日本の発展に貢献した高齢者世代に敬意を払いたいと思う現役世代がいる一方、年金や医療で恵まれてきた高齢者に不満を抱く現役世代もいる(イラスト:浅賀 行雄)
日本の発展に貢献した高齢者世代に敬意を払いたいと思う現役世代がいる一方、年金や医療で恵まれてきた高齢者に不満を抱く現役世代もいる(イラスト:浅賀 行雄)

 「しわ寄せは若い世代に」──。日経ビジネス5月1日号の特集「さらば老害ニッポン」では、20代から70歳以上を対象に「世代間の公平性に関する意識調査」を実施した。若い世代ほど、高齢者の待遇に不満を抱えていることが鮮明に数字に表れた。

調査概要

「世代間の公平性に関する意識調査」と題し、2017年3月30日~4月7日にかけ、日経BPコンサルティングを通じてインターネットで調査した。有効回答数は961。世代別では20代が100人、30代が160人、40代が122人、50代が188人、60代が171人、70歳以上が220人、回答した。

優遇されすぎ!高齢者

Q.公的制度は高齢者を優遇しすぎか?
Q.公的制度は高齢者を優遇しすぎか?
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 年金や医療、介護保険制度について「高齢者を優遇しすぎか」とストレートに尋ねたところ、最も不満を持つ割合が高かったのは30代。82.5%が「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答した。20代でも約8割、40代でも約7割が不満を抱いている。

 全体では「高齢者の年金などを賄うための借金のツケを若い世代が負っている」(70.3%)が一番多く、「高齢者がもらえる年金額が今の若い世代が受給年齢に達した時より多い」(58%)と続く。

 

 70歳以上は5割が肯定したものの、「そう思わない」「どちらかといえばそう思わない」の合計は49.6%と拮抗した。そう思わない理由は「日本の発展を築いたのは今の高齢者だから」(57.3%)、「若者もいずれ現行の社会保障制度の恩恵を受けるから」(27.9%)が多かった。

「そう思う」派のコメント
 「交通費や医療費、年金など一事が万事、高齢者優遇」(28歳女性)
 「高度経済成長期に得た多額の資産をため込み経済を停滞させている」(33歳男性)
 「今の日本に貢献したのは理解するが、現役世代が苦しいと社会が衰退する」(55歳女性)
 「自分達の世代では支給すら見込めず、将来の備えをしたくてもできないから」(37歳女性)
 「働けるのに年金を出す事自体が不公平であるから」(30歳男性)

「そう思わない」派のコメント
 「年に比例して社会に貢献してきた」(73歳男性)
 「私達はずっと働き社会を構成し支えてきた。そこインフラにあるからこそ若者が自由に生きられている。年金も十分払ってきた」(62歳女性)
 「高齢者が優遇されなければ将来が不安になるだけだから」(62歳男性)
 「高齢者を優遇しているのではなく若者が冷遇されているだけ」(55歳男性)
 「高齢者である自分自身、優遇され過ぎていると思ったことはない」(68歳男性)

世代間不平等は「自業自得」?

Q.2高齢者の政治に対する発言力は大きすぎるか?
Q.2高齢者の政治に対する発言力は大きすぎるか?
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 「世代間不公平」が是正されない要因は、高齢者の声が大きすぎること。所得の低い年金生活者を対象に3万円をばらまいた2016年の「臨時給付金」は大票田の高齢者におもねる政策そのものだ。

 65歳以上の人口は、16年時点で20代の2.8倍。もともと数が多いうえに、投票率も若い世代より高齢者層は高い。選挙への意思を聞いた設問では「必ず行く」と答えた割合は、70歳以上が80.9%で、最も少なかった30代は47.5%だった。いかないのは「自分の利益を代表してくれる政治家・政党がない」(41.7%)のが最大の理由だった。

 働き盛りの30~40代は休日に選挙に行く体力・気力がないのかもしれない。だが「現状に満足している若者が多いことの表れで、この状況を克服する必要はない」(42歳男性)、「投票しない若者の自業自得」(49歳男性)との冷静な意見も寄せられた。ただ、若い世代とみられる回答者からは「私と同世代など比較的若い人の投票率が低いという理由だけで、高齢者への社会保障が手厚くなるのは腑に落ちない」(女性)との反論もあった。

数で勝る高齢者に対抗するには・・・

出所:総務省
出所:総務省

Q. 高齢者の発言力が大きすぎる現状をどうしたらいいか(自由回答)

 「プラスの一票だけでなく、マイナスの一票を投じられるようにする。『こいつだけは再選してほしくない』という意見を反映できる」(48歳男性)
 「当選者の若者枠を作る」(35歳女性)
 「選挙権に定年を設けても良いのでは?」(48歳男性)
 「親に子供の数だけ投票権を増やす」(58歳男性)
 「悪いことだとは思わない。投票に行かない若い世代の問題だと思う」
 「いっそのこと、年金受給開始と同時に選挙権をなくしてみれば?」(35歳女性)
 「選挙区を地域ではなく世代で区切るか、若年枠(例えば40代以下など)を設ける」(33歳)

「先のない高齢者に使うなら未来に投資を」(30歳男性)

Q. 幼児教育から大学など高等教育までの 「教育費の無償化」に賛成か?
Q. 幼児教育から大学など高等教育までの 「教育費の無償化」に賛成か?
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 現役世代が享受できる代表的な社会保障として検討されているのが、教育費の無償化だ。子育て真っ盛りの30代は75.1%が賛成。一方、70歳以上は賛成が46.8%、反対が53.2%に上った

