす。

2021年に完全自動運転車の量産を表明したフォードの実験車両(写真:フォード・モーター)
2021年に完全自動運転車の量産を表明したフォードの実験車両(写真:フォード・モーター)

 さらにボルボも、完全自動運転車の開発に向けて、ライドシェア大手の米ウーバー・テクノロジーズとの提携を8月に発表した。ウーバーとの提携では、両社で3億ドルを投資し、両社の最新の自動運転技術を盛り込んだベース車両を共同で開発し、製造をボルボが担当する。この共通のベース車両を用いて、ボルボとウーバーはそれぞれ、完全自動運転を目指した次世代の自動運転車を開発する。両社は今回の提携を長期の提携としており、将来の共同事業にも含みをもたせている。ブルームバーグは、両社が2021年までに完全自動運転車を開発することを目指していると報じている

ボルボとウーバーが共同開発する自動運転の実験車両のイメージ(写真:ボルボ)
ボルボとウーバーが共同開発する自動運転の実験車両のイメージ(写真:ボルボ)

自動運転車の「レベル」とは?

 ここまでの説明で読者の中には、完全自動運転と無人運転とどう違うの?
レベル4とかレベル5って何? という方も多かろう。一口に自動運転といっても、そこにはいくつかの段階があり、最も一般的なレベル分けは米運輸省道路交通安全局(NHTSA)の次のような定義だ。

  • レベル1(部分的な自動化):自動ブレーキ、車線維持支援機能など、単独の運転支援機能を搭載。
  • レベル2(複合機能の搭載):自動ブレーキ、車線維持支援、ハンドル操作の自動化など、複数の機能を組み合わせて、例えば高速道路で同じ車線を走り続けるなど、限定した条件の自動運転を実現する段階。人間は常にシステムの動作状況を監視する必要がある。
  • レベル3(条件付き自動化):人間の監視・運転操作は不要だが、システムが機能限界に達した場合には、人間に運転を移譲する段階。
  • レベル4(完全な自動化):人間の監視・操作が不要で、安全の最終的な確認も機械に任せている段階。

 この4つのレベル分けがこれまではポピュラーだったのだが、最近は1段階多い5段階で自動運転のレベル分けをすることが多くなってきた。このレベル5は、従来のレベル4を二つに分けたもので、SAE(自動車技術会)インターナショナルという自動車技術の国際団体が定めたものだ。

自動運転のレベル。従来はレベル0~4に分けたNHTSA(米運輸省道路交通安全局)の定義が主流だったが、最近はSAE(自動車技術会)インターナショナルの定めたレベル0~5の分類を使うことが多くなっている(<a href="http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/autopilot/pdf/05/2.pdf" target="_blank">国土交通省の関係資料より</a>)
自動運転のレベル。従来はレベル0~4に分けたNHTSA(米運輸省道路交通安全局)の定義が主流だったが、最近はSAE(自動車技術会)インターナショナルの定めたレベル0~5の分類を使うことが多くなっている(国土交通省の関係資料より
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 このレベル分けによれば、完全自動運転はレベル4の「高度な自動化」とレベル5の「完全な自動化」の2つに分けられる。レベル4が「いくつかの走行モード」で完全自動走行が可能であるのに対して、レベル5は「すべての走行モード」で完全自動走行が可能であるというのが違いだ。

 ここでいう「走行モード」とは、例えば「時速60km以上の高速走行モード」とか、「時速30km以下の渋滞走行モード」といったものだ。つまり、状況を限った“完全”自動運転ということなのだ。状況を限っていて“完全”と言えるのか? という感じはするのだが、フォード、BMWなどは2021年までに実用化を目指すレベル4の自動運転技術は、あらゆる場所、あらゆる走行状況を想定したものではなく、場所的にも、状況的にも限定されたものになりそうだ。

まずライドシェアで実用化?

 興味深いのは、フォード、BMWとも2021年に実用化を目指すレベル4の完全自動運転技術を、ライドシェアサービス向けに投入するとしていることだ。ボルボとウーバーが共同開発する車両も、ウーバーがライドシェアサービスに使う予定だ。これらのことから考えられるのは、決められたエリア内、あるいは決められたルート内で運用される自動運転の乗り合バスや乗り合いタクシーのようなイメージだ。例えばオランダでは、運転手が乗っていない自動運転バスを試験的に運行する「WEpod」と呼ばれるプロジェクトが、すでに実施されている。遠隔監視をしているので完全自動ではないものの、こうしたサービスはすでに試行が始まっているのだ。

オランダの「WEpod」プロジェクト。無人車両開発ベンチャーであるフランス・イージーマイル製の遠隔監視の無人バスを公道で走らせている(写真:イージーマイル)
オランダの「WEpod」プロジェクト。無人車両開発ベンチャーであるフランス・イージーマイル製の遠隔監視の無人バスを公道で走らせている(写真:イージーマイル)

 確かに、自家用車の場合、走行すると想定されるルートは多種多様であり、自動運転のハードルは高くなる。走行するルートやエリアが限定されていれば、自動運転が可能かどうかをその範囲内だけ徹底的に検証すればいいし、もし自動運転で走行しにくい場所があれば、状況を改善する(例えば、白線が消えかかっているところを引き直す、街路樹が伸びて走行しにくいところは伐採する…など)といった対策が可能になる。

