今年に入ってから、ネット上では4月にトンカツ店で衣をすべてはがして残し、カツだけを食べたお客の話が話題になった。9月には寿司店でしゃりを残す女性が少なからず存在することが話題になった。さらに9月末から10月上旬にはピザの具だけを食べてピザ生地を残すのはマナー違反かどうかまでネット上で議論されていた。

 日経ビジネス2016年11月7日号では特集「糖質制限パニック」を担当したが、こうした話題が度々、ネット上で関心を集めること自体が、多くの消費者にとって糖質制限が無視できない存在感を持っている証拠だろう。

 その渦中で、いち早く動いた企業の1つがラーメンチェーン店「舎鈴」を展開する松富士(東京都千代田区、竹田和重社長)。ラーメン店だが、麺を豚肉とタマネギ、モヤシに変更できる「つけ肉」を一部店舗で今年8月から提供し、ネット上でも話題を集めた。現在25ある全店舗での取り扱いを目指している。

 「舎鈴」のケースは糖質制限対応の成功事例だが、実は多くの飲食店にとって健康を重視したメニューに力を入れることは簡単なことではない。

「舎鈴」の「つけ肉」。290円の追加料金を支払うと、麺を豚肉200gとタマネギ・モヤシ100gに変更できる
「舎鈴」の「つけ肉」。290円の追加料金を支払うと、麺を豚肉200gとタマネギ・モヤシ100gに変更できる

 まず、通常のお客向けとは別に、糖質制限などを行う健康志向の強いお客のための新たなメニューを開発することは、慢性的な人手不足に悩む中小飲食店の現場にとって大きな負担になる。また、糖質制限を実践している消費者が必要とするメニューは単価の高いハレの日の食事ではなく、週に何回も食べられる日常食であることも問題だ。「カネ払いの良い消費者は首都圏の一部に限られる。地方では日常食に1000円を超える値付けは難しい」と外食業界のベテランコンサルタント、FBAの石田義昭代表は指摘する。

年に一度の「メタボ検診」が生む意識変化

 もっとも、だからと言って手をこまねいていて良いわけではないと石田氏は指摘する。

 それは「消費者の健康志向は、ある意味で『国策』によって育まれてきた意識変化」(石田氏)のためだ。その国策とは具体的には、2008年から義務付けられている特定健康診査。いわゆる「メタボ健診」のことだ。40歳以上を対象に、生活習慣病予防のためメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)に着目して、病気のリスクを検査し、保健指導を行っている。

 健康診断は年に1度実施され、それを受診させることは企業側の義務。腹囲が男性85cm、女性90cm以上で血圧などの検査値に1つでも問題があるといった条件に該当すると、メタボリックシンドロームの予備群として保健指導の対象となる。

 嫌でも年に一度は、健康を意識しなければならないので、ダイエットに関心を持たざるを得ない。そうした中で、比較的取り組み易い糖質制限が注目されてきたというのが石田氏の分析だ。

 多くの人が「メタボ健診」で健康に興味を持つことは、健康関連のメディア情報を増やし、さらに健康関連の商品を増やす。それがさらに健康への関心を高めていく。長い目で見れば、こうした流れにあがなうのは得策ではない。

 昨年、「いきなり!ステーキ」を展開するペッパーフードサービスでは社員がステーキを1日300グラム食べ続ける糖質制限と同時に筋力トレーニングをすることで、15キロ以上の減量と肉体改造に挑戦する企画を行って見事に成功し、話題になった。

 サラダや枝豆、肉料理、刺し身など居酒屋のメニューは糖質制限に対応したものが多い。自店なりの工夫で健康志向のお客にアピールすべきだろう。

昨年の9月11日から11月30日までステーキを食べ続けながら、トレーニングを行うことで15キロのダイエットに成功したペッパーフードサービスの39歳社員
昨年の9月11日から11月30日までステーキを食べ続けながら、トレーニングを行うことで15キロのダイエットに成功したペッパーフードサービスの39歳社員
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