「賛成」派のコメント
 「先のない高齢者に使うなら、未来に投資した方がいい」(30歳男性)
 「子供は日本の将来を支える大切な存在。みんなで育てるという意識を持つべき」(36歳女性)
 「子供の貧困が顕在化する中、学習機会の均等確保が社会の活力になる」(58歳男性)
 「人口ピラミッドを三角に戻す政策の一つになる」(26歳女性)
 「能力がある人に教育を受ける権利がないのは将来において損失」(50歳男性)

「反対」派のコメント
 「個々人の選択である高等教育まで無償化の対象とするのはおかしい」(25歳男性)
 「大学に行く学力のない人まで無償で行かせても意味がない。優秀な学生への奨学金を充実させるべきだ」(35歳女性)
 「ブルーカラーの待遇改善を戦略的に進め、社会的地位を高めることの方が重要」(70歳男性)
 「一定の学力を有しない人間に大学教育は必要ない」(41歳男性)
 「高等教育にはきちんと対価を支払うべき。払えないのであれば借りるか稼いでから学ぶべき」(42歳男性)
 「残念ながらトップレベルの教育には莫大なお金がかかる。そしてそれらを無償化できるだけの財源は、日本にはもうないと思う」(30歳男性)
 「大学のさらなる質の低下を招きそう」(54歳男性)

不満と不安がたまる若い世代

Q. 現在の経済・社会的な境遇で 最も恵まれているのはどの世代か?
Q. 現在の経済・社会的な境遇で 最も恵まれているのはどの世代か?
(注:全世代の平均値)
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 最も恵まれていると思われている世代は断トツで70歳以上だった。これはすべての世代で共通。背景には、「高齢者でも収入や資産に応じて負担を増やすべきだ。このままでは、制度自体が破綻する」(66歳男性)、「余裕のある高齢者もたくさんいる」(51歳男性)など、社会保障で支えなくても生活できる高齢者の存在がある。高齢者からも「確かに若い世代は大変だと思う」(73歳男性)との声が上がる。
   実際、総務省の家計調査(2015年)によると、世帯主が70歳以上の世帯当たりの貯蓄は平均2389万円、60代は2402万円。50代の1751万円、40代の1024万円、40歳未満の608万円を大幅に上回る。しかも、40代以下は住宅ローンなどを抱えており、負債が貯蓄を上回っている。

老後の不安、もらえない年金へのジレンマ・・・

 調査では、社会保障制度全般について自由な意見も募った。有効回答数の半分以上の約500人から、自分の老後への不安や制度改正の提案など、様々な意見が寄せられた。一部を抜粋する。

20代
 「年金を払っていても自分はいくらもらえるのかわからず不安で仕方ないうえ、社会保険料は年々上がってきており、なかなか貯蓄に回せるお金がない。保険料も20代や30代はあまり病院にかかっていないと思うので健康保険料を安くしてほしい」(29歳女性)
 「自分が高齢者になる頃はどれほど悲惨になっているのか、恐ろしく思う」(25歳女性)
 「人口が増え続けていた頃からの制度のまま運用されており、今の社会での有効性を失っている」(27歳男性)

30代
 「同年代の間で、年金はもらえないもの、というのは合言葉になっている。年金は考えずに投資・運用をしないといけない意識があるので、贅沢をしていられない」(30歳女性)
 「体調不良で病院(特に整形外科)に行くと、必ず井戸端会議のお年寄り軍団に出くわす。絶対に必要な人だけ行っているようには見えず、子育て世代の貴重な財源が削られているかと思うとやるせない」(35歳女性)

40代
 「終身雇用制度はほぼ崩壊しており、収入を得られなくなるリスクは今の高齢者の時代よりもずっと高い。現在年金を払っている人には確実にそれに見合った年金や社会保障が得られる仕組みを継続し、真面目に働き、年金を支払っている人が馬鹿を見ないことを祈っている」(41歳男性)
 「払った額に対して受け取る額がマイナスになることがわかっていながら納めなければいけないというジレンマは、いつも感じている」(43歳女性)

50代
 「65歳からを高齢者として制度が作られていますが、これを75歳からに変えてもよいのではないでしょうか?」(59歳男性)

「年寄りも就職、待遇などできちんと評価を」(62歳女性)

60代
 「高齢者でも収入および資産の保有状況に応じて負担を現行より増加させるべき。現在のままでは、社会保障制度自体が破たんする」(66歳男性)
 「日本の国民皆保険や医療制度は堅持してほしい。若い世代の負担軽減は法人税、消費税アップで対応すべき」(67歳男性)
 「飢えることもない。具合が悪ければ病院に行ける。人権も保証されている。働ける。不当なことは訴えれば聞いてもらえる。これらは当たり前と若者は思っているけれど、感謝が薄すぎる。年寄りが優遇されているのなら、年寄りも就職、待遇などで社会的にもっときちんと評価をしてほしい」(62歳女性)

70代
 「同世代の70代の家には、独身の30~40代の子どもが1人か2人おり、どちらかと言えば親の収入に頼っている。さまざまな世代間の助け合いがあり、それを支える公的サポートの構築こそが最優先すべき課題である」(72歳男性)

その他
 「資産のある高齢者には毎年の収入がなくても現役世代と同等の負担を課すべき」(男性)
 「ベーシックインカムを導入してもいいのではないか」(年齢性別不詳)
 「家計が赤字なのに子供のお年玉を使って祖父母が贅沢している印象。子供世代にツケを回すのはおかしい」(年齢性別不詳)

《本連載は続きます》
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