2月24日(金)に初回を迎えたプレミアムフライデー。ロゴの作成や業界の垣根を超えた参加の呼びかけを進めてきたのが経済産業省だ。「お上」が関わっているとなると、どうしても白けてしまうのが消費者心理というもの。だが、少なくとも商品・サービスを提供する側である企業・団体の参加は3930を超える見込みで、新しい消費喚起イベントに期待が高まっているのは事実だ。
 どのような経緯で、今回のプレミアムフライデーは企画されたのか。どんな思いを胸に準備を進めてきたのか。「できるだけ目立ちたくない」と謙遜する経済産業省・流通政策課の林揚哲課長に、“こっそり”聞いた。

まずは今回の企画が立ち上がった経緯を教えてください。

:もともとは2016年春、安倍晋三首相の諮問機関である経済財政諮問会議で「ブラックフライデーを日本でも」との声が上がったのがきっかけです。ブラックフライデーとは、米国の11月の感謝祭翌日、つまりクリスマス商戦の初日に小売り各社が一斉セールを打ち出す日のこと。その後、三越伊勢丹ホールディングス会長で経団連副会長を務める石塚邦雄さんが関係業界に呼びかけてくれたことで、本格的に検討が始まりました。

米国のブラックフライデーは基本的に値引きセールです。なぜ今回は「プレミアム」と銘打っているのでしょうか。

:やはり「単純な値引き合戦ではいけない」という問題意識を、流通・サービス業界が持っていたからだと思います。官民で議論するなかで、日本がデフレから抜けられない構図を食い止めるにはどうすればいいのか、という問題提起がありました。良いモノ、良いサービスを楽しんでもらい、適正な対価を支払う。そんな流れを作ることを、今回のイベントの目的のひとつにしようと決めたのです。

プレミアムフライデーのロゴを発表する経産省の林課長(左、写真=朝日新聞社/時事通信フォト、2016年12月)
プレミアムフライデーのロゴを発表する経産省の林課長(左、写真=朝日新聞社/時事通信フォト、2016年12月)

プレミアムフライデーには、どれくらいのお金が投じられているのですか。

:2016年度の第2次補正予算で「産業界・地域と連携した消費需要喚起対策事業」として2億円を計上しました。ロゴマークの利用申請を受け付ける事務局の運営コストも一部ありますが、ほとんどはPRや広報に使っています。

消費喚起へ「新しいアプローチ」

消費を喚起する目的で予算が投入された例としては、小渕恵三政権の地域振興券(1999年)や麻生太郎政権の定額給付金(2009年)を思い出します。

:いろんな選択肢はありましたが、私たちはできるだけ効果が長く続く方策を探ってきました。振興券や給付金は即時的にとても大きな効果がありますが、ずっと続くわけではない。新しいアプローチとして、習慣として根付く今回のようなイベントを模索したのです。もちろん「声をかけてムーブメントを起こすだけ」という今回の手法には、本当に効果が出るのかと、省内からも民間からも、色々と懐疑的な声はあがりました。

どうやって理解を得たのですか。

:まずは参加してくれる事業者や自治体を募って、目に見える形で案件を作るところから始めました。「まず10件」を合言葉に、チームの担当官が全国をまわって意義を説明しました。

 すると2016年12月に第1回の推進協議会が開かれるまでに、約50の事業者・自治体が手を上げてくれた。これで協議会に出席した大手事業者なども「これはいけるんじゃないか」と確信してくれたようで、次々と「ウチもやろう」と考えてくれました。あそこがターニングポイントだったと思います。

初回の2月24日(金)は、どれだけの事業者・自治体の参加が見込まれているのでしょうか。

:23日(木)夕方時点で3930件です。大都市圏が多いですが、静岡市のように、地方都市でも街や商店街をあげた取り組みもあると聞いています。

この参加数は想定通りなのでしょうか。

:2月はあくまで初回ですから、我々としては全国で100件くらいまで集まればいいかな、と考えていました。

なぜ、これだけ多くの参加が実現したのでしょう。

:これはもう本当に、みなさんがもっと世の中を明るくしていきたい、元気にしたい、自分たちも盛り上がりたいと考えてくれたことが大きいです。だって静岡市の例みたいにロゴマークのうえに富士山を乗っけてアレンジして……みたいなこと、私たちは全然想定していませんでしたから。

