エヌビディア、ABEJAなどのIT関連企業11社と、東京大学大学院の松尾豊 工学系研究科 特任准教授など人工知能(AI)技術のディープラーニング(深層学習)の研究者が2017年10月4日、「日本ディープラーニング協会、JDLA)」の設立を発表した。ディープラーニングの活用促進や、3年間で3万人の技術者育成などを目標に掲げる。協会の理事長には松尾氏が就任した。
同協会で目を引くのが、トヨタ自動車が賛助会員として参加したこと。トヨタの参加が象徴するように、JDLAの松尾理事長は、製造業でディープラーニングの本格活用が進むことを期待している。「ディープラーニングはものづくりと相性が良い。今後の日本の産業競争力にとって非常に重要だ」(松尾氏)。
ディープラーニングは注目度が高いものの、国内企業の取り組みの多くは実験レベルにとどまっている。事業化を進める米国や中国のIT企業などと比べ、出遅れているという声が少なくない。同協会の今後の活動が、普及の特効薬になるかどうか注目される。
協会設立の発表会見で松尾理事長は、ディープラーニングについて「従来の技術を根底から覆す不連続の技術」と紹介した。ディープラーニングは大量のデータを学習することで、タスクの実行に必要な特徴を自動的に抽出する。この仕組みにより、画像認識であれば今や人間を上回る精度で識別できるほどだ。「ITや機械に『眼』が備わったようなもの。産業界に大きなインパクトを与える」(松尾氏)。
具体的には、従来は人間の眼による判断が必要なために自動化が難しかった作業で一気に自動化が進む可能性が開ける。例えば、農業における収穫判定、建設現場の測量、食品加工工場における振り分け作業などだ。「ディープラーニングを適用してこれらの作業を自動化できれば、生産性の飛躍的な向上が見込める」(松尾氏)。
深層学習の活用促進を阻む3つの課題
しかし、現状の日本はディープラーニングを活用するうえで課題が山積みという。松尾氏は大きく3つの課題を挙げた。(1)他のITやAIとの区別、(2)ユーザー企業の知識不足、(3)技術者の不足である。
(1)について松尾氏は、日本においては現状ではディープラーニングがAIとしてひとくくりに語られていると指摘する。ディープラーニングはAIの技術の一つであり、仕組みやできることが異なる様々な技術があるにもかかわらず、その違いが議論されることが少ないのだ。このため、ディープラーニングの本質的な価値が十分に理解されていないという。
(2)のユーザー企業の知識不足は、ディープラーニングに対し、これまでの新技術と同様に「どんなことでもできるのではないか」と過度の期待を寄せていたり、逆に「使い物にならない」と見向きもしなかったりしている状況を指す。ユーザー企業でビジネスを推進する人材が、ディープラーニングの基本の仕組みを理解し、適用できる領域を見極められる知識を身に付ける必要がある。