みなさまごきげんよう
 フェルディナント・ヤマグチでございます。

 性懲りもなく、今年もアイアンマンレースに出場して参りました。

 一昨年のフランクフルト、昨年のコペンハーゲンと続けて挑戦してきたヨーロピアンチャンピオンシップシリーズ(名前は大仰ですが、基本的には誰でもエントリー出来ます)。今年はアイアンマンバルセロナへの出場です。

最近仲間内で飛行機でバイク搬送中に破損事故が相次いだため、乱暴に扱われても安心なハードケースを用意しました。羽田空港にて
最近仲間内で飛行機でバイク搬送中に破損事故が相次いだため、乱暴に扱われても安心なハードケースを用意しました。羽田空港にて

 「世界最大」を謳うこの大会。参加人数は実に3000人超!これだけの人が長丁場を戦おうと言うのですからね。ヨーロッパ人のスポーツ好きはハンパではありません。

大会前日に行われるブリーフィングもご覧の通り大混雑。英語による説明会は特に混んでいました。この規模の説明会が一日に何度も行われるのですからえらいもんです。
大会前日に行われるブリーフィングもご覧の通り大混雑。英語による説明会は特に混んでいました。この規模の説明会が一日に何度も行われるのですからえらいもんです。
入口前はご覧の通り長蛇の列。みなさん文句も言わずにニコヤカに並んで居られます。
入口前はご覧の通り長蛇の列。みなさん文句も言わずにニコヤカに並んで居られます。

 海は穏やかで流れもなく非常に泳ぎやすかった。バイクコースもまた滑らかな路面で安心して飛ばすことが出来ました。新車効果は抜群で、180kmの長いコースを平均時速33キロで駆け抜けることが出来ました。メイストームのメカニック諸侯、ありがとうございました!

 バイクで突っ込みすぎたこともあり、ランは後半見事に失速してしまいました。最後の方はキロ7分も掛かっているのですから話になりません。

こんなことをしているからいつまでたっても速くならないのです。後ろの外人さん、呆れ顔です。
こんなことをしているからいつまでたっても速くならないのです。後ろの外人さん、呆れ顔です。

 終わってみれば11時間19分とナカナカの成績でした。このタイムなら上位1割位のポジションだろう…と淡い期待を持ちながら成績表を見てみたら……なんと総合で1000位。3000人中の1000位です。話になりません。更にエイジ別は80位と、相対的に見れば「惜しくも何ともない」凡タイム。いやはや、欧州レースの何とレベルの高いことよ!

ともに戦ったALAPA、そして兄弟チームM.I.Tの面々と。参加者全員が完走するという目出度い結果となりました。
ともに戦ったALAPA、そして兄弟チームM.I.Tの面々と。参加者全員が完走するという目出度い結果となりました。

 さてさて、軽くヨタを飛ばしたところで、トヨタ・豊田章男社長スーパーインタビューの最終回と参りましょう。

 名実ともに「世界一の自動車メーカー」であるトヨタ自動車。
 その総帥である豊田章男氏は何を考え、何を目指しているのか。

 “ここまで話しても良いのか……”と思わず唾を飲み込むようなエピソードがポンポン飛び出すエクスクルッシブなインタビューもいよいよ最終回である。

 インタビューは年末に発売予定のプリウスPHVの試乗会場で突発的に行われた。本来はPHVの話をしなきゃイカンのである。

 囲み取材で章男社長にばかり話が集中することに業を煮やしたプリウスの開発責任者デストロイヤー豊島氏。ついにPHVインターセプトが入って来た。

「今日は本当はプリウスPHVの試乗会なんですけど…」

「プリウスのデザインも、ずっと『ノー』と言い続けました。こんなのイヤだねと」
「プリウスのデザインも、ずっと『ノー』と言い続けました。こんなのイヤだねと」

前号から読む)

豊田社長(以下、豊):プリウスのデザインも、ずっと「ノー」と言ってきましたね。これはTNGA採用の初号車で、絶対にカッコいい車両にするって言ったじゃないかと。こんなのイヤだねと。最初はもう、ずっと「ノー」でしたね。ずっとずっとね。

