ソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperiaスマートプロダクト」第2弾製品として、Android OS搭載のスマートプロジェクター「Xperia Touch」(14万9880円)が、2017年6月24日に発売された。

 Xperia Touchは、小型プロジェクターとして床や壁に画面を投影できるうえに、「投影した画面をスマホのように指で触れて操作できる」という驚きの機能を持ったスマートプロジェクターだ。

 そのコンセプトモデルである「Xperia Projector」が初めて披露されたのは、2016年2月にスペイン・バルセロナで開催されたMWC(Mobile World Congress)。当時から高い評価を得ており、約1年半を経てついに発売となった。

 同社いわく、2017年4月20日の正式発表後は「第1弾製品であるイヤホン型デバイス『Xperia Ear』以上の反響がある」とのこと。そこまで注目されるXperia Touchはどのようにして生まれたのか。開発者インタビューで誕生の経緯を解き明かすとともに、その機能や実際の使い勝手を解説する。

ソニーモバイルコミュニケーションズのAndroid OS搭載スマートプロジェクター「Xperia Touch」。カラーは落ち着きのあるゴールドを採用。ソニーストアでの価格は14万9880円
ソニーモバイルコミュニケーションズのAndroid OS搭載スマートプロジェクター「Xperia Touch」。カラーは落ち着きのあるゴールドを採用。ソニーストアでの価格は14万9880円
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本体の向きを変えることで床にも壁にも投影可能。さらに、投影した画面をタッチして操作できる
本体の向きを変えることで床にも壁にも投影可能。さらに、投影した画面をタッチして操作できる
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タッチ操作できるプロジェクター

 Xperia Touchでまず注目すべきは、2016年2月13日に発売されてヒットしたソニーのポータブル超短焦点プロジェクター「LSPX-P1」(9万2500円)と同じプロジェクションモジュールを採用している点だ。

 LSPX-P1と同様に床や密接した壁に23インチの画面(解像度は1366×768)を投影できるほか、壁から約25cm離すことで最大80インチの大画面を投映できる。

壁に密接した状態(上)と、離して大画面にした状態(下)。Xperia Touchの明るさはLSPX-P1と同様に100ルーメンだが、23インチであれば一般的な家庭の照明下では問題なく見えるレベル。意図的に暗めの状態を作れば、大画面でも問題なく利用できる
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壁に密接した状態(上)と、離して大画面にした状態(下)。Xperia Touchの明るさはLSPX-P1と同様に100ルーメンだが、23インチであれば一般的な家庭の照明下では問題なく見えるレベル。意図的に暗めの状態を作れば、大画面でも問題なく利用できる
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 その一方で、OSにAndroid 7.0を搭載しているのがLSPX-P1とは大きく異なる。赤外線とイメージセンサーによって投影画面でのタッチ操作を実現しており、タブレット端末を超える大きな画面でインターネットや動画、ゲームなどを楽しむことができる。

 Xperia Touchはソニーのプロジェクターをベースとしつつ、同社のスマホ・タブレット端末の技術やノウハウを組み込んだ製品となる。そういった意味では、まさにソニーの平井一夫社長が掲げる「One Sony」を体現した製品といえるだろう。

「顔を上げる」がキーワード

 同社スマートプロダクト部門の城重拓郎氏によれば、この製品の開発でポイントとなったのは、「スマホを使うときに画面に集中して下ばかり見てしまう」という問題点だったそうだ。

 そこで「顔を上げる=Look Up」をキーワードとして、スマホの利点を残しつつも、周りの風景を見たり家族や友人とコミュニケーションしたりできる製品の開発を目指した。そのコンセプトから生まれたのがXperia Touchというわけだ。

 Xperia Touchを利用すれば、家族や友人とテーブルを囲んでゲームを楽しんだり、壁に投影した映画を一緒に鑑賞したり、遠く離れた両親とビデオ通話ができる。

 「みんなが手を延ばして同じ画面を触れるような環境を提供できれば、コミュニケーションもきっと円滑になるはず」と城重氏は語る。

ソニーモバイルコミュニケーションズ スマートプロダクト部門 商品企画課の城重拓郎氏(右)と、同 商品設計4部 システム1課 シニアプロジェクトマネジャーの斉藤裕一郎氏(左)
ソニーモバイルコミュニケーションズ スマートプロダクト部門 商品企画課の城重拓郎氏(右)と、同 商品設計4部 システム1課 シニアプロジェクトマネジャーの斉藤裕一郎氏(左)
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Xperia Touchの利用イメージ
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Xperia Touchの利用イメージ
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スマホと変わらない操作感のよさ

