「AI(Artificial Intelligence)」と聞いて、あなたはどんな感情を抱くだろうか。人々の生活を豊かにする究極のコンピューターとして歓迎するか。人間の雇用を脅かすロボットとして身構えるか。そもそも「人工知能」と訳されることが多いAIについて、「よく分からない」と答える人も多いのではないか。

 経営共創基盤(IGPI)の代表取締役CEO(最高経営責任者)である冨山和彦氏は、「AI革命によって、日本企業に千載一遇のチャンスが到来する」と断言する。もちろん「AIをうまく経営に取り入れれば…」という条件が付くが、ITの導入で米国などに後塵を拝してきた日本が本当にAI時代に世界をリードできるのだろうか。AIが日本企業の経営、そして日本人の働き方に与える影響を、冨山氏に尋ねた。

(聞き手は坂田 亮太郎)

 私はAI(人工知能)が普及すると、人の雇用を奪うんじゃないかという考えを持っています。冨山さんは最近上梓された書籍の中で、AIの誕生は日本の企業にはむしろチャンスが広がると書かれています。

冨山:AIの効果が一番効く聞くところって自動化なんですよ。ロボティクスもそうだし、自動運転もそうだし、だいたいみんな自動化なんですね。

<b>冨山一彦(とやま・かずひこ)氏</b><br />ボストンコンサルティンググループ(BCG)、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、2003年に産業再生機構設立時に参画しCOOに就任。解散後、経営共創基盤(IGPI)を設立、代表取締役CEOに就任(現職)。オムロン社外取締役、ぴあ社外取締役、パナソニック社外取締役なども兼ねる。経済同友会副代表幹事。財務省財政制度等審議会委員、内閣府税制調査会特別委員、内閣官房まち・ひと・しごと創生会議有識者、内閣府総合科学技術・イノベーション会議基本計画専門調査会委員、金融庁スチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議委員、経済産業省産業構造審議会新産業構造部会委員なども務める。近著に、『なぜローカル経済から日本は甦るのか GとLの経済成長戦略』『選択と捨象』『決定版 これがガバナンス経営だ!』など多数。3月末に<a href="http://amzn.to/2pS1QqL" target="_blank">『AI経営で会社は甦る』</a>(文芸春秋)を上梓した(写真:北山 宏一、以下同)
冨山一彦(とやま・かずひこ)氏
ボストンコンサルティンググループ(BCG)、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、2003年に産業再生機構設立時に参画しCOOに就任。解散後、経営共創基盤(IGPI)を設立、代表取締役CEOに就任(現職)。オムロン社外取締役、ぴあ社外取締役、パナソニック社外取締役なども兼ねる。経済同友会副代表幹事。財務省財政制度等審議会委員、内閣府税制調査会特別委員、内閣官房まち・ひと・しごと創生会議有識者、内閣府総合科学技術・イノベーション会議基本計画専門調査会委員、金融庁スチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議委員、経済産業省産業構造審議会新産業構造部会委員なども務める。近著に、『なぜローカル経済から日本は甦るのか GとLの経済成長戦略』『選択と捨象』『決定版 これがガバナンス経営だ!』など多数。3月末に『AI経営で会社は甦る』(文芸春秋)を上梓した(写真:北山 宏一、以下同)

冨山:AIの誕生によって自動化できる範囲がものすごく広がる。従来の自動化の限界というのは、決まりきったことをあらかじめプログラミングして、その仕組みで動かすということしかロボットはできなかった。ところが、今出てきているAIというのは、ディープラーニングという、機械学習能力を持つAIなので、かなりいろいろな状況に対応できるようにはなってきているんですね。

 そうすると、人手不足に対して自動化は有効な対応策となるので、かなりいろいろな分野でAIが使えるようになります。短期的にはそれって人の仕事を奪うことになるでしょう。

失業率が低い日本はAIの導入に最適

 やはりAIは雇用を奪うと…

冨山:今ある労働集約的な、一番雇用を吸収しやすい労働集約的な仕事を奪っていくことになるので、もともと人手が余っている社会においてはすごく軋轢を受けるわけです。

 例えば欧州では若年を中心に高い失業率が社会問題となっています。そういう国々でAIなんか導入したら、「オレたちの仕事はもっと奪われる」と非常にヒステリックな拒絶反応が起きるでしょう。日本以外の国ではだいたい、人手が余っているわけですから。

