RFIDタグが貼り付けられた商品(2017年2月に行われたローソンとパナソニックの実証実験から)
RFIDタグが貼り付けられた商品(2017年2月に行われたローソンとパナソニックの実証実験から)

 4月18日、経済産業省が大手コンビニチェーン5社と共同で「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」を策定、公開した。大手コンビニチェーン5社のすべての取扱商品数を年間1000億点と推計し、商品のすべてにRFID(Radio Frequency Identification、無線自動識別)タグを貼りつける。そして、そこから得られた情報を活用して、サプライチェーン全般にまつわる作業を省力化し、「サプライチェーンに内在する様々な社会的な課題」を解決する取り組みだ。

サプライチェーン全般を管理

 「サプライチェーンに内在する様々な社会的な課題」とは、広くサプライチェーンを網羅して生じている、様々な問題を指している。中でも大きなものに、コンビニエンスストアの宿命でもある24時間営業に対応した、最低限の労働力の確保や、食品ロスの削減といった問題が挙げられる。

 コンビニエンスストア運営には、レジや商品補充、棚卸しといった人力による作業が不可欠だ。そういった一連の作業の一部を、RFIDタグで省力化する。絵空事ではなく、レジ業務では、既にローソンがパナソニックと共同で、実店舗における完全セルフレジとRFIDタグを使用した実証実験を行っている。実証実験の結果、従業員の作業軽減と同時に、客数と売り上げが向上する効果も報告されている。

 コンビニエンスストアにおける販売時点の省力化に加えて商品補充や棚卸しの段階においては、RFIDタグによって製品の所在を生産工場から物流プロセス、店舗における販売まで管理できるようになる。販売動向の的確な掌握によって、ムダな商品の製造を抑止し、ロスによる廃棄の削減にも活用可能だ。

 加えて、消費者の自宅内での生活に必要な備品管理まで広げれば、買い忘れや余計な買い物の防止にもつながる。消費者が購入する必要品すべてがインターネットにつながって情報となり、消費者にとっての利便性にとどまらず、事業者の意思決定に活用される仕組みだ。

仕組みが異なるアマゾンの仕組み

 昨年12月には米アマゾン・ドット・コムも同じような計画を発表した。この動画で紹介されている「Amazon Go」だ。全米2000か所で展開を予定する店舗では、スマートフォンのアプリと組み合わせてレジ作業の省力化が可能だ。しかし、店舗における代金決済の仕組みは、日本のコンビニ連合が使用するRFIDタグを使った技術とは、購入品認識の方法が大きく異なっている。アマゾンが採用したのは人の動作を画像認識し、人工知能で顧客が購入したかどうかを判断する仕組みだ。

 仕組みの違いは、通販会社としてアマゾンが扱う商品の種類が多く、また販売製品の調達ソースが全世界に広がっており、RFIDタグを貼りつけるような統一した規格をすべてのメーカーに強いるのは難しいからだと推察される。消費者ニーズがあり、売れるものを扱うために、メーカーへ課す制約はできるだけ少ない方が良い。アマゾンは商品を認識し自動的に販売できる仕組みを作るにあたって、RFIDタグを使わずに画像認識や人工知能の技術革新によって実現可能だと判断したのであろう。

 現時点で、日本のコンビニ連合とアマゾン、どちらの方式が優れているのかは不明だ。しかし、アマゾンの取り組みを踏まえて、大手コンビニチェーン5社のRFID方式を実用化する際、考慮すべき3つのポイントがある。

どんな企業も参加できる仕組みに

 1つ目のポイントは、この取り組みへの参入障壁をできるだけつくらず、オープンでハードルの低い仕組みにする点だ。アマゾンにはそもそもこのRFIDタグを商品に張りつける「障壁」が存在しない。この点では、RFIDタグ方式は遅れを取っているようにも見える。しかし、コンビニエンスストアの取扱商品は、生活必需品の多くを網羅している。将来的に総合スーパーや、他の小売店舗への展開も期待できる。大手コンビニチェーン5社と同様に、国内のさまざまな業態がこの仕組みを採用し、販売時点の人件費を削減した実績が広がれば、これから少子化による労働力不足が懸念される国々への仕組み自体の販売も期待できる。

