仕事やプライベートの時間をやりくりするために、真っ先に削ってしまうのが「睡眠」ではないだろうか。また、年齢とともに、眠りが浅くなったり、目覚めが悪くなったりする人も多いに違いない。もう眠りで悩まないための、ぐっすり睡眠術をお届けしよう。

一日の疲れを取り、翌日もバリバリ仕事をするためには、自分の体に合った「寝具」選びも大切になってくる。(©PaylessImages-123RF)
一日の疲れを取り、翌日もバリバリ仕事をするためには、自分の体に合った「寝具」選びも大切になってくる。(©PaylessImages-123RF)

 一日の疲れを取り、翌日もバリバリ仕事をするためには、何よりもぐっすり眠ることが大事。そのためには「寝具」選びも大切になってくる。たとえ短い時間であっても、ソファでうたた寝するより、きちんとベッドに入って眠ったほうが疲れが取れる。それは多くの人が経験していることだろう。

 「寝具の基本は、枕、敷き布団、掛け布団の3点。それぞれの役割を備えた寝具を“正しく選ぶ”ことが、いい眠りを取るための条件です」と、東京西川日本睡眠科学研究所課長の志村洋二さんは話し始めた。

枕は「頭を乗せるもの」ではない

 自分に合った枕を選ぶというのは意外に難しく、「枕が変わると眠れない」という言葉もあるように、睡眠の質に大きく影響している。よく眠れないという人は、枕を見直してみるのもひとつの方法だ。

 枕についての一番の誤解は「単に頭を支えるものだと思っていること。枕は頭だけではなく、首も支えるものなんです」と志村さんは指摘する。

 つまり、頭だけ乗せて首を浮かせるのは間違い。肩まで枕に触れるようにして、頭と首をしっかり枕の上に乗せる。そのためには、ある程度の大きさが必要だ。実際、最近の枕は大型化が進んでいるという。

 形状は「真ん中がくぼんだドーナツ型がいい」と志村さん。そのくぼんだ部分に後頭部をはめ込むイメージだ。中央がくぼんでいると、首から後頭部にかけて枕がフィットしやすい。

枕の最適な高さの測り方
枕の最適な高さの測り方
壁や柱に肩甲骨をつけて、少しあごを引いて後頭部はつけない。その姿勢で、後頭部のでっぱり(A)、首のくぼみ(B)が、それぞれ壁や柱から何センチ離れているかを測り、枕のサイズ選びの目安にするといい。
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 硬さも気になるが、枕で最も大切なのは高さ。最近は後頭部と首のカーブを測り、それぞれの人に合わせて作るオーダーメイドの枕も人気がある。市販の枕を選ぶ場合も、自分に合った高さを知っていると選びやすい。「壁や柱に肩甲骨をつけて、少しあごを引いて後頭部はつけない。その姿勢で、後頭部のでっぱり、首のくぼみが、それぞれ壁や柱から何センチ離れているかを測り、目安にするといいでしょう」と志村さんはアドバイスする。

 数値は人それぞれだが、大まかには首の部分が5~9㎝、後頭部が2~6㎝程度だ。

 素材はそばがらやパイプなど硬いものから、わたや羽毛など柔らかいものまである。基本的には好みで選べばいいが、柔らかい枕は沈み方が大きくなる場合もあるので、実際に試してからの購入がお勧めだ。

いい姿勢を保った上で、体圧を分散させる

 体を支える敷き布団には、ふたつの役割がある。

 まず、寝姿勢(寝るときの姿勢)の保持。「整形外科医もよく言うように、まっすぐ立っている状態をそのまま仰向けにしたのが、自然で無理のない寝姿勢です」と志村さんは話す。

 もうひとつは体圧(体にかかる圧力)の分散だ。仰向けに寝た場合、最も体重がかかるのは腰の部分。日本睡眠科学研究所の研究によると、頭部に8%、脚に15%の体重がかかるのに対し、胸(の後ろ)に33%、腰に44%もの体重がかかるという。このため、敷き布団が柔らか過ぎると、腰の部分が沈み、体がくの字になってしまう。

敷布団にかかる体圧の分布
敷布団にかかる体圧の分布
仰向けに寝た場合、最も体重がかかるのは腰の部分。このため、敷き布団が柔らか過ぎると、腰の部分が沈み、体がくの字になってしまう。
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 そのせいか、柔らかい敷き布団は体に悪いと信じている人も多いが、「硬すぎても体の凸部分に負担がかかりやすいため良くありません。体重も関係があり、体重が多い人はしっかり体を支えられる硬めの敷き布団、軽い人は柔らかい敷き布団がお勧めです」と志村さん。