 確かに。

冨山:過去の歴史を見ると、新しい技術が生まれると長期的には必ず、そこから新しい仕事が生まれてきます。過渡期には摩擦的なストレスは生じます。それは政治的なストレスになるし、それが今世界中で巻き起こっているようなポピュリズムとか、わりと危ない政治的なムーブメントにつながってきた過去があります。だからこそ、AIを社会に導入するプロセスは相当慎重にやらないといけません。

 ところが日本は人手不足が深刻になっていますよね。あらゆる業界で、労働力が不足しています。

 原因は少子高齢化が大きい。出生率が2を超える状況が20年か30年続かない限り、日本の人手不足は解消しない。現実は1.4とか1.5をうろうろしている状態ですから、今生きている人が、少なくとも元気なうちは間違いなく人手不足が続く。だから、日本に限って言えば、「AIが雇用を脅かす」ということはあまり気にしなくていい。

 日本で労働力が不足しているもう1つの原因は、移民をほとんど受け入れてこなかったこともあります。

 少子高齢化にしろ、移民問題にしろ、これまでは割とネガティブな要素と捉えられてきましたよね。人口や労働力が減っていっちゃうわけだから。「人口=市場」が小さくなることは経済にとって良いことではないし、国際化に遅れたことも日本にとって良くないと言われてきました。

 だけど今の新しいAIフェーズ、ディープラーニングを中心としたいろいろなイノベーションが起きている世の中においては、環境論的に言うとやっぱり人手が足りない社会の方が有利なわけです。

 だから日本は欧米から2周、3周遅れていると思っていたら、気が付いたらくるっと回って、ひょっとしたら日本はAI時代に先頭に立てるかもしれない。

AIはデジタル革命の第三フェーズ

 そうは言っても、黙って見ているだけでは、AIの活用は進みませんよね。

冨山:もちろん楽観はできません。先ほど申し上げた通り、AIによって幅広い分野で自動化技術が進展していくでしょう。産業論的に言えば、これもやっぱりデジタル革命の1つなんですよね。新しいフェーズの始まりと言っていい。

 デジタル革命の第一フェーズは、コンピューターのダウンサイジングと水平分業革命の時代です。メインフレーム時代の圧倒的な覇者であったIBMが潰れかけ、コンピューターメーカーとしてのIBMは姿を消し、今はサービスを提供する会社に生まれ変わった。代わりに台頭してきたのはパソコンの基本ソフト(OS)を制したマイクロソフト「ウィンドウズ」とハードを制したインテルです。

 IBMからすれば、マイクロソフトやインテルはもともと下請けだったわけです。だけど、産業構造が水平分業化した結果、いち早く業界標準となった基本OSとCPUを提供する「ウィンテル」がコンピューター業界を支配するようになりました。

 デジタル革命の第二フェーズは1990年代以降のユビキタス革命です。インターネットとモバイル通信が発達した結果、いつでもどこでも情報にアクセスできるようになった。通信手段が固定電話から携帯電話そしてスマートフォンと移り変わって行く中で、まず通信機器やオーディオ&ビジュアルの分野で主役の交代が起きました。

 当時、オーディオ&ビジュアルの分野でチャンピオンはソニーやパナソニック、そしてパイオニアなどの日本の電機メーカーです。それが「iPod」をひっさげてアップルが殴り込みをかけてきました。アップルは第一フェーズでウィンテルに駆逐されかかったわけですが、パソコンとはまったく違う事業ドメインで革命的な復活を遂げました。

 デジタル革命によって産業構造がガラッと変わる。そうするとビジネスモデルが変わるので、そこで活躍する企業の顔ぶれも大きく変わってしまうのです。グーグルやフェイスブックなんか、ちょっと前まで影も形もなかった連中が今やメガプラットフォーマーとして世界に君臨しています。

 グーグルの創業は1998年、フェイスブックは2004年の誕生です。

冨山:そのデジタル革命の大波が、今度は自動車やサービス産業、そして農業などこれまでデジタルとは遠かった分野まで覆い尽くそうとしています。あらゆるモノがインターネットにつながるIoTとAI技術の急速な進化によって、デジタル革命がリアルでシリアスな世界にしみ出して、破壊的な影響を及ぼす。それが、まさに今起きているデジタル革命の第三フェーズです。

