電通は9月23日、インターネット広告の代金をめぐって広告主への過大請求があったと発表した。広告の掲載時期が本来の取り決めより短くなったりずれたりした場合にも、広告主に報告せず、請求額を正していなかった。同日開いた記者会見では、過大請求の悪質性についての質問が相次いだ。電通幹部はあくまでも過大請求のほとんどはミスの積み重ねによるものであり、悪意の有無や動機については、今後の調査で明らかにしたいと繰り返した。

 記者会見に出席したのは取締役副社長の中本祥一氏、デジタル広告を含め国内メディアを担当する常務執行役員の山本敏博氏、デジタル広告の現場を統括するデジタルプラットフォームセンター局長の榑谷典洋氏。主なやりとりは以下の通り。

 記者会見はまず、中本副社長の冒頭説明から始まった。


【中本副社長・冒頭説明】

 一部で報道されている通りだが、国内のデジタル広告において、広告主はじめ関係各位に多大なご迷惑とご心配おかけしたことをお詫びする。

 当社とグループ会社によるデジタル広告において、複数の不適切業務が行われたことが判明した。具体的内容については現在調査を続けているが、現時点で掌握できているのは、故意または人為的ミスに基づいて、デジタル広告の掲載期間のズレ、広告そのものが掲載されていなかったこと、あるいはデジタル広告の運用状況や実績に関する(広告主への)虚偽報告、未掲載のデジタル広告に関する(対価の)請求が含まれている。

 経営陣が今回の問題を把握したのは8月初旬。8月15日には、私を委員長とする社内調査チームを設置した。関連業務に従事する社員へのヒアリングや、各種データ・書類の照合を進めている。2012年11月以降のデジタル広告サービス全般を対象に、広告主1810社の20万件を調べている。

 このうち、現時点で(不適切業務の)疑いがある作業案件は633件で、対象となる広告主は111社。不適切な請求に相当する金額は約2億3000万円。とりわけ深刻なのは広告が掲載されていないにもかかわらず(広告主に代金を)請求していた14件だと受け止めている。

記者会見の冒頭で頭を下げる中本副社長ら(9月23日、東京証券取引所)
記者会見の冒頭で頭を下げる中本副社長ら(9月23日、東京証券取引所)

 現時点で確認されている広告主には、現時点で判明している部分について報告している。広告業に関する業界団体にも同様に、現時点で判明している事実についてはすでに報告している。

 原因究明はこれからだが、現時点で分かっている範囲でいうと、本来ミスが生じやすい業務領域であるにも関わらず、これらをけん制、防止、発見する管理体制が不十分であったのは疑いのない事実だと考えている。当面の対処策として、デジタル広告の発注・掲載・請求の内容確認業務を、独立性の高い部署に移管した。社内調査は年内をめどに完了させたい。その時点で、あらためて記者会見も開く。調査結果が出た段階で、広告主には個別補償も含めて対応を考える。

 本件の責任は、特定の個人というより、業務を統括するマネジメント、経営にあると思っている。深く反省し、信頼回復にむけて原因究明・再発防止に努めていく所存だ。調査結果が出た段階で、社内規定にもとづく処分等々も考えなきゃいけない。繰り返しになるが、広告主など関係各位には大変なご迷惑をおかけした。重ねてお詫びする。

 冒頭説明の後、デジタル広告事業の概要についての説明を経て、記者会見は質疑応答に移った。

未掲載で請求したのは320万円

具体的にはどんな不正があったのか。

 「いくつかの事例でいうと、たとえば広告主から『1カ月のあいだ、予算100万円で運用してほしい』と発注・依頼があったとする。広告の入札が予想以上に順調に進みすぎ、その結果、1カ月を満たさずに、予算を使い切ってしまう場合がある。このとき、配信が途中で終わったと報告せずに、1日~30日まで配信されていましたと報告するようなケース。逆に、たとえば入札が順調に進まず、キャンペーン当初の3日間、広告がまったく配信されていなかった。その後、運用方針を変えて結果的に月内の課題は達成したのだけれども、当初3日間に配信されていなかったものを、1日目から配信されていたという形で報告していた、など(のケースもある)」

