「七中全会」のコミュニケには「習近平独裁」への道筋が浮かび上がった(写真:新華社/アフロ)
「七中全会」のコミュニケには「習近平独裁」への道筋が浮かび上がった(写真:新華社/アフロ)

 第19回党大会(10月18日)前の最後の中央委員会全体会議である七中全会が14日に閉幕し、コミュニケが発表された。その中身は、なかなか中国人民にとっても、国際社会にとっても暗いものである。コミュニケの中身を整理しつつ党大会の行方を占ってみよう。

習近平が完全に仕切った

 まず、この七中全会は、習近平が完全に仕切ったという印象だ。つまり党大会も習近平の主導で進められていきそうだ、ということだ。

 新華社が発表したコミュニケを読み解くと、まず、党規約改正について、三つの文書が審議されることが決定した。その一つはおそらく、習近平の治国理政の指導思想が書き込まれるのだが、コミュニケではその指導思想を「習近平総書記の一連の重要講話精神と治国理政新理念新思想新戦略」と書いている。

 そして、「全党全軍全国各民族人民を団結させ、安定の中での任務を求める基調を堅持し、国内国際の二つの大局を統括し、“五位一体”の全体采配推進、“四つの全面”戦略采配を統括して推進し、新発展理念をぶれずに貫徹実施し、ぶれずに改革を手堅く推進し、ぶれずに党風廉政建設と反腐敗闘争を推進し、様々なリスクへの挑戦には有効に対応し、イノベーションとマクロコントロールをうまくし、安定成長、改革促進、構造調整、民生を統括し、リスク予防の各種工作を行い、社会主義経済建設、政治建設、文化建設、社会建設、エコ文明建設を全面的に推進し、軍隊改革と建設を深化させ、対香港マカオ工作、対台湾工作を積極的にうまくやり、中国の特色ある大国外交を全面的に展開し、全面的に厳格な党を治める各種工作をしっかりやり、経済の安定発展を維持し、社会を調和的に安定させ、第19回党大会を開催するための良好な条件を創った」とした。

「独裁」と「粛清」の正当性を説く

 過去の五年の政権運営については、きわめて平凡ならざる五年、と評価し、改革開放と社会主義現代化建設において歴史的な成果を得た、とした。「習近平同志を核心とした党中央」が、「巨大な政治的勇気と強烈な責任感をもって、多くの歴史的特徴のある偉大な闘争を推し進め…解決できないと思われていた多くの長期的問題を解決し、成し得ないとも思われていた多くのことを成し遂げ、党と国家事業の歴史的変革をもたらした」と絶賛。

 さらに、中央規律検査委員会の仕事についての総括では、「習近平同志を核心とした党中央の堅強な指導のもと、各レベルの規律検査委員会当局が忠誠をもって、党規約を職責をもって履行し、厳格な党の統治を全面的に推進し、党風廉政建設と反腐敗闘争を深く展開」「反腐敗闘争の圧倒的態勢をすでに形成し、しっかりと発展させた」と評価。

 孫政才、黄興国、孫懐山、呉愛英、蘇樹林、王三運、項俊波、李雲峰、楊崇勇、田修思、莫建成、王建平ら中央委員11人を含む12人の党籍剥奪を確認するとともに、中央委員候補委員11人を中央委員に繰り上げる、とした。

 また「われらが党は8900万人以上の党員を抱える大党であり、13億人以上を指導して改革開放と社会主義現代化建設を進める執政党であり、もし党中央の権威と統一的な指導、厳格な政治規律と政治規則がなく、清廉な風紀の良好な政治生態がなければ、創造力、求心力、戦闘力は失われ、執政の基礎と執政の能力も失われ、人民から深刻な離脱を起こし、人民を指導して改革開放と社会主義現代化建設といった歴史的重責を担うことが不可能になってしまう」として、「全党が必ずや堅牢な政治意思、大局意思、核心意思、看斉意思(足並みをそろえる意識)を打ち立てねばならず、党中央の権威維持、党中央の集中統一指導への服従を堅く決心せねばならず、思想上、政治上、行動上、習近平同志を核心とする党中央と高度に一致させねばならない。党の指導の堅持は必須であり、完璧な民主集中制の堅持、党指導の各項目のシステムメカニズムの堅持、一切の活動における党の指導の確保、党の全局的な指導、各方面との協調の確保が必須である」と、習近平が独裁的権力をふるい、党内粛清を行うことの正統性を説いている。

 「党の理論と路線方針政策を揺らぐことなく堅持し、忠実に正確に党中央政策決定の陣容を執行し、いかなる地方、部門の仕事も必ず党中央政策決定の陣容を前提に貫徹せねばならない。党の核レベルの指導幹部、特に高級幹部は必ず党に忠誠をつくし、心の中に党を持ち、心の中に民を持ち、心の中に責任を持ち、心の中に戒めを持ち、政治定力(決定力)、規律定力、道徳定力、抵腐定力(腐敗に抵抗する決定力)を強化し、党中央の権威維持と党の団結統一維持を自覚し、全党の手本とならねばならない」と、党中央(習近平)への忠誠と服従を求めている。

 そして最後に、「全会は全面的に当面の情勢と任務を分析し、多くの歴史的特徴を持つ偉大なる闘争の推進、党建設の新しい偉大なるプロセスの建設、中国の特色ある社会主義の偉大なる事業の推進、民族復興の偉大なる夢の実現の若干の重大問題について深く討論し、第十九回党大会ために十分な準備を行った」と結んだ。

不満の芽は育ち、軍部は掌握できず

 専門用語も多いが、それを今回はいちいち説明しない。習近平の思想や戦略、四つの全面や五位一体といった用語は、過去のコラムを読んでもらった読者はだいたいお分かりだと思う。このコミュニケの注目点は四つある。

