2007年に日本初のセグウェイツアーを始めた北海道清水町「十勝千年の森」。草原コースは専任ガイドのもと、30分操作の練習をした後、十勝を一望する千年の丘など、400ha、東京ドーム85個分の敷地を90分、ガイド付きで巡るツアー(画像提供:北海道ガーデン街道)
2007年に日本初のセグウェイツアーを始めた北海道清水町「十勝千年の森」。草原コースは専任ガイドのもと、30分操作の練習をした後、十勝を一望する千年の丘など、400ha、東京ドーム85個分の敷地を90分、ガイド付きで巡るツアー(画像提供:北海道ガーデン街道)

 国の地方創生戦略が基本目標の一つに掲げる「時代に合った地域づくり」。そこでカギとなるのが、既存の行政区画にとらわれない、圏域を超えた都市間の連携「シティ・リージョン」です。

 施策としてはすでに「連携中枢都市圏」や「定住自立圏」などが動き出しておいます。中核・中心となる都市と周辺地域が連携協定を締結、圏域ビジョンを策定し、結びつきやネットワーク、マネジメントの強化を図る構想です。

 三大都市圏以外で中心市の人口を5万人程度以上とする「定住自立圏」の場合、柱とする「生活機能の強化」、「結びつきやネットワークの強化」、「圏域マネジメント能力強化」で様々な政策分野の都市間連携が図られます。制度が導入された2009年から2016年8月までに129市が中心都市宣言を行い、110の定住自立圏の形成が完了しています。

 しかし、地方では核となる中心都市の衰退も加速しています。単なる合理化や次の大合併に向けての布石ではなく、本来の目的である圏域全体の活性化と人口の定住につながるのか、真価が問われるところです。

 肝となるのは活性化を図る戦略、圏域全体で共有できるビジョンの有無です。そこで今回は、250kmを超える広域で都市間連携を実現し、さらに圏域のブランド化に成功した「北海道ガーデン街道」の取り組みから、シティ・リージョンの課題と成功の条件を考えます。

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北海道ガーデン街道8つのガーデン
北海道ガーデン街道8つのガーデン

 北海道ガーデン街道は十勝、富良野、旭川、大雪にある8つの民間有料ガーデンをつなぐ全長250kmの観光ルートです。2009年に、それまで個々に活動していた7つのガーデンが連携して「北海道ガーデン街道協議会」を設立。首都圏などで積極的な広報活動や旅行会社へのセールスを行った結果、参加施設の入園者数は2009年の35万人から2012年は55万人へ、3年で54%増加。中でも5つのガーデンが集まる十勝エリアでは10万人から35万人へ、3.5倍という高い伸びを見せました。

北海道ガーデン街道 入場者数の推移(単位:人)

  2009年度 2010年度 2011年度 2012年度 2013年度
十勝
(5ガーデン)
10万7877 14万8853 24万9162 35万1648 33万6331
全施設
(7ガーデン)
35万6553 37万1439 43万5338 55万0201 51万3593

※2012年度は「北海道ガーデンショー」の開催年。

 十勝エリアはかつて関東の旅行代理店から「見る場所がない」と通過型観光地のレッテルを貼られ、従来のパックツアーでは有名観光地と温泉を駆け足で回るものでしたが、北海道ガーデン街道という新たな観光ブランドを手にしたことで人気観光地へ転換。これを機に街道沿線では2泊以上する例が多くみられるようになりました。

 日本国内には「○○街道」をうたう観光ルートが多数存在。観光庁は「広域観光周遊ルート」を認定していますが、現状では一般の認知を得ているものはほとんどありません。その中で北海道ガーデン街道はなぜ成功することができたのでしょうか。もとよりセールスプロモーションだけで成功するはずもなく、マーケティングやビジネスモデルの構築、ブランディングもやって当たり前のこと。その根幹はやはり、7つのガーデンが思惑絡みの烏合参集ではなく、事業の成功に必要な土台としての連携に至ったことといえるでしょう。

 十勝エリアには2009年当時、帯広市に1966年に開園した日本初のコニファーガーデン「真鍋庭園」と、1989年にガーデニング界のカリスマが開園した「紫竹ガーデン」、2007年に六花亭がメセナ活動で中札内村に作った「六花の森」、十勝毎日新聞社のカーボンオフセットの森づくりから始まり2008年清水町にグランドオープンした「十勝千年の森」、2009年に幕別町に開園した「十勝ヒルズ」という5つの代表的なガーデンがあり、それぞれ仲は良かったものの、特に連携はしていませんでした。その状況からどのようにして、120km離れた富良野や200km以上離れた旭川のガーデンを巻き込んだ広域連携をするに至ったのでしょうか。