 Xperia TouchはLSPX-P1のプロジェクションモジュールを採用していることから、同モジュールの開発チームと共同で開発された。

 これまでスマホやタブレット端末の開発を担ってきたシニアプロジェクトマネジャーの斉藤裕一郎氏は、「新しいアウトプットとしてこのモジュールを使えば、きっと面白い製品ができる」と感じたそうだ。

 LSPX-P1をはじめとしたプロジェクターと比べた場合、投影した画面をタッチ操作できる仕組みがXperia Touchの大きな特徴だ。

 画面を投影するプロジェクターモジュールは既に出来上がっていたため、タッチ操作の仕組みはタッチセンサーの完成度にかかってくる。「いかに精度を上げていくか。それが開発者としての腕の見せどころだった」と斉藤氏。

 ポイントとなるのは、タッチを認識する赤外線の面の張り方だ。投影される23インチの画面全体をしっかり網羅するのはもちろんのこと、画面のぎりぎり真上に赤外線の面を張ることで画面とタッチ場所の誤差を無くし精度を高めている。

 この設定はかなり繊細で、ハード的な個体差でわずかなズレが生じるケースもあるという。「日本の工場で個体ごとに微調整をすることで高い精度を担保している」(斉藤氏)。

赤外線は本体の一番下から出ており(左)、イメージとして右の写真の赤い部分に赤外線の面が張られる
赤外線は本体の一番下から出ており(左)、イメージとして右の写真の赤い部分に赤外線の面が張られる
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 実際に操作してみると、精度の高さに加えて操作感もスマホと変わりなく、タッチのズレや遅延はとくに感じなかった。投影される画像は1秒間の動画に60枚の静止画を使う60fpsで描画されているため、開発時に1コマ以内でしっかり処理できるように工夫を重ねたそうだ。

 そういった背景を鑑みれば操作感がよいのも当たり前で、納得の完成度といってよいだろう。

タッチ操作は最大10点タッチに対応している。これにより、ピアノのアプリで和音を演奏したり、対戦型のゲームを複数人で楽しんだりできる
タッチ操作は最大10点タッチに対応している。これにより、ピアノのアプリで和音を演奏したり、対戦型のゲームを複数人で楽しんだりできる
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タッチ操作の弱点は……

 ただし、この赤外線によるタッチ操作にも弱点はある。例えば、タッチの範囲内にペンやケーブルなどがあると、それもタッチとして認識してしまう。そのため、画面投影時には何も置かれていないオープンスペースの確保が必要だ。

 また、床や壁にゆがみがあると映像自体がゆがむのだが、その影響は当然タッチ精度にも出てしまうので注意したい。

 そしてもうひとつ、タッチ操作は「壁や床に隣接して投影した23インチの状態でないと利用できない」というのも気を付けたいポイントだ。

 壁から距離を取って大画面で投影している状態では利用できないため、例えば大画面で映画を観ていた場合は、一時停止したけれは23インチの密接状態に戻す必要がある。

 大画面においてタッチ操作ができない点はかなり面倒な話だが、Bluetoothマウスを接続して操作できるようにしておけば、この状況はひとまず回避できる。

 また、発売時点ではまだ利用できないが、手の動きをカメラで検知して操作できるジェスチャー機能が今後追加される予定。早めの対応を期待したいところだ。

壁から離れた状態でも、赤外線センサーは作動している。そのためセンサーの上で指を動かせばスワイプぐらいはできるが、実用性は低い
壁から離れた状態でも、赤外線センサーは作動している。そのためセンサーの上で指を動かせばスワイプぐらいはできるが、実用性は低い
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使い方はAndroidスマホとほぼ同じ