 まず、党規約に習近平の指導思想が入ることがほぼ確定したこと。どのような名称になるかまでは確定していないようだが、「習近平」という個人名は入りそうだ。となると習近平の指導力が鄧小平に並ばずとも劣らず、というふうに党中央も認めた、ということになる。

 次に、「習近平同志を核心とする党中央」という表現が三度にわたってあり、「四つの偉大」(闘争、プロセス、事業、夢)など、いわゆる「習近平フレーズ」がちりばめられ、任期一期目の五年の業績について、解決できないと思われていたことを解決し、成し得ないと思われていたことを為し得た、と大絶賛した。はっきりいって、李克強から操縦桿を奪って自分でかじ取りしたマクロ経済政策は惨憺たる結果であったし、確かに一人っ子政策の廃止や労働教養制度の廃止などは、それなりに重要な成果かもしれないが、709事件のような苛烈な人権弁護士弾圧などに象徴されるように中国の人道上の問題は習近平政権になってむしろ悪化している。反腐敗キャンペーンは大きな成果だが、これはむしろ既存の秩序を破壊し、官僚や中産階級を混乱と恐怖に陥れたもので、果たして絶賛されるような成果といえるのだろうか。

 三つ目は、過去に例をみないほどの大量の党籍剥奪。第17期の七中全会での中央委員以上の党籍剥奪は2人、16期での党籍剥奪も2人だったことを考えると、中央委員以上で一気に11人の党籍剥奪は、党中央の異常事態である。失脚者の中には、元法務部長(法務相)の呉愛英や、元空軍政治委員の田修思や副参謀長の王建平も含まれた。そして、この激しい反腐敗キャンペーンという名の粛清は次の五年、より強固に展開されるということだ。

 四つ目は、共産党の執政党としての権威維持のために、習近平に権力を集中させることや反腐敗に象徴される厳格な党の統治、経済活動を含めあらゆる活動についての党の指導の徹底が必要であるということ、そして党員の絶対的服従が必要であることを、これでもかというほど説いている点だ。これは逆にいえば、習近平独裁に抵抗を持つ党員が多いということでもあり、また党の執政党としてのレジティマシーが揺らいでいるという自覚があるということでもある。

 もう一つ、隠れた注目点がある。中央軍事委員会改革についての言及がないことだ。習近平は、軍事員会副主席職をもう一つ増やし、制服組の権力を分散させたい考えを持っていた。しかしながら、軍事委改革については一切触れていない。これは、普通に考えれば、軍部からの激しい抵抗にあってコミュニケに書き入れられなかったということであり、習近平は軍権をまだ掌握していない、と受け取れる。

「自由」や「発展」とは縁がない

 この七中全会のコミュニケに従って党大会が進められるとしたら、習近平政権二期目はこれまで以上に権力を集中させ、綱紀粛正を行い、さらに苛烈な反腐敗キャンペーンを展開し、一層独裁的な権力をふるうという風に思われる。

 しかも、一切の活動において党の指導が確保されるということは、企業の経済活動も人民社会の活動も、文化娯楽活動も、エコや文明も、すべて習近平同志を核心とする党中央、つまり習近平のデザイン通りに行われる、ということである。

 中国人民にとっても国際社会にとっても、これは先行き暗い話である。なぜなら、習近平のデザインする中国社会のイメージは、過去の五年の執政ぶりを見る限り、自由や発展とは縁がない。習近平を核心とした党中央による、がちがちの統制強化、絶対服従、相互監視と反腐敗、綱紀粛正という名の権力闘争、政敵排除の粛清が次の五年、さらにエスカレートすることになる。

共産党体制の瓦解の始まりか

 米国発の華字ニュースサイト・博訊が、10月14日に不穏なコラム記事を掲載していた。

 要約すれば、次のようになる。

 「党大会後、中国は習近平時代に入る。これは新たな極権時代である。習近平は権力を掌握するだけで満足できず、毛沢東の未完の事業を実現し、中国に対する全面的な改造を行い、地上の理想郷を創ろうとするだろう。極権主義とは、ナチス・ヒトラーモデル、旧ソ連スターリンモデル、毛沢東モデルなどがあるが、習近平が模倣しようとするのはスターリンモデル(の党内・軍部粛清)であろう。実際、習近平がやってきた粛清を見れば、薄熙来、周永康、令計画、徐才厚、郭伯雄、孫政才などはすべて党内粛清だ。

 スターリンが行った党内政治弾圧・迫害運動は百万人以上が迫害死し、数十万人が処刑され、百万人以上が居場所を追われた。第19回党大会後、習近平は党内粛清を展開するのか? その可能性は高い。

 現在の8000万人以上の党員はもともと出世と蓄財のために入党した。もし習近平が彼らの出世の道をふさぐというならば、8000万人党員が習近平極権統治の天敵となる。

 粛清は必然であり、極権統治は粛清を拡大するものだ。粛清はたえず己の敵を生み出すからだ。中国共産党の歴史はそれを繰り返してきた、AB団事件、延安整風、反右派運動、文化大革命、すべて粛清を伴ってきたではないか」

 習近平政権第二期は、共産党の大粛清時代の始まりであり、そして共産党体制の瓦解の始まりの時代かもしれない。

 トランプと習近平のしくじり合戦が始まり世界は大混乱へ…。秋に党大会を控えた中国が国内外に対してどう動くか。なぜ中国人はトランプを応援していたのか。軍制改革の背景とその結果は? 北朝鮮の暴発と米中の対立、東南アジアへの進出の可能性など、様々な懸念材料が散らばっている、かの国を徹底分析する。
ビジネス社 2017年6月9日刊

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