客足が伸びない! 悩んだ末に思いついた連携、ヒントをくれたのは

2001年旭川市に開園した「上野ファーム」(左)。マザーガーデンなどコンセプトの異なる9つの庭を有す。(右)裏にある射的山からは上川平野が一望、6月中旬頃にはルピナスが咲く(右画像提供=北海道ガーデン街道)
2001年旭川市に開園した「上野ファーム」(左)。マザーガーデンなどコンセプトの異なる9つの庭を有す。(右)裏にある射的山からは上川平野が一望、6月中旬頃にはルピナスが咲く(右画像提供=北海道ガーデン街道)

 北海道ガーデン街道の話に入る前に、まずそのバックグラウンドとなる日本の花の観光の歴史に触れておきましょう。日本で花の観光といえば、古来より桜が日本全国津々浦々、春の観光のメインコンテンツとして集客力を発揮してきました。近年は芝桜やネモフィラなど、花の観光のコンテンツも多様化、全国各地に大型フラワーテーマパークが誕生し、地域間競争も激化しています。

 日本でこうした花の観光が注目されるきっかけとなったのが1976年、旧国鉄のカレンダーに採用された富良野のラベンダーです。その後1990年に大阪で「花の万博」が開催されると半年間の会期中、総入場者数は2000万人を超え、翌1991年には花のまちづくりを普及する目的で「全国花のまちづくりコンクール」がスタート、全国に花を用いた地域活性化の取り組みが広がっていきました。

 こうした中、新たな園芸雑誌が創刊、花の観光に新たな波をもたらします。1997年、人気園芸雑誌「BISES(ビズ)」(1992年創刊)でイングリッシュガーデンが紹介されると、日本でガーデニングブームが起きます。イングリッシュガーデンとは西洋式庭園の様式の一つで、ナチュラルガーデンとも称される自然の景観美を追求した英国式庭園のこと。ちなみに今、私たちが使っているガーデニングという言葉はBISESが使い始めたものです。ガーデニングはその年の流行語大賞にも選ばれ、BISESで紹介されたガーデナーはカリスマとして人気を集めるようになります。

 これを機に、日本の花の観光は単に花を見て回る「フラワーツーリズム」から、庭を通じて地域の自然や風土に触れる「ガーデンツーリズム」という新たなジャンルに分岐していきます。北海道でも2000年代、北海道ならではの大自然や風土に触れる北海道らしい庭園を追求するガーデンが次々開園、注目のガーデナーが誕生します。2001年に旭川市に開園した「上野ファーム」のガーデナー上野砂由紀さんは、2004年「BISESガーデン大賞(第3回)」グランプリ受賞を機に注目を集め、上野ファームは全国から6万人(5~10月)が訪れる人気ガーデンへと成長していきました。

 一方、十勝ではこの時期、思うように客足が伸びず、集客がガーデン共通の課題となっていました。中でも2008年に帯広市から約30km、清水町で開園した「十勝千年の森」を運営する農業生産法人「有限会社ランランファーム」の社長、林克彦さんは強い危機感を持っていました。

2008年清水町に開園した「十勝千年の森」。イギリスの園芸家ダン・ピアソンが設計した(左)アース・ガーデン(大地の庭)、(右)メドウ・ガーデン(野の花の庭)は英国のガーデンデザイナーズ協会「グランプリアワード2012」受賞(画像提供=北海道ガーデン街道)
2008年清水町に開園した「十勝千年の森」。イギリスの園芸家ダン・ピアソンが設計した(左)アース・ガーデン(大地の庭)、(右)メドウ・ガーデン(野の花の庭)は英国のガーデンデザイナーズ協会「グランプリアワード2012」受賞(画像提供=北海道ガーデン街道)

