主要国の政治体制が揺れ動く中、安定した政権運営を続ける安倍晋三首相。一層の長期政権を視野に、人手不足への対応や憲法改正論議など先を見据えた課題設定を仕込みつつある。本誌の独占インタビューに応じ、今後の経済政策などの見取り図を語った。

(聞き手は 本誌編集長 東 昌樹)

(写真:的野 弘路、以下同)
(写真:的野 弘路、以下同)

企業業績が上向き、景気拡大局面が続いています。ただ日本発のイノベーション(技術革新)の停滞や人手不足など成長阻害要因も顕在化しています。6月にまとめる新成長戦略ではどのような政策を柱に据えますか。

安倍首相:働きたい人が働けるという状況を作っていく。雇用を作り、収入が増える環境を作っていく。それが政府に課せられた使命だと思っています。この2年間で正規雇用が約80万人増え、すべての都道府県で有効求人倍率が1倍を超えました。労働市場がタイトになり、今年3月の完全失業率は2.8%。需給を反映し、賃金がこれから上がりやすくなる状況になってきたと言えます。

「ソサエティー5.0」の実現へ

 一方で、人手不足は経済成長の足かせになりつつあります。そこで、AI(人工知能)やあらゆるモノがネットにつながるIoT、ビッグデータを活用して少子高齢化を乗り越える構想『ソサエティー5.0』を実現していきたいと考えています。

 例えば、医療や介護でデータを活用して、予防や健康管理に軸足を移していきたい。またオンライン診療などの遠隔医療について、2018年度の診療報酬改定でしっかり評価していく考えです。人手不足の解消につながる介護ロボットや見守りセンサーの導入も介護報酬や人員配置基準で後押ししていくつもりです。

 イノベーションに力を入れ、AIなどの活用を進めていく中で生産性を上げていきます。それによって人手不足を上回る成長を実現していきたい。例えば自動走行については17年度から公道での実証を本格化します。トラックの無人隊列走行は20年代前半の事業化を目標にし、人手不足による物流危機の克服を目指します。

憲法改正に向け20年という施行目標や9条の1項、2項を維持した上で自衛隊に関する規定を加える方針を表明されました。この時期に提案した狙いを説明してください。

安倍首相:憲法の施行から70年になりますが、この間に世界の情勢も人々の暮らしも社会のあり方も大きく変わりました。国民主権、基本的人権の尊重、平和主義は普遍的なもので、これを変えることはない。ただ憲法は国の未来や理想の姿を語るものであり、我が国でも必要な改正を行うことは当然のことと考えています。

 自民党は結党以来、憲法改正を党是としてきたと言ってもいい。70年の節目を迎え、議論を深め、収れんさせていく時期がきているのではないか。こうした観点から自民党総裁として発言したものです。憲法改正は厳格な手続きが必要。私の問題提起は憲法改正に関する国会での議論がさらに活性化し、国民的議論が深まっていくことを期待したものであります。第一党として自民党は議論をリードしていく責任があります。私も党首としてリーダーシップを発揮していく考えであります。

自衛隊、憲法上の位置づけ必要

 自衛隊に関しては憲法上の位置づけがなされていません。政府は一貫して合憲としてきていますし、国民のほとんどが信頼を寄せていますが、多くの憲法学者は憲法違反と言っています。ほとんどの教科書には憲法違反との記述がある。命を懸けて頑張っている自衛隊員の子どもたちがそうした教科書で学ぶ状況が続いています。これをそのままにしていいのか、と自民党総裁として、あるいは立法府の一員として思いを持っています。

戦力不保持を定めた2項をそのまま残し、自衛隊に関する規定を加えるのは矛盾があるとの指摘もありますが。

安倍首相:そういう方はそもそも自衛隊が違憲という立場に立っておられると思います。政府は一貫して1項、2項があっても自衛隊は合憲との政府見解を示しています。書き込むことは全く問題ないと思います。

自民党の改正原案は年内の取りまとめを想定しているのですか。

安倍首相:党に任せていますが、総裁としてのメッセージを受け止めてさっそく作業に入っていただきたい。憲法改正推進本部の保岡興治本部長が『年内』と意欲ある発言をされていますし、年内にまとめていただければ。

学校法人「加計学園」(岡山市)の獣医学部新設計画を巡り、野党が安倍首相の意向や官僚の忖度が働いたと批判しています。

安倍首相:(この件のような)個別案件ではなく岩盤規制改革を全体としてスピード感を持って進めるよう指示を出してきたところです。(便宜を図るよう)全く指示したことはないし、内閣府もそうした発言は一切していない。厳正なプロセスによって決定がなされたと思っています。

インタビューの全文は日経ビジネス5月29日号に掲載します。

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