佐川急便では、2016年度、駐車違反の身代わり出頭事件で106人の従業員が立件された。94人の運送会社で年49回の駐車違反の取り締まりを受けたケースもある。法令順守と現実の配送業務の狭間で、運送会社は苦しんでいる。

 佐川急便が駐車違反で揺れている。

 2016年度、駐車違反の身代わり出頭事件で、106人の従業員が立件された。100人を超える従業員が立件されるのは異常事態だ。

駐車違反問題は配送会社の経営課題となっている(写真と本文は関係ありません)
駐車違反問題は配送会社の経営課題となっている(写真と本文は関係ありません)

 同社は東京都23区内に配送関連の営業所が32カ所ある。そのうち、9カ所で身代わり出頭が発覚しており、問題が会社全体に広がっている。

 駐車違反の取り締まりを受けると運転手が出頭して納付するか、所有者が反則金を納付しなければならない。佐川急便ではペナルティーとして内勤に異動となるケースがあるため、それを避けるために、知人などに身代わり出頭を依頼していたようだ。同社の従業員は、犯人隠避や同教唆の疑いで逮捕されている。

 佐川急便は昨年12月、以下のコメントを出した。「今後、同様の事案が発生しないよう全社一丸となって再発防止に取り組むとともに、従業員教育の再徹底を図ってまいります」。

 身代わり出頭は許されない行為ではあるが、佐川急便は自転車や台車ではなくトラックで宅配するケースが多いため、駐車違反の対象になりやすい事情がある。

 そして、営業用トラックの駐車違反は、佐川急便だけでなく多くの運送会社が悩んでいる問題でもある。

駐車違反の罰金が年100万円以上に

 酒類の集配を担うワタコー(東京・葛飾)も、駐車違反に苦しんでいる運送会社だ。同社は2006年度以降、駐車違反の件数が増え、多い年では49件の駐車違反を受けている。

 同社は94人の運転手と100台ほどのトラックを抱える。大型車の駐車違反の罰金は2万1000円であり、年49回の違反では100万円以上の負担となる。

 渡邊直人社長は「1度の違反で1日の運賃がほぼ飛んでしまう。経営の大きな負担になっている」と話す。また、後述のように“狙い撃ち”される恐れがあるため、駐車違反になったトラックについては稼働を減らすケースがあり、まさに「駐禁地獄」のような状況だという。

ワタコーの従業員は、こうしたトラックに乗って東京の繁華街に酒類を届けている
ワタコーの従業員は、こうしたトラックに乗って東京の繁華街に酒類を届けている
 

 同社は東京の銀座、赤坂、六本木の酒屋や飲食店に酒類を配送している。いずれも繁華街のど真ん中に立地しており、駐車スペースがほとんどない。

 飲食店に酒類を運んでいる間に、駐車監視員によって、配送トラックに駐車違反のステッカーを貼られることが多い。同じルートを回っているため、狙い撃ちされるケースもあるという。

 例えば銀座でのこと。トラックから降りて、ビルの中の飲食店に酒類を届けるためにエレベーターに乗り、外を見た時にトラックに近づく駐車監視員の姿を確認。慌てて戻ったものの、駐車違反を回避することはできなかった。

 道路交通法では運転手がそのクルマを離れていて、直ちに運転できない状態にあるものを放置車両とし、駐車違反の対象としている。

 同乗者が運転できる体制でいれば違反にはならないが、2人の配送体制にすれば人件費が2倍になってしまう。また、1日40~50件を回るため、1件ずつ配送先から離れた駐車場に停めるのは業務効率や採算性を考えると現実的ではないという。

 当初はダッシュボードの上に、配送先とすぐに戻る旨を書いた紙を置いていたが、“抑止効果”はほとんどなかったという。

 「大前提として駐車違反による交通事故を減らすことには協力したい。しかし、繁華街に酒類を届けるという業務内容からして、現実的には抜本的な対策を取るのが難しい」と渡邊社長は語る。

東京都トラック協会が緩和を要望

 駐車違反は運送会社にとって共通の悩みとも言える。

 東京都トラック協会が会員各社を対象に実施したアンケートでは、2014年に駐車違反の取り締まりを受けた企業は825社で、回答のあった企業の約半数だった。

 東京都トラック協会は「日常の集配業務に大きな支障を来す状態が続いている」として、東京都議会や警視庁などに営業用トラックに対する駐車規制の見直し、緩和を訴えてきた。しかし、状況はほとんど変わっていない。

 東京都の荒川区、世田谷区、杉並区、足立区の4地域の商店街連合会と、「駐車規制緩和区間」の設置などに関する協議会を開催したこともある。

 実際に、警視庁は荷さばき車両に配慮した駐車規制緩和区間などを設けている。しかし、運送会社からすると区間が限られており、根本的な解決には至っていない。

駐車場がないコンビニの納品も問題あり

 実は、コンビニエンスストアへの納品も駐車違反のリスクが高い。郊外や地方のように駐車場があるコンビニは問題がないが、都心部のコンビニには駐車場がない。

 店の前にトラックを停めて納品するケースが多いが、厳密にとらえれば、駐車違反の可能性がある。

 これまでは業務用の配送トラックや個人宅向けの宅配トラックが駐車違反で問題となってきた。今後はコンビニ向けがクローズアップされるかもしれない。

 駐車違反は重大事故の原因となるため、取り締まりは不可欠だ。駐車違反と物流の効率化をどのように両立すべきか。まだ、解は見出せていない。

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