 十勝千年の森はもともと1992年、十勝毎日新聞社が事業で大量に紙を使うことから環境貢献事業の一環としてカーボンオフセットに取り組み、400ヘクタールという広大な土地を取得して森づくりから始めたもの。2000年からは観光振興のためチーズ製造とガーデンづくりをスタート。しかし食だけでは限界があると考え、2004年にイギリスの園芸家ダン・ピアソンを招き、調査に2年、施工に1年をかけ、多様な動植物が生息する自然林の育成保全と在来樹種の植林により十勝本来の森を復元、2008年に「十勝千年の森」としてグランドオープンしたものです。

 4つのテーマガーデンのうち、ダン・ピアソンが設計した最も特徴的な「アース・ガーデン」と「メドウ・ガーデン」は、2012年には英国のガーデンデザイナーズ協会(SGD)で日本初となる最高位のグランドアワードを受賞。審査員から「出品された中で最も美しい庭、21世紀のガーデンデザイン最良の例」と絶賛を受けた、北海道のスケール感と自然美に満ちた魅力的なガーデンですが、開園から2年は訪れる人もまばらでした。

 そんな時、富良野市で2009年の春から一般公開された「風のガーデン」が開園半年で21万5000人という入園者数を叩き出し、大きな話題を呼びます。風のガーデンは2008年に放映された倉本聰さん脚本の同名のTVドラマのロケ地となった庭園で、新富良野プリンスホテルの敷地内に約2年をかけドラマの舞台として作られた庭園です。デザインは上野ファームの上野砂由紀さんが手掛け、庭園内にはドラマにも度々登場した「グリーンハウス」等がそのまま残されていました。放映終了後、一般公開されるとドラマやガーデニングのファンなど多くの観光客が押し寄せました。

 当時、十勝千年の森の有料入園者数は地元客を中心に年間約2万人ほど。ドラマの影響があるとはいえ、富良野のガーデンにその10倍を超える人が訪れたことは驚きでした。同じ頃、女性誌のガーデン特集の取材を受けた林さんは編集長からこの後、風のガーデンから上野ファームへ向かうという話を聞いて驚きます。帯広から富良野は120km、旭川は200kmも離れており、遠いですよと言うと、相手からは「観光や取材ならその程度は苦にならない」と言われ、認識を新たにします。

 そこから年間200万人が訪れる富良野、300万人を集める旭山動物園がある旭川を国道237号(旭川-富良野)と国道38号(富良野-帯広)で結ぶ「北海道ガーデン街道」の構想を思いつきます。ベースにあったのは2002年森林療法研究所のドイツ視察で見た南ドイツの古城を巡る350kmの観光ルート「ロマンチック街道」でした。古城という共通のテーマでつながれた街道観光ルート、それがガーデンという共通のテーマでつながれた新たな観光ルートの発想に至りました。

 林さんはすぐさま上野さんへ構想を提案します。実は林さんは2009年の春に東京のガーデニング専門誌を訪ねた際、編集長から上野さんとの連携を勧められていました。ただその時は具体的なアイデアが思い浮かばず、ホームページの相互リンクをしましょうくらいで終わっていました。突然の提案に対し、当初、上野さんは戸惑っているように見えたといいますが、驚くべきことに「北海道ガーデン街道協議会」はその年の10月に設立されます。

 実に構想から2カ月弱、ありえないスピードでした。地元十勝はもちろん、富良野、旭川の2大人気ガーデンを林さんはどう口説き落としたのでしょうか。

旭川・富良野の人気ガーデンが十勝との連携に応じた理由

同名テレビドラマの舞台となった「風のガーデン」、「グリーンハウス」は内部の見学も可能
同名テレビドラマの舞台となった「風のガーデン」、「グリーンハウス」は内部の見学も可能

 林さんの提案を受けた上野さんは新富良野プリンスホテルに林さんを紹介します。たとえ上野さんが提案を受け入れたとしても新富良野プリンスホテルが了解しなければ、話は前には進みません。当然、倉本さんの了承も必要となります。

 新富良野プリンスホテルは1981年から放映された北海道を舞台とした人気TVドラマ「北の国から」で、ホテル内の「ニングルテラス」がドラマに使われるなど撮影が富良野ではじまった頃から、倉本さんと30年以上に渡って交流を持っていました。その後の倉本作品「優しい時間」でもホテルに隣接する森の中にある「珈琲 森の時計」や「Soh's BAR」などがドラマの舞台となってきました。

 また2005年にゴルフ場を閉鎖した際には、倉本さんから昔の森に還してはどうかという提案を受け、2006年、そこに倉本さん主宰の「富良野自然塾」が開講するなど、ホテルの敷地の有効活用についても様々なアドバイスを受けてきました。