 産業構造論的に言えば、いわゆるスマイルカーブ現象が起きる。要は川上のコンポーネントとかキーコンポーネント、キー材料を握っている会社と、川下側のお客さんのプラットフォームを持っている会社の利益率は高い。一方で、従来の日本企業が得意としてきた組み立て系の仕事は厳しい。そういう現象が過去、毎回起きています。

 今のところ自動車を含め機械工業系の産業はまだ食えてきた。ところがここがガラッと変わっちゃったとき、うっかりしていると一番儲からないゾーンに居続けることになる。

 となると、産業界もちゃんとスマイルカーブ化についていかないといけない。必然的に今のビジネスモデルとかビジネスポートフォリオ、ビジネスのポートフォリオと機能のポートフォリオをかなりシャッフルしないと、儲かる方に行けないですよね。

AI時代になると、働く人はプロ化する

 企業で働く人はどう変わるべきでしょうか。

冨山:AIは当然、人々の働き方にも影響を与えます。デジタル革命が及ぶということは、結果的に当該産業においてどうしてもソフト融合型になる。従来よりもソフトの比重が重くなるんですよ、必ず。かつ、仕事の中身についても標準化が進んでいくので、ある種の分業化が起きちゃう。

 それって従来の日本型の企業モデルとか働き方モデルとあまり相性よくないんですよ。日本企業は本質的に、会社という閉じた組織の中で囲い込んで、長年熟成させるすり合わせの技術を得意としてきましたから。

 だから日本の企業は、このクローズな部分とオープンな部分をちゃんとバランスを取らなくちゃならない。社会経済システムの中で、リバランスしないとだめです。

 仕事が分業化していくと、具体的に働き方はどう変わるんですか。

冨山:AI時代になれば、すべての働く人がある種プロ化していくでしょう。プロ化した働き手がプロジェクトごとに働く場所を変えていくようになる。プロジェクトごとに、ワンポイント、ワンポイントで変わっていく。

 例えばプロ野球。江夏(豊選手)の頃だったらチームを変えるのは「衝撃のトレード」と騒がれたけど、今の大谷(翔平選手、北海道日本ハムファイターズ所属)がたとえ海外のチームにトレードされても誰も驚かないですよね。ああ、やっぱり行くんだと。だって、プロフェッショナルの世界では、チームを移っていくのは当たり前なわけだから。

 要するにオープンな仕組みの中でプロは動いていく。自分がやりたいテーマがどこにあるかによって、あるときはパナソニックで働くし、またあるときはソニーへ。あるいはベンチャーでやりたい仕事があれば、ベンチャーに行くでしょう。そういう風に、個に帰属する知識で戦っていく人たちは、よりフリーランス化します。そしてそういう人たちは、活躍する場所を自ら広げていける。

 今、企業の中で働いている人はどうすればいいんですか。全員がプロ化できるとは思えません。

冨山:これまで、プロじゃない仕組みで長年やってきちゃった人は、個人の戦略としては、旧態依然とした仕組みの中で一番長持ちしそうな会社に帰属するのが一番安全でしょうね。グローバル競争にさらされていない産業にしがみつくということですね、分かりやすく言ってしまうと。

 先行きは短いかもしれないけど、自分が定年するまでは何とか生き残るということです。

 個人の生き方として、それが悪いということではありません。実際、グローバル競争にさらされてない大企業もいっぱいありますから。電力会社とか、鉄道会社とか。あるいはコンビニ業界なんかもそうかもしれないですね、ある意味では。ローカル産業系の比較的大きな会社で、とにかく頑張ってしがみつく。

 もう1つの道は、とにかくもう1回ここで真剣に勉強し直して、プロとして生きていくための再挑戦をしていくということでしょうね。ただ、これは相当…

 ハードルは高いですね。

冨山:歳をとっているほど、ハードルは高くなります。やっぱり歳をとればとるほど再学習の効率は下がるので。若いときだったらあっという間に覚えられることも、歳を取れば苦労する。

