経営とITに関して、以前からどうもモヤモヤしていたことがある。何かと言うと、日本企業の経営者の多くがITを分からないという不可思議現象のことである。欧米、そして新興国の経営者でITを分からないという人は寡聞にして知らないし、そもそも「ITを分からない経営者」は論理的にあり得ない。ところが日本企業では、「IT嫌い」を自称する経営者もいたりして、もうビックリである。

 私はこの「極言暴論」で何度か、ITを分からない経営者がもたらすERP(統合基幹業務システム)導入の喜悲劇や、「うちの社長がITを分からないから」と陰口を言うことで自らの無責任や無能さを頬かむりするIT部門の愚かさを記事にしてきた。だが、なぜ日本企業の経営者がITを分からないのかについて腑に落ちる理由が見つからず、記事を書いている途中、モヤモヤとしてどうも気持ちが悪かった。

 だって、そうだろう。経営者は言うまでもなく経営のプロである。そして世界各国どこの経営者に聞いても、ITは経営の道具あるいは武器と言う。なのに、なぜ…。実は、次の極言暴論の記事(つまり、この記事)のテーマを検討しながら、そんなことを考えていたのだが、突然ひらめいた。そうか、ITを分からない経営者は経営の素人なんだ。腑に落ちた。もう納得である。

 つまり、こうだ。経営者なのにITを分からないのではなく、経営の素人だからITを分からないというわけ。「素人の経営者なんて実際にいるのか」というツッコミが即座に入りそうだが、実際にはゴロゴロいる。詳しくは後で書くが、皮肉交じりに一例を挙げよう。日本では、外部から招かれた経営者を「プロの経営者」と呼ぶでしょ。経営者を含め誰もこの言葉に違和感を持っていない以上、残りの経営者は「素人の経営者」ということになるはずだ。

 もし、この記事がIT嫌いの経営者らの目に触れたら、「経営の実務に触れたこともないド素人が何をエラそうなことを」と怒られるか、「ふーん」と冷笑されスルーされるかのいずれかであろう。だが、これは極めて重要なポイントである。ITを分からない日本企業の経営者にこのまま経営を任せておいて大丈夫なのか。株主や投資家、従業員、他のステークホルダー、そして経営者ご自身が真剣に考えるべきである。