 倉本さんがテレビ局から開局50年を記念するドラマの脚本を依頼された際には、当時ゴルフホールの一部に花を植え、カートで回ってお客様に見てもらうサービスを見て、これではダメだと上野さんを紹介されました。倉本さんは旭川のイタリアンレストランで偶然上野さんが手掛けたイングリッシュガーデンを見た娘さんから勧められたということでしたが、新富良野プリンスホテルでは紹介を受け、上野さんを招き、2006年秋にかけてガーデンづくりをスタートしました。

 ただ庭は植栽して完成ではなく、そこから植物が育って完成するものです。倉本さんは庭園を見ないまま脚本を書いていたといいますが、歩いていると姿が隠れるような庭という条件を出し、上野さんはそれに応えて植物が伸びやかに育ち、季節のなかで変化する景色を作り出しました。倉本さんは出来上がっていく庭からインスピレーションを受けたといい、ガーデンは単なるロケ地ではなく、物語に関わる重要な要素となり、倉本作品の聖地のひとつになっています。

 撮影が終了した2008年9月、新富良野プリンスホテルは関係者900名を招き、ガーデンをお披露目したところ好感触を得たため、一般公開の検討を始め、実際、開園すると予想通り多くの人が訪れる人気ガーデンとなりました。

新富良野プリンスホテルの中には(左)『北の国から』の舞台になった「ニングルテラス」。森の中にあるクラフト作品の店やカフェが集まるショッピングエリア、(右)森の奥には『優しい時間』の舞台となった「珈琲 森の時計」がある
新富良野プリンスホテルの中には(左)『北の国から』の舞台になった「ニングルテラス」。森の中にあるクラフト作品の店やカフェが集まるショッピングエリア、(右)森の奥には『優しい時間』の舞台となった「珈琲 森の時計」がある

 しかし、新富良野プリンスホテルではこれまでの経験からドラマの効果が一時的なものであることは熟知しており、林さんからの提案を受け、ガーデンの評価に「ガーデン街道」という新たな価値がプラスされることで息の長い旅行商品になると考えました。

 また北海道ガーデン街道の構想には他にも魅力的な点がありました。一つは民間で連携してお金を回す仕組みがきちんと組み込まれていたこと。初年度は補助金を活用し販促ツールや共通チケットを作成、翌シーズンに向け旅行会社やメディア、首都圏で20万人を集める人気ガーデニングショーなどで積極的なセールスプロモーションが計画されていました。参加するガーデンに関しても明確な基準が設けられており、単に花を見て回るフラワーテーマパークではなく、優れた造園デザインと園芸技術を有し、北海道らしいガーテンスタイルを持つ民間の有料ガーデン7つに限定することとしていました。

 加えて「オフィシャルホテル」の仕組みを導入。認定するのは森やガーデンを有し、大手旅行会社JTBの顧客満足で90点以上を得るグレードの高いホテルのみとし、そのホテルがPRすることで「北海道ガーデン街道」の認知度とブランド力アップにもつなげる狙いもありました。各エリアにオフィシャルホテルを置いたことでホテル側は率先して営業活動をしてくれますし、オフィシャルホテルがあることで旅行会社はより魅力的な旅行商品の企画ができます。

 このようにガーデン、ホテルとも明確な基準を持ち、玉石混交にしないブランドマネジメントこそ、全国にある「鳴かず飛ばず」の○○街道と最も異なる点です。

熟年層がターゲット、効果的なPR活動でブランド認知に成功

六花亭のメセナ活動により2007年中札内村に開園した「六花の森」。(左) 丘の上のモニュメント「考える人(ロダンから)」彫刻家、坂東優作(右) 「十勝六花」オオバナノエンレイソウの白い花と蝦夷立金花の黄色い花
六花亭のメセナ活動により2007年中札内村に開園した「六花の森」。(左) 丘の上のモニュメント「考える人(ロダンから)」彫刻家、坂東優作(右) 「十勝六花」オオバナノエンレイソウの白い花と蝦夷立金花の黄色い花