プラットフォーム供給を目指す

 完全自動運転を巡る話題で注目されるのは、実現の時期が当初の予定よりも早まっていることばかりではない。いくつかの企業グループが、自動運転技術の「プラットフォーマー」の座を獲得しようと動き始めたことだ。

 先に紹介したBMW、インテル、モービルアイの3社は、レベル3からレベル5までを実現する自動運転のオープンプラットフォームを開発することを目指しており、他の完成車メーカーにも提供するとしている。同様な狙いでボルボも、完全自動運転車の開発に向けて、先に紹介したウーバーとの提携事業とは別に、大手セーフティ・システム・サプライヤーであるスウェーデン・オートリブとも自動運転技術の開発で提携した。

 この提携では、ADAS(先進運転支援システム)および自動運転ソフトウエア開発のための合弁会社を設立する。この合弁企業で開発した自動運転技術はボルボだけでなく、オートリブを通して世界の自動車メーカーに向けて販売し、利益は両社で折半する。両社は最初のADAS関連製品を2019年に、自動運転技術に関しては2021年に商品化することを目指している。

 自動運転技術の「プラットフォーマー」を目指しているのは完成車メーカーだけではない。先ほどから名前が出ているモービルアイは2016年8月に、米国の大手サプライヤーのデルファイ・オートモーティブとCSLP(セントラル・センシング・ローカリゼーション・アンド・プランニング)プラットフォームの共同開発で合意したと発表した。

 CSLPは、SAEインターナショナルの定義におけるレベル4やレベル5の自動運転を可能にするプラットフォームで、完成車メーカーは自社のシステムにこのプラットフォームを組み込むことで、完全自動運転車を商品化できる。両社は2017年1月に米ラスベガスで開催される家電関連の大規模展示会であるCES 2017で、CSLPの市街地および高速道路でのデモを実施する。CSLPの生産開始は2019年になる見込みだ。

3次元地図でもキープレーヤー狙う

 モービルアイは、自動運転技術だけでなく、地図の技術でもキープレーヤーになりつつある。現在の自動運転車では、道路や周囲の建物などの詳細な情報を盛り込んだデジタル3次元地図が不可欠だが、このフォーマットが世界で統一されていないのが問題になっている。

 モービルアイは2016年1月に独フォルクスワーゲン(VW)と、2月に日産自動車との間で、モービルアイの開発したREM(ロード・エクスペリエンス・マネジメント)という技術で提携すると発表した。REMは、完全自動運転で必要な3次元地図情報を、1km走行当たり10キロバイトという非常に少ないデータ量で提供する技術である。

 この2つの提携で注目されるのは、VWグループも日産グループも、トヨタ自動車グループ、GMグループと並ぶ、いわゆる「1000万台クラブ」の会員であり、モービルアイはそのうちの2つのグループと密接な関係を築いたということである。先に述べたように、自動運転用の3次元地図では世界統一のフォーマットがまだなく、いくつかの陣営がつば競り合いをしているのだが、VWと日産がこの地図フォーマットを採用すると、両社の世界生産台数の合計は世界の自動車生産台数の2割以上を占め、他の陣営に対して一歩リードすることになる。

「ビジネスモデル転換」に遅れる日本

 こうした世界の動きに、日本の対応は遅れ気味だ。確かに日本は、国家レベルで自動運転を推進している。国内では2016年5月20日に決定された「官民 ITS 構想・ロードマップ 2016」〔高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(以下IT総合戦略本部)〕に基づき、2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでに、無人バスなどを使った移動サービスや、高速道路での自動運転が可能となるよう、2017年までに必要な実証実験ができるように制度やインフラ面の環境整備を行うことになっている。

 また、このような自動走行を含む ITS のイノベーションを推進するため、企業の枠を越えて自動走行地図の仕様を統一し、これを基に2016年度中に国際標準を提案することなどが進められることになっている。また、官民連携で地図関連データの整備を進め、早ければ 2018年までの早期実用化を目指すことも明記された。

 ただし、2020年に実用化を目指している無人車両を使ったサービスは、遠隔監視を前提としたもので、フォードやBMWが2021年に実用化を目指している完全自動運転に比べて見劣りする。また日本の完成車メーカーが開発を進めている自動運転技術は自家用車向けがほとんどで、フォードやBMWが発表したような商用サービス車両向けの自動運転技術の開発はあまり手が着けられていない。

 こうした公共サービス向けの自動運転技術の開発に、日本ではこのコラムの第35回で紹介したロボットタクシーなど、ベンチャー企業が挑んでいるのだが、技術力という面で、BMWやフォードのような巨大企業に対して、劣勢は否めない。

 一方で、地図フォーマットの統一についても、日本から提案した規格がそのまま国際規格になった例は過去にほとんどない。自動運転の時代には、このコラムの第11回で触れたように、自動車産業の姿はガラリと変わる可能性があると筆者は考えている。こうしたビジネスモデル転換に、海外の完成車メーカーや部品メーカーが正面から取り組んでいるのに対して、日本の完成車メーカーの取り組みは、現在の自動車ビジネスの延長線上にとどまっているように見えるのが気がかりだ。

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