サントリーホールディングス(HD)の新浪剛史社長に「もしトランプが米大統領になったら…」何が起こるか聞いた。同社は、2014年に米蒸留酒大手ビームを約1兆6500億円で買収し、米国ビジネスを急加速させている。同社長はダボス会議に参加するなど「国際派」として知られる。(聞き手 藤村 広平)

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米大統領選が迫ってきました。

(写真:的野弘路)
(写真:的野弘路)

新浪:ビームサントリーを通じて米国にコミットしているので、注目しています。(ビームには)日本発のサントリーの技術を導入していきたいし、逆に(ビームが主要生産拠点を置く)ケンタッキー州から世界各国への輸出の拡大も考えています。

 世界中でナショナリズムが沸き上がっているのは事実ですが、経済がボーダレス化する流れを断ち切るのは無理だと思う(トランプ候補が掲げる政策については「ガキ大将トランプ氏、小学校生で先生にパンチ!」をお読みください)。米国や中国の友人たちはどう考えているのか。個人的なネットワークも使って意見を聞いているところです。

 トランプさんはビジネスマンですから、非現実的な政策を進めることはないと思います。共和党候補になるまでの選挙キャンペーンと、大統領になるための選挙キャンペーンを見比べても、やっぱり暴言の量は減っていますよね。

トランプ候補が当選した場合、日本企業に与えるネガティブな影響には、どんなものがあると考えていますか。

新浪:たとえば「米国の生産拠点をメキシコに移す」という決断はしにくくなる。米国内の雇用が減るわけですからね。政府や諸機関からいろいろな嫌がらせをされたり、手厳しい反応が出たりするかもしれません。すると販売にも影響が及ぶ可能性が出てくる。

 ただしトランプ候補が大統領になったとしても議会の壁があります。大統領の一存でなんでも決められるわけじゃない。突拍子もないような政策は実現しないでしょう。日本では与党トップが首相として強い人事権を持ちますが、米国はホワイトハウスと議会でねじれ現象が起きると、大統領の政権基盤はかなり脆くなります。

環太平洋経済連携協定(TPP)の行方はどうなるでしょう。

新浪:これも現実的な判断をするでしょう。自由貿易が完全になくなるような手は打たないはずです。もちろん濃淡は出てくる。万が一TPPをやらないにしても、日米2国間(の自由貿易政策)を変えるとか、オバマ政権とは違ったアプローチを取ることになるでしょう。

日本が自由貿易の旗振り役に?

米国は自由貿易の旗振り役だったはずです。

新浪:米国のビジネスリーダーと話していると「米国がTPP参加を渋っているのは大変遺憾だ」と言います。

 と同時に、彼らが「歴史的にすごいことが起こる可能性がある」と話すのは興味深いことです。米国がこのままTPPに消極的であり続ければ、自由貿易の旗振り役は日本になる。もちろん、日本がTPPを批准するのが大前提ですが。これまで日本は米国に言われて貿易の自由化をのんできた経緯があります。この構図が逆転することになります。

 日本は世界第3位の経済大国。安倍晋三政権が、安定した政権基盤のもとで自由貿易をしっかり進めていこうと旗を掲げてくれるのなら、われわれ経済界としては勇気が出てきます。「米国が消極的だから日本も批准しなくていい」ではなくて、日本の取り組みによって世界に大きなインパクトを与えることができるチャンスだと考えるべきです。

Brexitの反省は生きるか

ここまで「もしトランプが大統領になったら」を聞いてきました。ここでトランプ候補が大統領になる可能性についてお聞きします。英国ではEU離脱をめぐる国民投票で「まさか」が起こりました。米大統領選でも「まさか」、つまりトランプ候補が当選する可能性はあるでしょうか。

新浪: 英国の国民投票について、私は、どちらかというと結果そのものではなくて、結果を受けて示された英国人の反省のほうに興味を持っています。英国では「こんなはずじゃなかった」と多くのひとが反省しているようです。

 その反省を目にしている米国人の意識が、大統領選に影響する可能性があると思います。現時点で民主党のヒラリー・クリントン候補が優勢なのはその表れかもしれない。

 仮にトランプ候補が当選したとしても(保護主義の危うさを認識した米国人の民意は)なんらかの「抑え」として機能するかもしれません。

米国の経営者は支持する候補を明確にする印象があります。新浪さんはトランプ候補とクリントン候補のどちらを支持していますか。

新浪:まあ、僕は有権者じゃないので、どちらが良いということはないです。ただ米国が内向き志向に陥っているのは事実で、これは両候補(の発言内容など)に共通する。米国の内向き志向をどう変えていくか、そのために日本はどんな役割を果たせるのか。TPPへの対応も含めて、日本として努力するべきは何かを考えるべきではないでしょうか。

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