 北海道ガーデン街道構想については、十勝エリアのガーデンからはもっとゆっくりやればいいじゃないかという声も上がりました。しかし北海道ガーデンの営業は主に春から秋にかけての半年間。翌シーズンに向けて準備するにはどうしてもその時期に動く必要がありました。林さんはなんとか十勝のガーデンの合意を得て設立にこぎつけます。この時期、すでに協議会の活動資金を得るため、使えそうな補助金を探し出していました。当初、自治体や観光協会、商工会議所などからの協力は得られず、活動資金の調達は自ら行わなくてはならなかったのです。

 そこでまず手始めに地元で簡単に取れる50万円の補助金を獲得、それを実績として狙っていた3年で1000万円が得られる補助金の申請を行い、その後、事業プレゼンで見事に勝ち取りました。このスピードと行動力こそ自分の強みだと林さんは言いますが、いや凄すぎです。

 そうして資金を得て協議会が動き出すと、1年目にして参加ガーデンや沿線地域では目に見えて成果が表れます。十勝エリアにある紫竹ガーデンの入園者数は前年の9万人から12万人へ、1.3倍へ急増。従来のパックツアー利用者は価格重視で有名観光地と温泉を駆け足で回るだけで地元にお金が落ちることが少なかったのに対し、ガーデン街道の場合、沿線で2泊以上する例が増え、地域で評判のレストランでは従来の観光客とは異なる熟年層のカップルの姿が目につくようになったといいます。

 これはツアーを組む旅行会社がお金と時間に余裕のある50~70代の女性をターゲットとしたためです。1年目には50~70代の女性3人組の参加が最も多くなりましたが、2年目はその女性たちが今度は夫を連れて訪れ、レンタカーで沿線を旅する姿が多く見られたといいます。こうしたリピーターの存在も北海道ガーデン街道の強みの一つです。

 1年目に関していえば、ガーデン街道というコンセプトについて大手旅行代理店にはなかなか理解してもらえなかったのですが、カルチャー系のツアーを得意とする1社がツアーを組んでくれてそこで集客が見込めることがわかると、2年目以降は大手旅行会社でも多くのツアーが組まれるようになりました。

 また、北海道ガーデン街道を効果的にPRし、かつツアー客を獲得する場としては毎年5月に首都圏で開催される『国際バラとガーデニングショウ』をターゲットとのタッチポイントとして効果的に活用しています。期間中20万人を集めるイベントでパンフレットを配布、興味を持った人はその場で連携する旅行会社のツアーに申し込みができる体制を取っているのです。

 こうしたターゲットを意識し、販促ツールにも工夫が見られます。当初パンフレットは派手な色を使い、ガーデン以外にも様々な地域のアクティビティの情報を盛り込んでいましたが、訪れる人の多くが熟年層であることから次年度以降は落ち着いた色使いに変え、アクティビティよりガーデン周辺で楽しめる食の情報を充実させました。それにより魅力的なパンフレットは旅の思い出にもなり、他の誰かに紹介してもらう際や再来訪を促すことにも役立ちます。

 十勝では長らく、独自の観光ガイドも作成されていませんでしたが、北海道ガーデン街道ができたのを機に林さんは「るるぶ」編集部に働きかけ、十勝帯広ガーデン街道版の出版にこぎつけました。ガイドブックを単に十勝版とするのではなく、人気観光地の富良野や旭川を入れ街道版としたことで観光ルートとしての魅力度や認知度は飛躍的に増し、観光の回遊性が高まりました。今これを手にレンタカーを利用して十勝を訪れる若い世代も増えています。

 こうした取り組みから北海道ガーデン街道の認知度や人気は年々高まっており、「北海道ガーデンショー」が開催された2012年の団体ツアーのチケット販売数は2010年の4.4倍へ伸びました。2011年に代理店の要望で団体チケットを作成して以降、販売枚数は年々増加し、チケットの売上高は2011年の1500万円から、現在7000万円近くに伸びています。こうしたことから協議会では三年目から補助金に頼らない自立した経営を確保、充実した活動ができる基盤を確立しています。

 協議会の運営に関しては2014年に、新たに上川町の「大雪 森のガーデン」を加えた8つのガーデンの理事により審議、3分の2以上の議決で決定しており、6つのオフィシャルホテルや3カ所の観光協会には議決権はありません。ガーデンのことはあくまでガーデンで議論し決定するというシンプルな意思決定システムで、安易にガーデンを増やすこともしていません。これはブランドを守るために非常に重要なことです。