 ただ、自分は新しいことを始めるんだと、腹をくくれちゃうんであれば活躍する場所はいくらでもありますよ。自分が頑張って習得した分野で頑張るというのもあるし、あとはマネジメントで頑張りたいというのであれば、例えば東京の大企業で働いている人なら、それこそ地方に行けばいくらでも経営人材を欲しているので、そういうところで活躍するというのも全然、ありです。

 あとは気持ちの問題ですか。オレは東京から地方に都落ちしたと…

冨山:東京の中でも都落ちしちゃっているわけでしょう。大企業の中でラインから外されたってことは、「社内都落ち状態」なわけだから。日本の大企業って今、40代ぐらいからすごい勢いでセレクションが起きちゃって、50歳を過ぎたら、大半の人は終わっていますから。

 私の同期生だってそうですよ。サラリーマン人生はもう、95%ぐらい終わっています。栄光の筑駒(筑波大学附属駒場中学校・高等学校)・東大コースを歩んだエリートでさえそんなものですから。普通の世界は、もっと厳しいんじゃないですか。

 だから、社内都落ち状態でいいのか、地方で輝いた方がいいのか。どっちがいいかは、個人で決めるしかありません。

 やっぱり、覚悟の問題だと。

冨山:そうじゃないですか。結局、主体的に人生を考えざるを得ないということなんですよ。

 終身雇用で会社側が社員のキャリアを保証できる領域は、これまでもどんどん縮まってきたけれど、AI革命が起きるともっと縮まります。これが広がるということは絶対にない。さらに縮む。デジタル革命にみんな巻き込まれるわけだから、もっと縮んでいくわけですよ。

 繰り返しになりますが、大組織の中で同じようなことを営々と繰り返すタイプの仕事は、AIにどんどんと置き換わってしまうでしょう。だから典型的な中間管理職って、一番必要なくなる。

 役員になる、ならないという話も、他律的基準で決めているわけじゃないですか。だから本当の自分がやりたいことが役員になることじゃなければ、役員になることを拒否したっていいわけですよ。あるいは新聞社だったら、ずっと記者をやっていたいと考える人もいるわけでしょう。デスクになって内勤になって、だいたいああいうところはみんな偉くなると社内ポリティクスが仕事になっちゃうので、新聞社の社員って。

 よくご存じで…(笑)。

冨山:本当に記者で書いていたいんであれば、むしろ偉くなることを拒否した方がいいんですよ。だけど、得てして世間体というか、他者的評価というのを気にすると、偉くなる方を選んじゃうわけですよね。

 ただ、昔であればいわゆる出世ルートを選んでおけばそれなりに会社は報いることができたんだけど、会社はそんな余力をどんどん失ってきている。たとえ大企業に就職できたとしても、そういった古典的モデルで幸福にできる人の数は絶対に減るんですよ。そもそも日本の全体の勤労者のうち、大企業のゆりかごの中で仕事ができている人は今でも2割しかいませんから。20年後には、これが1割ぐらいになっている可能性が高い。

 視点を変えて、子供やこれから社会に出ていく若い世代には、AIはどんな影響を与えますか。

冨山:AIが確実に人間を凌駕する領域があります。例えば、人間とクルマを比べたら、走るスピードは断然、クルマの方が速いですよね。これは、人間の足が遅いから自動車が発明された。

 同じことがAIでも起きます。人間の脳の働きの中で人間が得意じゃないことは何ですかということを考えた方がいいですね。その文脈で言うと、人がコンピューターに絶対に勝てないことが既にいくつかある。例えば計算能力に関して、我々人間は数十年前から電卓に負けています。

 要は、答えが一義的に定まるものと答えの出し方が決まっているものについて、より正確に、よりスピーディーに、そしてより大量に処理をする能力で、人間は絶対にAI、というかITに勝てません。ですから、そのような類いの仕事は、遅かれ早かれ、なくなっていくでしょう。

 そう考えると、教育のあり方も抜本的に見直さなきゃならないですよね。例えば計算なんて、ほとんど意味がなくなるわけです。日本の大学入試ぐらいじゃないですかね、電卓の持ち込みを禁止しているのは。世界で一番遅れていると思いますよ。

 計算のメカニズムを覚えることは大事なんですよ。電卓が何をやっているかということを知ることは大事です。だけどそれを人間が速くやる必要はないんです。一個数百円の電卓が人より明らかに速く、正確にやってくれるんですから。未来永劫、使う必要もないスキルを身に付けてもしょうがないのです。

