2017年1月4日、米テスラ・モーターズはパナソニックと共同で、米ネバダ州で世界最大のリチウムイオン2次電池工場「Gigafactory(ギガファクトリー)」を稼働させた。2014年から建設を進めてきた同工場はこのほど竣工し、リチウムイオン2次電池のセルの生産を始めた。

 工場の開所式には、テスラのイーロン・マスク会長兼CEO(最高経営責任者)とパナソニックの津賀一宏社長が出席。その後、報道関係者向けに共同会見を開いた。

テスラ・モーターズのイーロン・マスクCEO(中央)とパナソニックの津賀一宏社長(右)
テスラ・モーターズのイーロン・マスクCEO(中央)とパナソニックの津賀一宏社長(右)

 「ギガファクトリーでは世界中のあらゆる工場の中で最大という規模のメリットを追求し、電池を低コスト化する。長距離走行できる電気自動車(EV)を安価にして、みんなの手が届くようにしたい」。マスクCEOはこう語った。

EV半額のカギとなる電池

 同工場で製造する電池は、テスラが2017年半ばにも量産を開始する小型セダン「モデル3」に搭載される予定。モデル3の価格は、テスラの現在の主力車である中型セダン「モデルS」や多目的スポーツ車(SUV)「モデルX」の半額に相当する3万5000ドル(約416万円)。手ごろな値段であることから、EVの普及を加速させるけん引役になる可能性がある。

テスラ・モーターズの小型セダン「モデル3」。従来のテスラ車に比べれば手頃であるため(3万5000ドル)、予約が殺到した
テスラ・モーターズの小型セダン「モデル3」。従来のテスラ車に比べれば手頃であるため(3万5000ドル)、予約が殺到した

 「電気を貯めてクルマが走る時代が来る。社会を変えるためには電池をいかに有効活用するのかが大事で、だからこそパナソニックはギガファクトリーへの投資を決断した」と津賀社長は強調した。

 ギガファクトリーへの総投資額は約50億ドル(約6000億円)で、そのうちパナソニックの投資額は1500億~2000億円程度になるとみられる。現在は工場全体の約30%が完成した段階で、今後も追加投資して生産能力を順次拡大し、2018年までに年間の生産能力を35GWh(ギガワット時)に引き上げる。この生産規模は「ギガファクトリーを除く全世界で生産されるリチウムイオン2次電池の総量に匹敵する」(テスラ)という。

稼働を始めたばかりの「ギガファクトリー」の外観。現在は工場全体の約30%が完成した段階で、今後も追加投資して生産能力を順次拡大していく
稼働を始めたばかりの「ギガファクトリー」の外観。現在は工場全体の約30%が完成した段階で、今後も追加投資して生産能力を順次拡大していく

 ギガファクトリーで生産するのは「2170」と呼ばれる直径21mm、長さ70mmの円柱形の電池で、現在の主力車であるモデルSやモデルX向けの直径18mm、長さ65mmの「18650」電池より一回り大きい。セル1個当たりの容量も高まり、生産効率が向上するという。

 EVの低コスト化のカギとなるのが、部品コストで最大となる電池コストだ。そのために、ギガファクトリーが重要な役割を果たす。世界最大という規模のメリットを生かして、量産効果を高められる。さらにパナソニックなどの電池メーカーや材料メーカーと協業することで、材料から電池セル、電池パックまでを一貫生産できるようになり、バッテリーパックのkWh(キロワット時)当たりのコストを、従来品より30%以上削減することを目指す。

 電池コストの低減でEVの本体価格を安くしつつも、モデル3は1回の満充電で走行可能な距離(以下、航続距離)を215マイル(346km)以上にする。これまでEVの課題とされてきた航続距離の短さも、十分に克服できる。

 さらにモデル3のハードウエアは自動運転機能にも対応する。こうした特徴が注目を集め、モデル3は既に37万台以上の予約を獲得している。米国での予約金は1000ドル(約12万円)で、新規予約する場合の引き渡し時期は2018年半ばごろを見込む。

2018年に年間50万台のEVを量産

 好調な予約を受けて、テスラはモデル3の量産拡大を当初計画よりも前倒しする。米カリフォルニア州のフリーモント工場におけるEVの生産能力を、当初予定から2年早めて2018年にも年間50万台にする。

 ギガファクトリーはテスラとパナソニックの命運を左右する工場と言える。

 テスラにとっては年間50万台規模の生産を目指すEVの低価格化に必要不可欠な電池だからだ。同社初の普及価格帯のEVの成否は、高性能な電池を安価に生産できるかどうかにかかっている。

 パナソニックにとっても数千億円規模の巨額投資はプラズマテレビ以来の大きな“賭け”だ。EV向け電池でも韓国のLG化学やサムスンSDIとのグローバルな競争が激化する中、パナソニックはテスラと組み、世界最大のEV向け電池メーカーを目指して、リスクをとって攻めの経営に出た。

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