デストロイヤー豊島氏(以下、D豊島):本当にずっとなんです。ずっと「ノー」。

F:こんなデザインは嫌だ、と。

:最終的に今のデザインに落ち着くまでに、それはもう大変だったんです。

F:こんなこと書いても大丈夫なんですか。

:良いんじゃないですか。この話はもう。

F:ありがとうございます。しかしあれですね、ボツになったデザインも、ちょっと見てみたい気もしますね(笑)

:ボツと言うかね……。まぁボツと言えばボツなのだけれど、それらが連綿と続いて行って、その最終的な形が今のプリウスな訳ですから。

D豊島:ボツになったデザインを見ていただくと、こっちのほうが良いと言う人もいるかも知れません。それとあの……一応今回のPHVの話もしましょうよ。

 たまたま社長の囲み取材になってしまったけれど、今日は本当はプリウスPHVの試乗会なんですから(笑)。フェルさんそのこと忘れちゃってるでしょう(笑)

F:そうだ。そうでした(笑)

「カッコいいでしょ、今回のプリウスPHV」

「プリウスPHVは、EVの良さと、エンジンの良さをより高い次元で実現しました」
「プリウスPHVは、EVの良さと、エンジンの良さをより高い次元で実現しました」

:今回のプリウスPHVのポイントは、新しい大きなチャレンジとして、EV走行の距離をうんと長くしたところにあります。実は私も前モデルのPHVのユーザーなんですけれども、現行のEV走行可能距離が20キロっていうのは、何かちょっとね。

F:短いですか。

:そう。やはり20キロではちょっと足りない。これが60キロにまで伸びてくると、使い勝手もグッと変わって来る。EVとして安心して走れる距離になるのだと思います。

 EVは良いクルマです。とても良いクルマなんだけれども、普通のクルマの使い方をされる方からしてみれば、やはり航続距離が不安なんですよね、正直な話。

 電気残量のメーターも信用ならない。エアコンをつけた、止めたで簡単に残量が増えたり減ったりする。乗り慣れたガソリン車のメーターは、ずっと減っていくものです。途中で増えたりすることが無い。だから殆どの人は、そうした残量計のことも含めて、EVに慣れていない。

F:なるほど。

:一方で、深夜に帰宅して家の駐車場に入れるときなどはとても良い。EVは殆ど音がしませんからね。深夜でもご近所の家に迷惑をかけることもありません。そういう意味で、EVの良さとガソリン車の良さをうまく合わせた、今回のPHVのメリットは非常に大きいんじゃ無いかと思います。EVの良さと、エンジンの良さをより高い次元でね。

F:イイトコ取りしたという。

:そう。何となくEVとガソリン車を足してみて、「良いよねー」じゃなくて、両方のクルマの良さを際立てた形のクルマに仕上がりつつあるんじゃないかなと思います。

 それにカッコいいじゃないですかこのクルマ。ねえ。

F:そうですね。普通のプリウスよりこっちのほうが見た感じカッコいいですね。

D豊島:このクルマは、最初から社長に「デザインでPHVらしさを出せ」と言われていたんです。

:そう。後ろに「PHV」って書くだけじゃダメだよと。パッとひと目見て、すぐにPHVと分かるようにしなければイカンよと言っていました。

F:後ろのガラスが凄いです。あとフロントの顔つき。目付きなんかMIRAIにそっくりです。

D豊島:MIRAIは水素自動車なので、空気をたくさん吸い込むイメージを演出する必要があった。だからグリルもガバッと口を大きく開けています。こっちはPHVだから、そうした「吸ってる感」は要りません。その辺りを、社長からヒントをもらいながらデザイナーと詰めていきました。

:ああしたデザインは、やはり未来を感じさせるじゃないですか。内装もそうでしょう。大きなモニターとかも含め、未来のイメージを牽引していくのも、このプリウスPHVとかMIRAIとかの大きな役割の一つだと思っています。

