仕事やプライベートの時間をやりくりするために、真っ先に削ってしまうのが「睡眠」ではないだろうか。また、年齢とともに、眠りが浅くなったり、目覚めが悪くなったりする人も多いに違いない。もう眠りで悩まないための、ぐっすり睡眠術をお届けしよう。

心地よい昼寝だが、長すぎると寝起きにぼんやりしてしまう。(©ximagination-123RF)
心地よい昼寝だが、長すぎると寝起きにぼんやりしてしまう。(©ximagination-123RF)

 必要な睡眠時間は人によって異なるが、統計的には「7時間がベスト」とされている。米国で63万6095人の女性と48万841人の男性、合わせて110万人以上に平均睡眠時間を聞き、6年後の死亡率を調べた。最も死亡率が低かったのは6.5~7.4時間と答えた人たちだった(Arch Gen Psychiatry. 2002 Feb;59(2):131-6)。

 しかし、日本のビジネスパーソンにとって「毎日7時間眠る」のは意外と難しい。睡眠不足はツライもの。計算力や判断力が落ちることが確認されており、仕事の効率だって悪くなるのは間違いない。

 そんな人にお勧めしたいのが「仮眠」、つまり昼寝の習慣だ。短時間でも睡眠を取ることで脳の疲れが取れて、仕事の効率がアップする。注意したいのは昼寝の長さ。最適な時間を知ることで、昼寝の効果を最大限にできるのだ。

仮眠は大きく4種類に分けられる

 「マイクロ・ナップ、ミニ・ナップ、パワー・ナップ、ホリデー・ナップ。仮眠には大きく4種類あります。特にパワー・ナップを基本にし、状況に応じて他の仮眠を組み合わせるといいでしょう」と話すのは、雨晴クリニック(富山県高岡市)の坪田聡副院長だ。

 基本となるパワー・ナップとは20分程度の昼寝のこと。昼休みが1時間あれば、20分の時間を作るのはそれほど難しくない。ちなみに坪田副院長は「毎日やっている」という。体内時計によって、昼食の後は最も眠気が強くなる時間帯このタイミングでうまく仮眠を取ると、その後の仕事がはかどるようになる

 実際、20分の仮眠を取った場合の作業効率を調べた実験がある。10人の若者に1時間のパソコン作業を行わせ、20分間の休憩を挟み、再び1時間の作業をさせた。仮眠を取らずに休憩した場合は、休憩後の作業でも時間が経つにつれて眠気や疲労度が高まった。これに対して、休憩時間に仮眠を取ると、作業時間が経過しても眠気が起こりにくくなり、疲れを感じず、作業意欲が衰えないという結果となった(下グラフ)。「同じくNASA(米航空宇宙局)が宇宙飛行士に行った実験でも、平均26分の仮眠によって認知能力が34%、注意力が54%アップした」(坪田副院長)という。

20分の仮眠で仕事がはかどる
20分の仮眠で仕事がはかどる
ここで行われた作業は、3個の数字が1秒間提示された0.5秒後に8個の数字が2.5秒間提示され、その中に最初の数字がすべてあるか判断することを繰り返すというもの。「眠気」「疲労」「作業意欲」を主観的に判定し、100点満点で何点に感じるかを10分ごとに申告させた。仮眠を取った後は作業時間が経過しても疲労度が低く、「疲労を予防する効果」もあることが分かる。(Ergonomics. 2004 Nov;47(14):1549-60)
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リクライニングは120度まで

 では、具体的に仮眠の取り方を説明しよう。

 場所は自分のデスク、空いている会議室、カフェ、トイレ、車の中、電車など。騒音が少なくて眠れそうな場所ならどこでもいい。ネクタイやベルトなど、体を締め付けるものはゆるめてリラックスできるようにする。

 ポイントは姿勢と時間だ。

 横になると眠りが深くなり、なかなか起きられないし、しっかり覚醒するまでに時間がかかる。そのため、基本はイスやソファに座った姿勢。そのまま背もたれに体重をかけるか、机に突っ伏す姿勢を取ろう。「車の中で寝るときは、リクライニングを120度までにしてください」と坪田副院長はアドバイスする。深く倒し過ぎると眠りが深くなりやすい。

 時間は20分が目安だ。30分以上眠ると、どうしても睡眠が深くなってしまう。「仮眠の場合は起きてすぐに仕事をするのが前提ですから、深く眠ってしまってはいけないんです」と坪田副院長。「眠る」というよりも「ウトウト居眠りする」くらいの感覚でいい。