 寝姿勢の保持には硬いほうがいいが、体圧分散には柔らかいほうがいい。敷き布団はその相反する要素のバランスが重要であり、固すぎても柔らかすぎてもダメなわけだ。

 素材にはウールわたやウレタンが使われる。ウールわたは吸湿発散性に富み、蒸れにくい。一方で、ウレタンは耐久性が高い特長があり、どちらがいいと簡単には言えない。ウレタンの場合、床に敷きっぱなしにしているとカビが生えやすいので、「ときどき立てかけて風に当てなければいけません」と志村さんは注意する。カビを防ぐには、すのこベッドを活用する手もある。

 ウレタン製の敷き布団には「点で支える」、つまり表面が点字ブロックのようになっているものもある。こうすると圧力がかからない部分ができるため、血行を妨げにくくなるという。

 また、敷き布団と枕の高さも関係がある。敷き布団が柔らかければ体が深く沈み込むので、相対的に枕が高くなりがちだ。柔らかい敷き布団を使うなら、枕を低めにして、体の高さとのバランスを取らなければいけない。

布団の中は33±1℃が理想的

 睡眠中は体温が下がる。このため、掛け布団には必要以上に体温を下げないための保温力が求められる。寝心地に関係するのは、寝床の中の温度と湿度だ。

 「理想は温度が33プラスマイナス1℃、湿度が50プラスマイナス5%。これは1年中いつでも変わりません。つまり、この数字になるように掛け布団の種類などで調整すればいいわけです」(志村さん)

 東京西川は、平均年齢22.5歳の女性6人に参加してもらい、寝床の中の温度と睡眠の質との関係を調べた。布団の中の温度が33℃のときが、ノンレム睡眠(深い眠り)の割合が多い結果となり、最も睡眠の質が良かったという(下図)。

布団の中を33±1℃に保つと快眠につながる
布団の中を33±1℃に保つと快眠につながる
平均年齢22.5歳の女性6人に参加してもらい、寝床の中の温度と睡眠の質との関係を調べた。布団の中の温度が33℃のときが、ノンレム睡眠(深い眠り)の割合が多い結果となり、最も睡眠の質が良かった。図中の睡眠の割合を示す数値はモニター6人の平均値。(西川産業日本睡眠科学研究所と橋本生理人類研究所の共同研究より)
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 ちなみに東京西川では、室温が15℃前後のときは羽毛の掛け布団、20℃前後のときは真わたの掛け布団を勧めている。

 これから夏になると、最低気温が25℃より下がらない熱帯夜も多くなるだろう。そうなると掛け布団なんて必要ない気もするが、「掛け布団を使わないことは夏風邪の原因になります。いくら暑くても掛け布団を、最低でもお腹にタオルケットくらいは掛けてください」と志村さん。汗を吸ってもらうために、パジャマもきちんと着たほうがいい。

 寝具によって睡眠の質は大きく変わってくる。体に合わない枕や敷き布団を使っているため、不眠症になることもある。毎日の睡眠に満足していない人は、思い切って寝具を見直してみるのもいいだろう。

志村洋二(しむら ようじ)さん
東京西川 日本睡眠科学研究所 課長
志村洋二(しむら ようじ)さん 1986年 東海大学工学部卒業。同年西川産業株式会社(東京西川)入社。研究開発室に所属し、主に健康関連商品の開発に従事。社内認定資格「スリープマスター養成講座」において健康寝具のて講師を務める。2014年R&D室 日本睡眠科学研究所課長。現在は、主に大学や医療機関と、寝具の違いが睡眠の質に与える影響などの共同研究に携わっている。
志村洋二(しむら ようじ)さん
東京西川 日本睡眠科学研究所 課長
志村洋二(しむら ようじ)さん 1986年 東海大学工学部卒業。同年西川産業株式会社(東京西川)入社。研究開発室に所属し、主に健康関連商品の開発に従事。社内認定資格「スリープマスター養成講座」において健康寝具のて講師を務める。2014年R&D室 日本睡眠科学研究所課長。現在は、主に大学や医療機関と、寝具の違いが睡眠の質に与える影響などの共同研究に携わっている。

この記事は日経Gooday 2016年5月19日に掲載されたものであり、内容は掲載時点の情報です。

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