ロゴマークはアレンジを加えても良いのですか。

:どんどんやってもらいたいです。企画を楽しむという文脈では、吉野家が「半丼」っていうメニューを作ってくれたんです。若い世代は知らないかもしれないですが、昔、土曜日に午前中だけ出社することを「半ドン」って呼んでいたでしょう。「半丼」はこれのパロディーで、ごはんの上に乗っている肉の半分が牛、半分が豚というメニューなんです。

 「やられた!」と思ったのは、居酒屋「串カツ田中」の「フライングフライデー」ですね。串カツ田中は1月27日、他の企業に先駆けて独自でプレミアムフライデーを実施しました。揚げるという意味の「フライ」と、1カ月先に始めるという意味での「フライング」。こういう面白ネタはSNS上でも話題になりますよね。

串カツ田中のフライングに感激

串カツ田中とは事前に連絡を取りあっていたのですか?

:全然です。それなのに遊び心たっぷりに参加してくださって、本当に嬉しかった。こういう企画って、国からの押し付けだとどうしても白けてしまいますよね。そうではなくて、事業者として自分たちもアイデア出しを楽しんだうえで、その結果としてお客さんにも楽しんでもらおうという動きが出てきたんです。

月1回なので「個人消費が何%上向いた」など成果が統計に現れるわけではありません。本イベントの成功・失敗は、どう評価するのでしょうか。

:一番分かりやすいのは、参加してくださった事業者さんの売り上げが伸びたり、来店客が増えたり、ということです。ただ2月は初回ですから。まずは参加してくださった事業者が雰囲気の変化を感じ取ってもらうことが最初の一歩ではないかと思います。お客さんが街に流れているね、お店に流れているね、と。よく景気は気からって言われますよね。それと同じことです。

流通やサービス業に携わる人にとっては、勤務時間が短くなるどころか、普段より忙しくなるとの不満の声も出ています。

:確かに、サービスを提供する側はむしろ忙しくなる。けれど売り上げが上がれば利益も出て、お給料アップにつながるかもしれない。そうしたら金曜日以外で休んでもらい、その分お金を使ってもらえれば良いのではないでしょうか。こういう言い方は語弊があるかもしれませんが、やはりお客さんが来てお店が賑わうことで、忙しさを超える喜びを感じてもらえたら幸いに思います。

そもそも社員が15時に退勤するような余裕のない会社も多いはずです。

:もちろん、そういった会社はあると思います。これから試行錯誤するなかで、議論が深まっていくのではないでしょうか。週休2日制が始まったときもそうでしたよね。最初は「土曜休みなんてふざけるな」みたいなことを言うひともいましたが、だんだん社会に浸透してきました。じゃあ早く帰るためにはどうすればいいかなど、考えるきっかけにしてもらえたら嬉しいです。

課長自身は3月から参加へ

ここまで参加事業者・自治体は増えたのだから、あとは消費者に楽しんでもらえるかどうかが心配です。

:どうなることでしょう。それは私もドキドキしています。

 ひとつ強調しておきたいのは、こうしてインタビューしてもらっていますが、本当は経産省にはフォーカスしてほしくないんです。私たちは黒子に過ぎなくて、プレミアムフライデーの主役はあくまでお客さんに喜んでもらうアイデアをそれぞれ考えている事業者・自治体のみなさんだと思うのです。

林課長は、最初のプレミアムフライデーをどう過ごすのですか。

:それは禁句ですよ。

なぜですか。

:だって、きっと経産省幹部がプレミアムフライデーの視察をしますよね、すると担当者として当然随行しますよね。私が行かないわけにはいかないですよ。

残念ですね。

:だから宣言します。3月以降は絶対に15時に退勤します!

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