 また、今後自動運転車やドローンによって、玄関先やベランダまでの戸別配送が実現すれば、商品の販売窓口としてコンビニエンスストアの存在も不要になる日が到来するかもしれない。現在の実店舗が不要になる事態を想定すると、このアイデアをいつまでもコンビニエンスストアに独占させておくことにもリスクがある。

サプライチェーン全体での活用法の創造

 2つ目のポイントは、コンビニエンスストア店舗運営の省力化にとどまらず、サプライチェーン全体で取り組む点だ。冒頭宣言の参考資料中の「RFIDの将来像とその波及効果例」では、収集した情報流通全体での活用例が示されている。現時点では、まだまだ技術面、システム面で解決すべき課題が山積みしており、様々な企業がもつノウハウを結集しなければ解決しない。

 例えば、日本が採用するRFIDタグを、1000億点にも及ぶ商品にどのように取りつけるのか。既に印刷だけでRFIDを製造する技術も開発されている。このページには、RFID運用上の注意がある。一例を挙げれば、アルミ蒸着を含めた金属面に張りつける場合、読み取りが困難になるという。冷凍食品の包装を工夫しアルミを使用しない方法か、それともRFIDの認識率を向上させるかはサプライチェーン全体で取り組む課題になるだろう。

ローソンとパナソニックの実証実験においてはRFIDタグの貼り付けを人手に頼っていた
ローソンとパナソニックの実証実験においてはRFIDタグの貼り付けを人手に頼っていた

スピード感でアマゾンを超越せよ!

 3つ目は、この仕組みの実現に、スピード感を持って取り組むことだ。冒頭の共同宣言では、2025年の実用化を目指しているとある。しかし、何とか2020年の東京オリンピックの開催までに実現できないだろうか。SuicaやPASMOといった交通系ICと連携して、海外からの旅行者が成田空港や羽田空港に降り立ってから出国までの、あらゆる場面でRFIDタグを活用した支払代金の決済を実現し、外貨から日本円への両替を不要にするのだ。来日したアスリートやオリンピックの観客にスマートな日本の社会システムをPRできる。

 経済産業省のサプライチェーンの将来像を見ても、RFIDタグを使用したシステムは、販売する製品のメーカー、物流業者、各コンビニチェーン、RFID技術の開発会社と、多岐にわたる企業が足並みをそろえて初めて実現する仕組みだ。また入手した情報も、各企業にとってはオープンにしたくない情報が含まれ、様々な調整が必要だと容易に想像がつく。しかし、そういった各企業の都合にとらわれている場合ではないのだ。今こそ「小異を捨てて大同に就く」精神でこの取り組みを実現させる、日本の総力の結集が必要だ。

 現時点では直接的な競合関係にはないものの、想定される相手はアマゾン1社である。アマゾンでも社内の部門間における調整の問題は存在するだろう。しかし、企業の内部の調整と、複数の企業をまとめる調整では、発生する手間も大きく異なってくる。ましてアマゾンのビジネス展開のスピード感は、これまでの取り組みで実証済みだ。コンビニエンスストアにとっても今後明確な競合企業としてアマゾンの存在が顕在化する可能性も高い。

 もしアマゾンが展開するAmazon Goが日本国内でオリンピックまでにオープンしたら、そのインパクトはかなり大きい。グローバルマーケットにおける小売店の代金決済の仕組みを押さえられてしまう可能性もある。アマゾンより先に、それも2020年までにこのアイデアの実用化を官民一体となって実現できたら、それはビジネス界において金メダルのような、日本社会に貢献する仕組みになるはずなのだ。

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