 協議会には事務局を置き、旅行代理店等への営業、広報やメディア対応、クレーム対応などを担当しています。一方、共通チケットやグッズの販売、北海道ガーデン街道の商標の管理などは6つのガーデンが出資した別会社「株式会社北海道ガーデン街道」が行っており、ここで得たチケット売り上げや広告収入から出た利益が協議会の活動資金に充てられています。

 現在、協議会では帯広市や商工会議所、空港などとも連携して事業を進めており、今年度はインバウンド誘致にも積極的に動いています。

 林さんは既に、次を見据えて動き出しています。それが「OUTDOOR VALLEY PROJECT(十勝をアウトドアのアジアの聖地へ)」というアウトドアを活用した新たな地域活性化プロジェクトです。日本を代表するアウトドア企業のスノーピークなどとも連携し、観光レジャー事業者や自治体とともに進めていこうとしており、その動向が注目されます。

旅で見つけたお気に入り(28)「北海道ガーデン街道」おすすめカフェ
北海道ガーデン街道では、各ガーデン内にある魅力的なガーデンカフェも見逃せない楽しみとなっています。今回はその中から3つ、おすすめのカフェ&グルメをご紹介しましょう。
上野ファーム「<a href="http://www.uenofarm.net/" target="_blank">NAYA Café</a>」7種の野菜のキッシュプレート(950円)、アフォガード(530円)
上野ファーム「NAYA Café」7種の野菜のキッシュプレート(950円)、アフォガード(530円)

 「上野ファーム」は、風のガーデンのデザインを手掛けたガ―デナー、上野砂由紀さんが2001年に旭川市にオープンさせた庭園です。コンセプトが異なる9つの庭園を楽しめる上野ファームは自然豊かな田園の中にあり、ファームの裏には上川平野を一望する射的山があり、散策中に野生のキタキツネと遭遇することもあります。築65年を超える古い納屋を改装し、2008年にオープンさせた「NAYA Café」は、7種の野菜のキッシュプレートや季節野菜のファーマーズカレーなどの食事メニューに加え、カフェやデザートメニューも充実しています。

「<a href="http://www.daisetsu-asahigaoka.jp/" target="_blank">大雪 森のガーデン</a>」ガーデンカフェの眼下には森の花園。カフェの窓には青空に映える白樺が見える。上川発北海道スープカレー(1600円)
大雪 森のガーデン」ガーデンカフェの眼下には森の花園。カフェの窓には青空に映える白樺が見える。上川発北海道スープカレー(1600円)

 JR旭川駅から特急列車で約40分の上川町には、2014年に北海道ガーデン街道に加わった8つめのガーデン「大雪 森のガーデン」があります。ガーデンカフェでは「上川発北海道スープカレー」など、北海道産の食材を使ったカレーやホットドックなどのメニューが味わえます。カフェの窓からは眼下に「森の花園」とそれを囲むように背の高い白樺の木があり、特に晴れた日は空の青に白樺が映え、それは美しく見えます。百花繚乱のオンシーズンも魅力的ですが、個人的には混雑しないオフシーズンに訪れ、まったりしたい場所です。またここはガーデンに隣接して本格的なガーデンレストラン「フラテッロ・ディ・ミクニ」や宿泊用のコテージ「ヴィラ」もあります。

「<a href="http://www.tmf.jp/" target="_blank">十勝千年の森</a>」かわいい羊とも触れ合える農の庭にある「ガーデンカフェ ラウラウ」。 季節野菜のパスタとかちマッシュのクリームソース(1100円)
十勝千年の森」かわいい羊とも触れ合える農の庭にある「ガーデンカフェ ラウラウ」。 季節野菜のパスタとかちマッシュのクリームソース(1100円)

 「十勝千年の森」には農と食と庭のつながりを感じられる「ファームガーデン(農の庭)」があり、野菜やハーブを栽培するキッチンガーデンを備えた「ガーデンカフェ ラウラウ」で本格的なイタリアン、ピッツァやパスタなどが楽しめます。十勝千年の森を運営するのは北海道ホテルのグループ企業で、味も本格派です。また十勝千年の森は国内では珍しく、ヤギの生乳からチーズを作っており、「ゴート ファーム」では飼育されているヤギたちと触れ合うこともできます。

 このほかのガーデンにも個性的なカフェ&グルメがあります。是非8つのそれぞれのガーデンでカフェ巡りも楽しんでください。

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