AIは人をサポートする役割しかできない

 子供を持つ親としては不安になります。

冨山:逆に言うと、機械は何が苦手かということを考えることが大事です。今のコンピューターに考える能力はありません。現状では少なくとも、検索マシーンに過ぎない。

 当面は、ずっとそうです。人工知能とか呼ばれてはいますが、結局あれは全部ルールベースの処理をしているだけです。あるルールに当てはめたら、右に行く、左に行くという処理をしているだけ。厳密な意味で、ものを考えているわけではない。

 現状のディープラーニングだって同じです。ルールを自分で発見する能力を身に付けているというだけであって、ディープラーニングを使って開発されたAIというのは、引き続きルールベースで物事を、情報を処理していくだけの話です。自分でものを考えているわけではありません。考える能力は彼らにはないのです。その一番端的に表れるのは、問題設定能力がないことです。

 どういうことですか。

冨山:例えば、人を殺すのが正しいか、正しくないかということは彼らには判断できないのです。人を殺すのは正しくないから、どうやったら人が死ななくてすむのかという問題設定がコンピューターにはできません。

 問題設定は人間がする。そこまで条件を整えてやれば、そこから先はAIがものすごいスピードでやってくれる。例えば交通事故をどう減らすかというテーマの場合、過去の交通事故のデータをAIにたくさん読み込ませます。すると交通事故を回避するようなルールを発見させることができる。でも、交通事故を増やすルールを発見させることだってできる。要は、人間様がお題を設定しなければ、マシーンは何もできないということです。

 あくまでもAIは人をサポートする役割にしかならないということですか。

冨山:それは絶対に超えないですよ。最近、人間のような知性を持つ「汎用AI」の開発に注目が集まっていますが、今の技術では難しい。今のところ、できる見込みはまったくないと言っていいでしょう。

 AIが人間の能力を超える「シンギュラリティー(技術的特異点)」とかよく言われますけど、心配しなくていいと。

冨山:シンギュラリティーと言っているものが、いわゆる汎用AI的な話だとすれば、あまり心配する必要はありません。でもあれ、ほとんどの議論は、よく読むと、ルールベースのやつが置き換わると書いてあるんですよ。

 結局、囲碁や将棋でAIが人間に勝ったという話は、計算テストの延長戦上のことなんですよ。ルールが決まっている勝負で、人間がコンピューターや機械に勝てるわけがない。400メートル走るのに人よりクルマの方が速いことに驚くやつはいないわけで、それと同じで将棋でAIが人に勝つのは当たり前。私から言わせれば、何で世間はそんなに驚くんだろうと。驚いていることに私は驚いているんですけど。

 外国語も学ぶ必要がなくなっちゃうのでしょうか。

冨山:外国語も、下手をすると必要なくなってきます。近い将来、スマートフォンを介して、目の前の外国人と意思疎通することができるようになるでしょう。

 もちろん英語ベースでディスカッションするとか、お互いに議論しながらクリエーティブな仕事をするときに日本語で済むかというとちょっと問題があるでしょうね。要は考える英語能力が求められるので、日本語で考えたことをそのまま英語で考える世界で勝負できるかというと、クエスチョンなんです。言葉によって思考は違うので。ただ、それを求められるのはたぶん、日本人の中で1%でしょうね。

 そう考えると、今の若い世代はかわいそうですね。今の日本はシルバー民主主義が蔓延っていて、社会保障制度を含め高齢者が優遇される社会構造になっています。企業組織だって結局、既得権益を持っている人が優遇される。

冨山:今の若い子はたぶん、既得権益者になれないですよ。繰り返しになりますが、伝統的既得権益的なお仕事はAIに取られちゃいますから、それを期待しない方がいいですね。だから人間として何を磨くかということを考えていく必要があります。

 ただ、AI時代となれば、年齢にかかわらず、常に学び続けるマインドは必要になってきます。プロとして生きていくということは、常に自分のスキルセットをアップデートしていかなければなりません。プロフェッショナルなスキルって常に時代とともに先へ進んでしまうわけなので。だから、「あの頃は良かった系」の人は、生きていくのが厳しくなるでしょうね。

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