「トレンドやニーズを把握して、どんな価値を、誰に提供するか」。この形さえ明確にできれば、売り上げや利益を伸ばすことは難しくありません。今回からは、売り上げや利益を伸ばせるビジネスの仕組みをつくるための発想法をご紹介します。
 第1回として取り上げるのは、「ガラケー」。スマートフォンが普及する前に日本独自で進化を遂げた携帯電話の呼び名です。ガラケー市場はスマホの普及により縮小していったため、「ガラパゴス化」は間違いという認識がありますが、本当にそうなのでしょうか。

 赤道直下のエクアドル共和国から西へ約900キロの太平洋上にガラパゴス諸島があります。ダーウィンの進化論で有名なこの島々は、外界から遮断された結果、そこに住む生物が独自の進化を遂げた珍しい地域です。

 ビジネスの世界では、これに習って「ガラパゴス化」と揶揄されることもあります。有名なのは「ガラパゴス・ケータイ(ガラケー)」です。世界のモバイル・IT事情とは異なった、日本独自の進化を遂げた日本の携帯電話のことで、先進的な技術や機能がありながら、海外では普及しませんでした。スマートフォン(スマホ)の普及とともに徐々に市場を失い、多くの日本企業が携帯電話ビジネスから撤退していきました。

ガラケーがスマホに取って代わられた理由をもう一度考えてみよう
ガラケーがスマホに取って代わられた理由をもう一度考えてみよう

 このようにビジネスにおいてガラパゴス化は、ともすれば「悪い例え」に聞こえます。しかし、本当にそうなのでしょうか。そこで今回は、このガラパゴス化について深く掘り下げて考えていきます。

スマホが普及しガラケーが衰退した理由

 なぜスマホが売れてガラケーは衰退していったのか。ビジネスパーソンであれば、この問題について一度は、Web、雑誌、新聞などで記事を目にしたことがあるでしょう。諸説がある中で、筆者は以下のような見立てをしています。

(1)ガラケー自体がプロダクトアウト商品だった

  • ガラパゴス化という表現が使われるように、日本独自の進化を遂げたからワールドワイドで売れなかったという説もあるが、そもそも顧客ニーズを十分組み入れることができなかった作り手視点のプロダクトアウト商品であったのではないか。
  • 例えば、SNSが普及し始めている中で、簡単に楽しく写真などを投稿するという機能自体がガラケーにはなかった。
  • つまり、機能的には写真を投稿できるが、SDカードに移したり、ボタンを何回も押さないと投稿できないような仕様であった。
  • 要は、単に、顧客にとってスマホのほうが使いやすく、価値が高かった。

(2)ガラパゴス化が勝つケースもある

  • 日本の自動車産業は、巨大メーカーを中心に1次下請け、2次、3次……とピラミッド構造となっている。
  • ここで行われている「カイゼン」「ジャストインタイム」などのものづくり手法は、日本独自の進化を遂げてきた(まさにガラパゴス状態)。
  • にもかかわらず、日本の自動車産業は、トヨタをはじめ世界で勝っている。

 いかがでしょうか。つまり、ガラケーは、ガラパゴス化だから負けたのではなく、単にニーズを吸い上げきれていなくて、機能的には満足しているが、使い勝手、持っている満足感など顧客の利用価値を十分とらえきれていなかったというマーケティングの問題があったと考えます。

 このように見ていきますと、ガラパゴス化自体が問題なのではなく、そのように皆が考えてしまうという「同質化の問題」と、マーケティング不足による「提供価値が磨かれてない点」が問題の本質なのだと分かります。

 昨今のビジネスにおいては、この2点が特に顕著です。1つの物事に皆が群がり、同質化する中で機能的な競争を行い、結局は、プロダクトアウトの機能競争、あるいは低価格競争に陥っているのです。

 こういった大同質化時代においては、他と同じことを考えるより、むしろ、逆転の発想が生きてきます。実際、「脱同質化」で売れている商品・サービスは多くあります。そこで次に、これらを見ていきましょう。

逆転の発想でトレンドをとらえる

 表を見てください。逆転の発想で成功しているビジネス(商品・サービス)の一部を紹介しています。

逆転の発想(脱同質化)で成功しているビジネス(商品・サービス)
逆転の発想(脱同質化)で成功しているビジネス(商品・サービス)
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 表の一番上に挙げた富士フイルムのインスタントカメラ「チェキ」は、デジタル化のトレンドの中で衰退したと思われた商品ですが、時短トレンドとSNSトレンドが後押しして、復活しました。

 2つ目の「小容量モノ」は今やかなりの分野で重要な考え方となっています。量が多ければいいのではなく、捨ててしまうぐらいであれば、使い切りの量が好まれるという逆転の発想です。これについても、高齢化・単身世帯化によって1人、2人世帯が増えたトレンドが大きく後押しをしています。

 3つ目の「セルフサービス」については、コンビニコーヒーに見られるように、フルサービスを提供しなくても、セルフでも十分に成功しているのです。

 4つ目のように、すでに出来上がった完成品ではなく、手作りのモノや、手作り用の材料などで成功している商品も増えてきました。最近では、常温のドリンクなどもコンビニで売っています。ドリンクは、暖かいか冷たいかが当たり前でした。ところが、健康志向トレンドの後押しもあり、冷たい飲み物を一気に飲むのではなく、常温のドリンクをゆっくりと飲むというニーズも出てきました。最後に、パートワーク出版のデアゴスティーニなど趣味の世界でも、やたら手間のかかるモノが売れています。

 このように見てきますと、同質化を狙うよりも、逆転の発想でブルーオーシャンをつくる方がいいケースも多々あることが分かります。

ガラパゴス化は問題か?

 もう一度、最初に戻りますが、そもそもガラパゴス化という「独自の進化」は問題なのでしょうか。同質化で競合だらけのレッドオーシャン市場よりも、独自の商品が独り勝ちできるブルーオーシャン市場のほうがいいのは間違いありません。

 要は、どう勝っていくかという勝ち筋戦略とポジショニングの問題なのです。企業規模が大きく、何百億円も売り上げなくてはならない状況では、独自性にこだわり、小さな市場を狙ってしまうと、期待した売り上げは望みにくくなるでしょう。そこで、より大きな市場を狙うのですが、当然、レッドオーシャンになりやすくなります。

 一方、一般的な中小企業のように、数十億円でも売り上げが上がればいい場合は、大きな市場へ入り、レッドオーシャン化するよりも、逆転の発想でブルーオーシャン状態をつくり出す方が勝てる確率は確実に上がります。

 そのためには、市場トレンドと顧客ニーズを外さないことです。表で示した逆転の発想では、成功するための前提条件として市場の後押しがあります。市場の後押しとは、市場トレンドそのものです。社会環境が変化することで市場トレンドが動く。それに伴って、「小容量のモノが欲しい」「手作りしたい」というように顧客ニーズも変化してくるのです。これをいち早く捉える取り組みが逆転の発想にもつながるのです。

 「ガラパゴス化=ビジネスの失敗」と揶揄していること自体、大同質化時代にどっぷりはまった考えであり、こういった思考である限り、レッドオーシャン市場で機能と価格の“疲弊戦”を続けることになるのです。

(この記事は『日経トップリーダー経営者クラブ会報誌 マンスリー』2016年7月号の記事を加筆、転載しました。 編集:日経トップリーダー

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