沖縄県の主要産業の一つであるコールセンター事業が、急激な人材不足に直面している。 沖縄総合事務局の調査で、年間の離職率が4割にも達する現状が浮き彫りになった。 危機感を抱いた事務局は、県庁や事業者と協力し、早急に改善に取り組む方針だ。
[沖縄総合事務局 総務部長]山谷英之氏
1967年生まれ。91年に総務庁(現総務省および内閣府)入庁。公害紛争の解決を図る公害等調整委員会や、北方領土啓発、四島交流事業などを担う内閣府の北方対策本部参事官を経て、2015年10月から現職。
コールセンター産業危機の概要
沖縄の振興を図る沖縄総合事務局が、コールセンター事業の現状を調査した結果を2016年3月に発表。沖縄県の情報通信関連産業の雇用者の7割を占める主要事業でありながら、年間の離職率が4割にも達することが分かった。主要産業の先細りに危機感を抱いた事務局は、県内の関係者とともに状況改善に取り組む。
<b>沖縄県ではコールセンター事業を行う企業を積極的に誘致してきた。その結果、沖縄県の情報通信関連産業で働く人の7割を占める主要事業になっている</b>(写真=アフロ)
沖縄県ではコールセンター事業を行う企業を積極的に誘致してきた。その結果、沖縄県の情報通信関連産業で働く人の7割を占める主要事業になっている(写真=アフロ)

 あまり知られていないかもしれませんが、沖縄県のコールセンター産業には、県内情報通信関連産業の全雇用者の約70%に当たる1万7049人(76社、2015年1月現在)が働いています。

 これは全国に先駆けて、様々な施策を打ち出してきた成果です。1998年には「沖縄県マルチメディアアイランド構想」をまとめ、コールセンター誘致に取り組んできました。このほかにも、早い段階からコールセンター業界の組織化、若年者雇用促進、通信コスト低減化、人材育成を兼ねた雇用促進事業、独自の資格制度の導入などに注力してきました。

 そうした努力のかいあってか、沖縄県は福岡県や北海道を抑えてコールセンターの事業者数で全国一となり、国内屈指のコールセンター集積地となりました。事業者数はここ10年ほどで4倍、雇用者数も同じく4倍になっています。コールセンター事業は沖縄経済を支える重要な産業の一つになったと思います。

 しかしながら、ここ数年は気になる統計もありました。有効求人倍率がおよそ2倍に達していたことです。看護 (1.7倍)、保育(1.5倍)、介護(1.2倍)といった他業種に比べても高くなっています。

 求人倍率が高いということは、働きたいと考える人が少ないということ。県内産業における存在感が増す一方で、慢性的な人手不足になっているのではとの懸念を持っていました。

 そこで、離職の状況や、求職者と求人をする事業者間のミスマッチなどの現状を分析するため、広範囲に調査を実施したわけです。何が起こっているのかを正確に把握しないと、労働力の確保や定着率向上方策の検討すらできない、と考えたためです。

離職率調査の衝撃

 調査結果は楽観できないものでした。

 コールセンターで働く人の内訳は、雇用期間が1年以上の非正規社員が約4割、同1年未満が約3割、派遣社員やパートが約3割というものでしたが、いずれも年間の離職率が約4割とかなり高い数字になっていたのです。沖縄の振興を図ってきた内閣府沖縄総合事務局としても厳しい現状を直視しているところです。

 コールセンター事業者を対象にしたアンケートでも、離職率の高さを裏付ける内容になりました。コールセンターの人材を「常に確保できている」と回答した事業者は1社もなし。回答企業の半分以上は、「不足していることが多い」「常に不足している」状況に陥っていることが分かりました。

 離職の理由を探るため、求人者がコールセンターへ持つイメージも調べました。回答は、「クレーム対応でメンタル的に厳しい職場」「新人研修などがあまりない」「賃金が低い」など、総じてマイナスイメージを指摘するものばかりでした。

 新卒採用の窓口になる大学などの就職担当者に対しても同様の調査を実施したところ、「パートやアルバイトの仕事」「雇用形態が非正規のイメージ」など、こちらも同様にあまりよいものではありませんでした。

 求人者も窓口も負のイメージを抱えていては人材確保に苦戦するのは致し方ないとも言えます。コールセンターを運営する事業者へのヒアリングでは、中途採用はもちろん、新卒採用があまりできないということも判明しました。

 一連の調査の結果で突き付けられたのは、「コールセンター事業は、最初は新たな産業で魅力もあって人も集まったが、今は違う」という厳しい事実です。確かに、企業誘致も成功して産業規模自体は大きく拡大しました。しかし、人材を引き付け続ける魅力を産業として打ち出すことができていない。その結果、人材不足に陥っている、という結論にならざるを得ませんでした。

観光業と人材を融通し合う

 このままでは、せっかく育ててきた県内のコールセンター産業が先細りになってしまいます。県では今、何とか状況を打開しようと様々な施策を打ち出し始めています。

 現状の離職率が相当高いのは事実ですが、裏を返せば、コールセンターに従事した経験者は多いということでもあります。だとすれば、産業の魅力を高めれば、まだまだ挽回の余地があるはずです。

 対策の一つは、異業種と人材を融通し合うことです。コールセンター事業は忙しい時とそうでない時の差が激しい。一方、沖縄の観光産業の核であるホテルや飲食事業も繁閑の差が激しい。ちょうどこの異なる業種で人材が行き来できるようにして、雇用や賃金を安定させ、人材を確保するという手があります。この施策については、一部事業者が先行して実施しており、今のところ、うまくいっています。

 コールセンターに新事業を提案しバックアップすることも検討中です。コールセンターには様々な顧客の声が集まります。例えば、そうした顧客の要望を、商品開発やサービスの改善のための情報として、企業に提供するビジネスがあります。一連のデータを大量に集め、県内のビッグデータ解析ができるIT(情報技術)ベンダーと協業すれば、新たな収益源確保につながる可能性は少なくないと考えています。

 一方で、雇用環境を整備することも大切です。年齢や出産・子育てなどライフスタイルやライフステージに応じた雇用形態を作ることに加え、働きながら子育てできる託児所や保育所、学童施設、テレワーキング・サテライトオフィスなど、多くの人が働きやすい環境の充実に努めることも必要です。

 最後はイメージの改善です。今は、労働環境や福利厚生がしっかりしている事業者までも業界全体に対するマイナスイメージの影響を受け、人材確保に苦労しています。必要以上の負のイメージを払拭するために、学生や就職支援担当者を対象に職場見学やインターンシップを積極的に進めるようにしていきたいと思います。

 いずれにせよ、十数年、蓄積してきたインフラや人材のノウハウをこのまま埋もれさせてはいけません。県庁などの各自治体や、コールセンター事業者、ITベンダーなどあらゆる関係者と協力して、現状を打開できる体制を整えていくつもりです。

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