 以前、ソアラというクルマが有りました。新しい技術、先進的な装備を全て搭載した、まさに次代のトヨタを象徴するようなクルマでした。今はPHVとか、MIRAIとかね、こういうクルマが、そうした未来を見せていくショーカーじゃないかなと僕は思うんですよね。

ズラリと並んだプリウスPHV。「イー」をしていた水素自動車MIRAIが口をすぼめたような印象だ。
ズラリと並んだプリウスPHV。「イー」をしていた水素自動車MIRAIが口をすぼめたような印象だ。

「敢えて『鶏と卵』とは言わない」

プリウスPHVのヘッドライト。左右4つのランプで滋養と強壮に効く八ツ目鰻状態である。「長く走れる」ということをイメージしてるのだろうか。
プリウスPHVのヘッドライト。左右4つのランプで滋養と強壮に効く八ツ目鰻状態である。「長く走れる」ということをイメージしてるのだろうか。

F:未来を見せるショーカー的な要素も。しかもプリウスはソアラと比べれば圧倒的に数が出るクルマだから……。

:「普及してこそのエコ」だと思います。

F:普及してこそのエコ。なるほど。するとMIRAIもどんどん普及していくとお考えですか。水素ステーションの問題も有り、おいそれと手が出せる代物では無いとも思えますが……。結構な度胸が要りますよね、あれを買うには。

:ええ。だけど、あれはやっぱり花とミツバチじゃないですけど。

F:花とミツバチ、ですか?

:うん。敢えて鶏と卵と言わないで、花とミツバチと言っています。鶏と卵というと、「普及しないのは水素ステーションがないからだ」とか、「水素自動車が増えないからステーションを作れないんだ」とか変な言い合いになるじゃないですか。お互いに支え合っていくべき相手が、対立の相手になってしまう。そうじゃないんですと。違うんですと。

 花とミツバチのように、両方が惹き合って、両方にメリットが出なければいけない。だから我々はどんどんクルマを作っちゃいます。我々がミツバチか花だかは知りませんけれど、両方が惹き合うものにしていかないといけません。特に水素社会というのは、ものすごく発展性があるものだと思いますから。

F:水素社会。本当に来るんでしょうか?

:僕は来ると思いますよ。そもそも日本には資源が無いわけですから。今の段階では、まだ水素をつくるのにCO2が発生してしまうことはもちろん理解しています。石油みたいに掘れば出てくる水素の油田みたいなものは有りません。

 ですが、基本的に水素は無限に有るわけですから。ここは新しい技術で取り組んでいくしかない。上手くやれば、ゴミからでも水素は取り出せるんですから。まだ少し時間はかかりますが、様々なものから水素が取り出せるようになればね。日本がエネルギー自立できるじゃないですか。

F:エネルギーの自立。なるほど。

:水素社会というのは自動車会社だけで出来ることではありません。日本という国として、僕は、「水素社会」というものを絶対に諦めてほしくないなと思っています。

「『水素社会』というものを絶対に諦めてほしくないなと思っています」
「『水素社会』というものを絶対に諦めてほしくないなと思っています」

「ウチの永田くん、家庭教師だったんだって。フェルさんの」

広報室長:社長。そろそろお時間です。

:お。もうそんな時間か。

広報室長:はい。既に大分オーバーしております。

:それじゃこれで。ありがとうございました。そう言えばほら。永田くん、アメリカの永田くんを知ってる?

広報室長:アメリカの永田専務ですね。もちろん存じております。

:彼、家庭教師だったんだって。フェルさんの。

広報室長:えー!!!

D豊島:そうなんですよ。僕も前に聞いてビックリしちゃって。

:すごい縁だねぇ。ウチの永田くんがフェルさんの家庭教師(笑)

広報室長:そりゃまた奇遇です。フェルさん、それは大学受験か何かで?