 「バナー広告から検索連動型広告やソーシャル広告、それから最近増えている動画広告など(種類を問わず)不適切業務があった。疑義のある633件に関わったのは電通とグループ会社の100〜120名。このうち故意に不適切業務を働いた人数がどれだけかについては調査中であり、把握していない」

過大請求はいくらあったのか。

 「言葉遣いの問題かと思うが、いわゆる未掲載にもかかわらず請求したのは320万円。期間のズレを報告していないなど、実際の掲載結果とは違う報告をして請求しているのが、未掲載のものも含めて約2億3000万円だ」

トヨタ指摘で発覚、社内調査で他社へ波及

発覚の経緯は。

 「まず広告主から問い合わせがあり、社内調査を始めた。その内容を調べる過程で、これは問い合わせがあった広告主に偶発的に起きたものではないかもしれないという可能性が出てきた」

広告主は、何をおかしいと思ったのか。

 「個別のクライアントの話なので、具体的なことは(話せない)」

クライアント名ではなく、何がおかしかったのか聞きたい。

 「7月に発覚したということは、おそらく6〜7月の出稿についてと想定されるが『掲載されるはずの期間に掲載されていないのでは』という種類の指摘があった。掲載による期待値に比べ(掲載による)効果が一向にあがっていない。このため正しく期待通りの露出が行われていますかという疑義が出た」

トヨタ自動車が最初に指摘した広告主か。

 「クライアントの名前を聞かれるとなかなか回答しにくいが、できる限りトヨタの指摘で発覚したと書いてほしくないが、トヨタからの指摘がたしかに最初」

デジタル広告の現場、恒常的に人手不足

なぜ、このような不適切業務が行われたのか。

 「ごまかしたとか、不適切行為をしたことの動機は、社内調査の最大のポイントになる。上司に怒られるのが嫌だったとか、逆にプラスの評価を得たかったのかもしれない。主原因はわかっていない。(調査の結果として)現場へのプレッシャーも含めて、マネジメントがもうちょっと配慮するべきだったということも、そういう意味では経営に責任がある」

 「運用型デジタル広告は、クライアントからのニーズが増えているジャンル。現場は恒常的に人手が不足している。ただ、それをできないとか、時間がないとか、あるいは自分の力がないと言いにくいというような状況があったということは、現時点では(要因の)ひとつの例としてだが、わかっている。これが根本原因かについては、調査の報告を待ちたい」

デジタル広告の需要は、どれだけ増えているのか。

 「デジタル広告には、指定した期間、指定したスペースに対しての掲載を保証する『予約型広告』と、広告の露出やクリック数、動画の視聴完了など様々な基準に基づいて対価を請求する『運用型広告』がある。デジタル広告の領域全体では、売り上げや売上総利益は前年比で2ケタ成長しているが、なかでも2010年ごろから『運用型デジタル広告』の比率が高まってきた。今回問題が起きたのは『運用型』で、正確な数値は後ほど報告するが、すでに(デジタル広告の)過半を超えている」

運用型広告が増えている理由は。

 「クライアントの究極の目的が広告の露出ではなく、販売額の向上やブランドイメージの好転といった成果にあるからだ。運用型のほうが成果にコミットできる」

冒頭で運用型デジタル広告はミスが生じやすい業務領域と説明があったが、どういうことか。

 「運用型デジタル広告は、従来のマスメディアの広告とは違う。従来は単純に掲載期間と掲載スペースを指定し、発注し、それが媒体社から受け付けられた、というところでほぼ作業が終わっていた。『運用型』は日々、運用の結果を見ながら、(掲載などを)再調整して、その結果をもってまた広告主と協議する。作業が非常に複雑で高度になるのでミスを招きやすい」

12月メドに社内調査終える

どのように社内調査を進めるのか。

 「8月に調査委員会を立ち上げてから1カ月経過している。期間は12月までの3カ月。経営企画局や法務マネジメント局の幹部のほか、外部有識者ということで弁護士、電通の監査をしていない会計監査法人からも人員を招いている。現時点ではこのチームで進める予定で、第三者委員会の設置は考えていない」

