本誌1月23日号の特集「トランプに負けるな! トヨタ、GE、ダノンの動じない経営」では、トランプ氏の大統領就任が象徴するグローバリゼーションの修正が始まる時代に必要なのは、企業と社会が共に価値を共有し続ける「サステナブル経営」であると位置づけた。
 特集で取り上げた欧米企業の中でも、家具の世界大手スウェーデンのイケアは、気候変動対策に積極的な企業として特に有名だ。「2020年に店舗を再生エネルギーで100%賄う」「世界全店舗から白熱電球の販売を中止し、LED電球に切り替え」など、スケールの大きな取り組みが注目を集めている。
 近年は自社での活動にとどまらず、社外とも積極的に協力して、気候変動対策を世界的に強化する活動をけん引している。自社のファンドを組成して、環境ベンチャーに10社以上投資。大企業とは「RE100」など、再生可能エネルギーの利用を普及させるイニシアティブも主導する。国連とも連携し、SDGs(持続可能な開発目標)の推進にも貢献している。
 イケアがこれほど経営のサステナビリティー(持続可能性)を重視するのは理由はなぜか。同社のCSO(チーフ・サステナビリティー・オフィサー)のスティーブ・ハワード氏に聞いた。

【記事のポイント】

  • ●このままでは地球の資源は枯渇する
  • ●サステナブル経営は企業の責務
  • ●目標は「100%」でなければ実効性がない
(写真:永川智子、以下同)
(写真:永川智子、以下同)

スティーブ・ハワード(Steve Howard)氏

1990年ロンドン・メトロポリタン大学卒業。96年、ノッティンガム大学で環境物理学の博士号を取得。CSR(企業の社会的責任)コンサルタントとして働いた後、2003年に環境NPO(非営利組織)のザ・クライメートグループを立ち上げ、CEO(最高経営責任者)に就任。政府や企業と連携し、低炭素社会の実現に向けた活動を展開した。2011年、イケアがCSO(チーフ・サステナビリティー・オフィサー)のポジションを新設したことに伴い、イケア入社。イケア全社のサステナビリティーの戦略を統括するほか、世界経済フォーラムの気候変動対策グループ議長なども務める。

イケアはサステナビリティーを重視する企業として世界的に有名です。なぜ、サステナビリティーを重視するのですか。

スティーブ・ハワードCSO(以下、ハワード):残念なことですが、地球の未来を考えると、企業がサステナビリティーを考えることは、もはや「やる」「やらない」の問題ではなくなりました。このままでは、地球資源が枯渇するのは明らかです。企業がサステナビリティーを経営の根幹に位置付けるのは当然です。しかも、それにどれだけ、コミットできるかが問われています。

 20世紀の初頭、世界の人口がまだ15億人ほどの時代なら、何も問題はありませんでした。資源は潤沢で、海はどこまでも続き、食料は無限にある時代でした。

 しかし、100年後の現在は違います。世界人口は75億人に膨れ上がりました。先進国の人々は豊かさを享受し、新興国の人々の生活もこれに続いています。その結果、地球の資源は枯渇に近づいています。そして深刻な環境破壊が地球全体を蝕んでいます。

 国際シンクタンクのグローバル・フットプリント・ネットワークの試算によれば、我々が消費している資源は、毎年、地球1.6個分にのぼります。1年間で、我々は地球まるごと1つ以上の資源を消費しているのです。そして、この“負債”は年々蓄積されています。恐ろしいことに、その消費量は今後さらに拡大すると見られています。このままでは、地球の資源は持続できません。

 地球規模で考えなければならない社会課題はいくつもあります。その中で、イケアが特に関心を持っているのが、気候変動問題です。昨今、世界で起きている異常気象も、この動きと無縁ではないでしょう。

 問題が大きすぎて、消費者には実感がわかないかも知れません。しかし、気候変動に関して言えば、もはや猶予はあまりありません。次の世代に先送りできる問題ではないのです。

 イケアはこうした問題意識を、CEO(最高経営責任者)のペーテル・アグネフィエルを始めとした経営陣が共有しています。そして、経営の中心に据えて取り組む方針を掲げてきました。

「人にも地球にもポジティブ」な影響を与える

サステナブルな経営の重要性は理解できます。一方で、日本では具体的にどう実践すればいいのか、分からないという企業も少なくありません。

ハワード:イケアも1990年代から、サステナビリティーをどのように経営戦略に位置づけるか、試行錯誤してきました。

 経験的に、まず取るべきステップは、社内にサステナビリティーを推進する責任者を置くことです。それも、経営に携わる役員クラスが望ましい。その理由は、サステナビリティーを経営戦略と一体で考えなければ、社会に大きなインパクトを与えることができないからです。

 イケア自身もそうでした。90年代から環境対策やサプライチェーンの見直しなど、サステナビリティーに積極的に取り組んできました。一方で、当時はどの活動も単発的で、部分的な活動にとどまっていました。

 イケアはCSO(チーフ・サステナビリティー・オフィサー)のポストを設けた後、その体制をがらりと変えました。経営の中で、サステナビリティーに取り組むことを宣言し、戦略と一体化しました。「People&Planet Positive」という戦略を掲げ、イケアのあらゆるビジネスが「人と環境にポジティブな影響を与える」という方針に沿ったものとすることを明確にしたのです。

 この方針の下に、イケアの個々の事業について、取るべき方策を具体化していきました。

 現在では、イケアの事業展開の基準は、すべてこの戦略に沿っているかどうかで判断しています。例えば、イケアには環境ベンチャーに投資するファンドがありますが、投資判断は、人と地球にポジティブな影響を与えるかという基幹戦略に沿っているかどうかを重視します。商品も同様で、この戦略に沿って開発されます。

 責任者を設け、経営戦略と一体化することに加えて、もう一つ大切なことは、サステナビリティーの活動を定量的に測定することです。サステナビリティーに取り組んだ結果、どれだけのインパクトを与えるのかを、可視化するのです。

 その方法は、いくつもあります。分かりやすいのは、二酸化炭素をどれだけ排出したかという点ですが、それ以外にも、再生可能エネルギーの利用率など、いくつもあります。測定方法を示すツールを提供するNPO(非営利組織)などもあります。

目標は100%でなければ実効性がない

数字で示すことは大切だということですね。

ハワード:はい。私はよく100%という言葉を好みます。100%リニューアブル、100%認定魚、100%リサイクルプラスチックなど、イケアには100%を掲げた活動がいくつもあります。

 理由は簡単で、目的がとてもクリアになります。例えば、60%にすると、それはどこかに言い訳できる余地を残してしまうのです。当初は、それほど意識はしていなかったのですが、社内での動き方も変わります。経営に良い緊張感も生まれます。決意の固さと同時に、徹底的に進めることにつながります。

確かに、100%という数字はインパクトがありますね。

ハワード:もちろん、すべて100%である必要はありませんが、数字を示すことはサステナブルを考える上ではとても大切です。世の中にポジティブなインパクトを与えているかどうかが、明確になりますから。

 さらに数字が、どのような意味を持つかを見せていくことも、経営にとっては大切だと思います。仮に何かの目標を50%達成したとき、それを、もう半分なのか、まだ半分なのか。捉え方次第で、組織のモチベーションは大きく変わります。フレームワークを前向きに設定することも、経営の大切な役目だと思います。

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【インタビュー後半のポイント】

  • ●「サステナブル経営」はイノベーションを加速する
  • ●サステナブルだから値段は高い、という発想は間違い
  • ●「目的志向」の人々が増えている
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