F:それが……私は下からエスカレーター式の学校に行っていて、黙って普通の点を取っていれば大学まで行けるのですが、毎回ギリギリの点数で、その「普通の点」が取れなくて。単に平均点を取るために家庭教師に付いて頂いたんです。お恥ずかしい話です。

広報室長:はー、それで永田専務に……(超呆れ顔)。

F:あの人凄いんです。何回か勉強を見てもらって、これはマトモにやってもダメだと判断されたようで。何しろ受験経験が無いので勉強の基礎がまるきり出来ていない。いくら東大の秀才さんに来てもらったってダメなものはダメ。それこそ英語や数学は絶望的。

 そこで永田さんは「先輩を回って3年分の過去問を集めてきて。それからクラスで一番賢い子のノートを借りてきて」、と。それをたった1枚のA4の紙に纏めちゃうんです。「いくらヤマグチ君でも、これくらいの量なら暗記できるよね」と。その内容がまた、テストの際に恐ろしいほどにバシッと当たる。かくして目出度く進学と相成った訳です。

広報室長:はー……(超絶呆れ顔)。

:たいしたもんだ。ウチの経営もそうやって見てもらおうか(笑)

広報室長:社長あの……本当にお時間が……。

:うんうん分かってる。え?写真ですか?はいはいお安いご用。なんですかそのマスク。へぇ、フェルさん顔出しがNGなの。それでマスクを。これからモリゾウもそれで行こうか(笑)

 このような感じで豊田章男社長とのインタビューは和やかに終わりました。

 7回に渡ってお送りしたインタビューですが、実のところカコミ取材と1on1の単独取材を合わせても、時間はトータルで40分程度。お話しいただいた内容は、殆ど全て記事にしました。

 でもまだ聞きたいことはたくさん有るんですよね。またどこかでお時間を頂けたら、別の角度からお話を伺いたいと思います。

 さてさて、次週からお届けするのはミシュランが新しく開いた研究施設の見学レポート。こちらも面白い話をたくさん聞いてきました。

 お楽しみに!

ポスト「ハイブリッド」は? PHVと主役の座争うEV

読者のみなさん、こんにちは。編集担当のY田です。

10月6日、自動車販売会社の業界団体がまとめた4~9月の新車販売台数(軽自動車を含む)が明らかになりました。首位はトヨタの「プリウス」で、販売台数は13万6616台。なお、トヨタは、トップ10のうち6車種を占めるなど今年度の上期は非常に好調でした。

プリウスに代表されるハイブリッド車(HV)は、次世代環境車として順調に裾野を広げています。HVを追うのはプラグインハイブリッド車(PHV)や電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)などですが、PHVと同様にEVも、本格普及に向けた新たなステージに入りつつあるようです。

キーワードは、「長距離化」と「自動運転との融合」。

独フォルクスワーゲン(VW)は9月に開かれたパリモーターショーで、次世代型EVのコンセプトカー「I.D.」を披露。ゴルフと同程度のサイズで、1度の充電で走れる航続距離は600km。2020年に市販を始める予定で、ゴルフ・ディーゼルと同程度の価格を想定しているそうです。

I.D.には完全自動運転技術を搭載する計画です。モーターのみで動くEVは高精度な電子制御が可能で、応答性を高めやすいことから、自動運転技術の親和性は高いといえます。

一方、ダイムラーは新ブランド「EQ」で2025年までに10車種のEVを投入すると発表。電池の開発に10億ユーロを投資するそうです。

日本メーカーに目を転じますと、EVへの取り組みに関しては少々出遅れ感が漂います。「リーフ」で先行した日産も、航続距離が500km程度になるとみられる次期車の正式発表はまだです。トヨタやホンダは、現時点では量産型EVの投入時期を明言していません。

PHV、EV、FCV…。ポストHV争いで主役の座に就くのはどの方式なのでしょうか。

日経ビジネス10月10日号では、「EV競争第2幕、パリで号砲」と題して、EVを巡る各社の取り組みをリポートしています。ご興味のある方は、ぜひこちらもご覧ください(日経ビジネスオンラインの無料会員の方は、無料ポイントを使ってお読みいただけます)。

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この記事はシリーズ「フェルディナント・ヤマグチの走りながら考える」に収容されています。フォローすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。