 プロジェクターでありながらOSにAndroidを搭載する点も、Xperia Touchの大きな特徴となる。画面や設定などはAndroidとほぼ変わりはない。使い方も一般的なスマホとほぼ共通なので、Androidスマホの利用者であれば操作に迷うことはないだろう。

アプリ画面(左)や設定画面(右)を見ても、一般的なAndroid OSと違わないことが分かる
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アプリ画面(左)や設定画面(右)を見ても、一般的なAndroid OSと違わないことが分かる
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背面にはmicroSDカードスロットも備え、ストレージ容量を増やすこともできる。こういった仕様もAndroid端末らしい側面だ
背面にはmicroSDカードスロットも備え、ストレージ容量を増やすこともできる。こういった仕様もAndroid端末らしい側面だ
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 また、アプリも基本的に制限なくインストールできるほか、Wi-FiやBluetooth、GPSなども備えている。基本的には画面の大きなAndroidタブレットといった感覚で使える。個人的には、単体でネット動画を大画面で楽しめるのはXperia Touchならではと感じたし、利便性は高いだろう。

 ただし、スマホやタブレット端末のシステムをそのまま使うのは難しかったようで、細かな最適化を随所に施しているそうだ。「基本的に変えるつもりがなかったのに、やってみたら思った以上に調整する点が多かった」と城重氏は苦笑する。

Androidアプリのなかで「Google Earth」はかなりXperia Touchと相性がいいと感じた。タブレット端末よりもさらに大きな画面で世界中をチェックできるので、とくに目的がなくても見ているだけで楽しかった
Androidアプリのなかで「Google Earth」はかなりXperia Touchと相性がいいと感じた。タブレット端末よりもさらに大きな画面で世界中をチェックできるので、とくに目的がなくても見ているだけで楽しかった
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 そのほか、外部コンテンツを投影する一般的なプロジェクター機能としては、外部入力に対応したHDMI端子(タイプD)も備えており、BDレコーダーやゲーム機、ビデオカメラなどを接続して映像を映すことが可能だ。

 LSPX-P1ではワイヤレスユニットで同様の機能に対応していたことを踏まえると、Xperia Touch は単体で完結させるためにさまざまな機能を詰め込んでいることが良く分かる。

 また、話しかけると天気や予定の確認、ルート検索など、さまざまな機能を利用できる「ボイスコントロール」にも対応。Xperia Earのボイスアシスタントを開発したチームが最適化をサポートし、この連携はマイクなどの開発にも生かされたそうだ。

HDMI端子は底面にあり、給電やデータ転送で利用するUSB Type-Cも同じ場所にある
HDMI端子は底面にあり、給電やデータ転送で利用するUSB Type-Cも同じ場所にある
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利便性と価格のバランスがポイントに

 Xperia Touchは画面こそ壁や床に投影する必要はあるが、Android OSの搭載によって、スマホやタブレット端末の延長線上にある利便性の高い製品と言える。製品は特殊だが、超短焦点プロジェクターのLSPX-P1より活用できるユーザーもシーンも多いと感じた。

 例えば、筆者は家族と旅行の相談をするときにタブレット端末をよく使っているので、Xperia Touchならより大画面で地図や情報を確認でき、それぞれが操作できる点もかなり便利に使えると思えた。

 また1人の場合でも「PlayStation 4 Remote Play」アプリを使ってPlayStation 4をリモート接続し、大画面で手軽にゲームやnasneに保存したテレビ番組を楽しめた。

 あとは、この利便性と価格のバランスが、ユーザーに見合うかどうかが最大の焦点だろう。

 筆者はソニーのタブレット端末「Xperia Z4 tablet」の新品を8万円で購入したことがあるせいか、タブレット端末と超短焦点プロジェクターの機能を合わせた製品が約15万円というのは、極端に高いとは思わない。しかし、15万円が気軽に手の出せる価格かといわれるとそれはなかなか難しいし、悩ましいところではある。

 Xperia Touchが今までにないデジタル製品であり、新しい可能性を感じるのも事実。未来体験をいち早く望むのであれば、迷わず手に入れるといいだろう。

(文/近藤 寿成=スプール)

日経トレンディネット 2017年6月23日付の記事を転載]

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