 20分で起きることを強く意識して、念のためアラームもセットしておくといいだろう。仮眠前にコーヒーを飲むと、カフェインの作用で寝覚めが良くなる

 時間が取れなければ10分でもいい。これがミニ・ナップだ。「広島大学で行われた実験でも、9分以上の仮眠によって眠気や疲労、作業中の居眠りが減り、作業成績も良くなることが確認されています」と坪田副院長(Sleep. 2005 Jul;28(7):829-36)。ちなみに「米国大統領だった故J・F・ケネディは毎日数回のミニ・ナップを習慣にしていた」(坪田副院長)という。

わずか1分の仮眠にも効果はある

 夜の睡眠時間が短く、パワー・ナップやミニ・ナップで補えないときは「さらにマイクロ・ナップをプラスしていく。これは1分間の仮眠です」と坪田副院長は続ける。

 わずか1分の仮眠なんて意味があるのだろうか? そもそも1分ではウトウトすらできない気もするが、坪田副院長は「1分間目を閉じるだけでも意味がある」という。

 「情報の8割は目から入ってくる。1分間目を閉じるだけでも、想像以上に脳は休息を取れます。実際、スッキリした、眠気が取れた、という人が多い。できれば眠くなる前、会議など大事な仕事の前に取っておくといいでしょう」(坪田副院長)

 静かに1分間座っていられるなら場所はどこでもいい。ウトウトできなくても、1分間力を抜き、目を閉じているだけでも意味があるのだ。睡眠不足でつらい日は、パワー・ナップを取った上、マイクロ・ナップを繰り返して乗り切ろう。

 このほか、数日の睡眠不足が続いたときは、週末にしっかり補っておく。これがホリデー・ナップだ。

 「極端に起床時刻を遅くすると体内時計が狂ってしまうので、朝寝坊はせいぜい普段より2時間プラスするくらいまで。それでも眠いときは昼寝をしてください。休日の仮眠は普通に横になって、1時間半くらい寝ても構いません」(坪田副院長)

 1時間半眠るとレム睡眠とノンレム睡眠を取れて、自然に目が覚めやすい。ただし、時間は12時から15時の間に。それより遅い時間帯に眠ると、夜の睡眠に悪影響が出てくる。

 以上、4種類の仮眠を時間順にまとめておこう。

1. マイクロ・ナップ(1分間)

 デスクでもトイレの中でも、1分間静かに座っていられる場所ならどこでも行える。眠気が強いときだけでなく、眠気の予防や気分転換にも役立つ。夜の睡眠に影響するほどの作用はないので、時間帯や回数を気にせず、1日何回やってもいい。

2. ミニ・ナップ(10分程度)

 昼食後から午後3時の間に取る。パワー・ナップを取る余裕がないときに行う。9分以上の仮眠によって、脳の疲れが取れて作業効率が向上する効果が確認されている。

3. パワー・ナップ(15~25分程度)

 欧米でも広く推奨されている基本となる仮眠。昼食後から午後3時の間に、静かな場所で約20分眠る。ただし深く眠ってしまうと寝覚めが悪くなり、その後の仕事や夜の睡眠に悪影響が出てしまう。横にはならず、30分以上眠らないように注意しよう。

4. ホリデー・ナップ(30分~1時間半)

 日頃の慢性的な睡眠不足を解消するため、休日にしっかり仮眠を取る。起床時刻を大きくずらすのはNGだ。体内時計が狂い、月曜以降にうまく眠れなくなる。正午から午後3時までの間、横になって30分から1時間半ほど眠る。

 睡眠不足は生活習慣病やうつ病のリスクを高め、最終的には命にかかわる。もちろん、毎晩しっかり睡眠時間を確保できればベストだが、なかなかそうはいかないのが厳しい現実。うまく仮眠を取って、睡眠不足を補ってほしい。

坪田聡(つぼた さとる)さん
雨晴(あまはらし)クリニック 副院長
坪田聡(つぼた さとる)さん 1963年生まれ。2008年より現職。All Aboutで睡眠・快眠ガイドを担当する。医師とビジネス・コーチの顔を持ち、睡眠の質を向上させるための指導を行う。著書に『専門医が教える毎日ぐっすり眠れる5つの習慣』(三笠書房)、『脳も体も冴えわたる1分仮眠法』(大和書房)など。
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