調査の結果、補償額が広がる可能性もあるのか。

 「対象が20万件と一律にいっても、右から順番にやっていくという方法ではなく、緊急度の高そうなものから調査している。だから、8月の調査開始から1カ月で判明したのが約2億3000万円といっても、単純にこれから3倍になると算数できるものではない」

緊急度が高い、というのはどういうことか。

 「要因はいくつかある。データから見受けられる傾向もあるし、物理的に急激に仕事が増えているチームや広告主を調べたほうが良さそう、というところからあたっている」

どんな再発防止策を考えているか。

 「まずは調査を徹底し、根源的な原因を究明するのが第一。ただ、すでに手を打った、あるいは打ちつつある改善点もある。ひとつわかっているのは(こうした不適切業務を)未然に防ぐ機能が不十分だったこと。そのことは調査の最後を待たずとも明らか。そこで、掲載のズレなどのミスを独立性の高い部署に確認してもらうようにする。また、広告主から受けている仕事に対して、社員の質・量が足りなかったのも事実。どの程度、どう足りないかは調査が必要だが、少なくとも足りていたとは言えない。社内でこの仕事に従事していないエキスパートを探し、緊急であてがう準備をしている」

悪意があったかどうかについて、質問と回答が噛み合わない場面も(9月23日、東京証券取引所)
悪意があったかどうかについて、質問と回答が噛み合わない場面も(9月23日、東京証券取引所)

業績への影響は。

 「本件によって、広告主から出稿がなくなるようなことは現時点では生じていない。約2億3000万円については、これから監査法人とも相談するが、一番早ければ第3四半期決算には計上する。ただ、この額であれば特損というかたちにはひとまずならない。今後の調査の進捗によって対象額がどれだけ膨らむかということはあるが、過去の財務報告の修正も現時点では考えていない」

今回の事態により、デジタル化の速度を緩める考えはあるか。

 「デジタル分野の強化は、なにも電通だけが強化したいわけではなく、広告主のニーズに応えているということ。もちろんこういうことは2度とあってはいけないので、いままでの仕事のやりかたを見直し、再発防止策を講じたうえで、デジタル領域の仕事は今後も強化していく」

言葉の使い方だが、不正は不正

発表文などで「不適切」という言葉を使っているが、これは不正ではないか。

 「不適切という表現をしながら、実態は不正ではないかというご質問だが、たしかに、正しくないという意味で『不適切』という言葉をつかっているが、おっしゃる通り、これは不正というものだと思います。掲載されていないものを掲載されているかのごとく請求したというのが、最も重い罪だとしても、(広告掲載など)運用の成果について間違ったというか、虚偽報告をしたことも正しくないということで、不正と認識している。言葉の使い方ということでは、これは不適切という表現をしていますが、まあ、不正と読み替えていただいても結構です」

 「補足すると『不適切』のなかには現時点では『不正』と言えないものがあると思っている。まあ言葉の定義をはっきりさせなければいけないが、一切悪意のない『終始ミスであった』というものも含まれている。もう少し精査が必要。それ(悪意のあったもの)がどれくらいの割合かはもう少しお待ちいただきたい」

確認だが「故意にやった」というのは事実か。

 「いま調べられている範囲のなかでは、最初から『故意にやった』ような内容は確認できていない。まず最初にミスがあり、あるいはミスとはいえなくても(社員の)力量と時間が足りず、発注いただいた通りに広告が掲載されなかった、あるいは、あとから気づいたら(発注された通りに)なっていなかった。たとえば広告主と約束した期間とズレたことを、そのまま報告せず、期間内に掲載されたかのように、事実と異なるレポートを故意にした、というケースはある。ですから報告を改ざんした、という意味での悪意は認められているが、ご質問のように最初から何かしてやろうということは現時点ではない」

まずは会員登録(無料)

登録会員記事(月150本程度)が閲覧できるほか、会員限定の機能・サービスを利用できます。

こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

春割実施中