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判例解説●さいたま地裁川越支部2010年3月4日判決
患者の同意なく雇用先に診療情報漏示は違法

2017/03/22
蒔田 覚=弁護士(仁邦法律事務所)

業務中にけがをして雇用先を訴えた患者が、雇用先に診療情報を漏洩したとして、かかりつけ医を訴えました。裁判では、裁判所からの求め以外に診療情報を提供したかかりつけ医の行為については違法と判断されました。

事件の概要

 患者は、A会社での業務中に他の従業員の落下させたプラスチック製の箱が頭部を直撃し、他院で治療を受けた。だが、吐き気、頸部痛などが回復しないため2002年9月13日にB診療所を受診し、C医師を主治医として頸椎捻挫、頭頸部症候群の通院治療を受けることとなった。

 相当期間治療しても症状が改善しないため、C医師は他院でMRI検査を受けるよう指示。患者は2003年10月31日に検査を受け、同日、MRI画像をB診療所に持参した。C医師はそれを読影し、症状の原因は加齢による頸椎ヘルニアと診断した。

 患者は2004年2月18日に帰省し、帰省先の病院で頸椎捻挫、頸椎症(末梢神経障害)と診断され、2005年4月22日、労災障害等級9級の認定を受けた。患者の帰省中にC医師はA会社の担当者と面談し、通院の継続の有無に関する情報を提供した。

 患者は、A会社を被告として、業務中の事故についての損害賠償を求めて提訴。裁判所は、A会社の申し立てにより、文書送付嘱託を実施。文書送付嘱託により取り寄せられたB診療所の診療記録が裁判の証拠として取り調べられた。

 その後、A会社は、C医師から患者のMRI画像の内容とそれに関する意見を聞き、症状の説明を受け、MRI画像の読影所見の詳細を記載した準備書面を裁判所に提出した。また、診療録の判読できない部分についてC医師に意味・内容を尋ね、診療録反訳を証拠として提出した。

 さらにC医師は、A会社が診療経過一覧表を作成するに当たり、改めて診療内容を説明したほか、A会社側で意見書を作成した。意見書には「患者の症状は頭頂部に物が当たったことで発症するとは考えられない」「MRIでは明らかな頸椎ヘルニアがみられた」「頸椎ヘルニアは加齢等による」などの記載がなされた。

 患者は、B診療所とC医師が事前承諾なく個人情報を漏示したこと、患者に不利な虚偽内容の意見書を作成したことなどにより、精神的苦痛を被ったとして提訴した。

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