大幅な部分改良をした日産自動車「エクストレイル」(上)と、全面改良したドイツ・ダイムラーの新型「Eクラスクーペ」(下)
大幅な部分改良をした日産自動車「エクストレイル」(上)と、全面改良したドイツ・ダイムラーの新型「Eクラスクーペ」(下)

 たまたま、なのだが同じ日に日産自動車と独ダイムラーの最新の自動運転技術を搭載した車種に試乗する機会があった。日産自動車が6月8日に部分改良したSUV(多目的スポーツ車)の新型「エクストレイル」と、メルセデス・ベンツ日本が5月31日に発売した新型「Eクラスクーペ」の2車種だ。

 本来、この2車種は全く異なるジャンルの車種だし、価格も、試乗したグレード同士の比較で、エクストレイルの「20X HYBRID」の4輪駆動仕様の約310万円に対して、Eクラスクーペは「E 400 4MATIC クーペ スポーツ 」という最上級グレードで1037万円(いずれも税込み、オプション抜き)と3倍も違うのだから、本来は横並びで比較すべきではないのだろう。それを承知で、今回はそれぞれを試した結果を報告してみたい。

 まずエクストレイルだが、今回の部分改良は、2013年12月に現行の3代目が登場して以来、初めての大幅な変更である。外観では、ハイブリッド仕様「e-POWER」が好評の「ノート」の部分改良と同様に、日産車のアイデンティティであるV型のフロントグリルを拡大したほか、フロントヘッドランプのデザインも一新して、より精悍な印象になった。加えて、ボディーカラー全12色のうち、鮮やかなオレンジ色の「プレミアムコロナオレンジ」や、深みのあるレッド「ガーネットレッド」(いずれも特別塗装色)など6色を新色として、エクステリアを新鮮に見せている。

 一方内装でも、助手席前のソフトパッドのデザインを一新したほか、ステアリングも、より引き締まった印象のデザインに変更されている。「部分改良でここまで?」と驚いたのは、シートアレンジがより多彩になったこと。上級グレードの「20X」の2列シート仕様の後席に、新たにスライド・リクライニング機構を採用したのだ。背もたれの分割方法も、従来は6:4だったのを、アームレスト部分のみ倒すことが可能な4:2:4の分割方式を新たに採用した。

新型エクストレイルは一部グレードの後席に、新たにスライド・リクライニング機構を採用した。
新型エクストレイルは一部グレードの後席に、新たにスライド・リクライニング機構を採用した。

プロパイロットを採用

 ミニバンの「セレナ」に次いで採用された自動運転技術「プロパイロット」は、高速道路の単一車線を走行する際のステアリング、アクセル、ブレーキの操作を自動化する機能だ(ステアリングには手を添えている必要がある)。センサーとして、フロントウインドー上部の室内側、ルームミラーの裏側に単眼カメラを取り付けただけで、これらの機能を実現しているのが最大の特徴だ。

フロントウインドーの上部に取り付けられた単眼カメラ
フロントウインドーの上部に取り付けられた単眼カメラ

 機能そのものはセレナに搭載されているものと同じだが、注目されるのはオプション価格だ。プロパイロットは単独で設定することはできず、エクストレイルの場合、「踏み間違い衝突防止アシスト」や「車両逸脱防止支援システム(LDP)」などいくつかの安全機能とのセットプションになっている。この価格が約14万円で、セレナが約24万円だったのに比べて約10万円も安くなったのだ。セレナとはセットになっている機能が違うので単純な比較はできないのだが、プロパイロットが欲しいユーザーには、より身近な装備になったといえるだろう。

 プロパイロットを作動させるには、ステアリング上の「プロパイロットスイッチ」をまず押し、次に「セットスイッチ」を押すという二段階の操作が必要だ。ステアリングに手を添えている必要はあるが、カーブにさしかかると、ステアリングにはかなり強い操舵力が加わる。きめ細かな修正操作は絶えず入るものの、かなり安心して操作を任せておけるという感触を得ることができた。先行車両に近づくと、かなり早い段階からブレーキをかけてくれるのも安心材料だ。

 感心したのは、白線が消えかかっているようなところでも車線を維持し続けることだ。車線を維持する機能は単眼カメラで白線を認識することで実現しており、白線を認識しているかどうかは、メーターパネルの中にあるプロパイロットの動作状態をモニターする画面に表示されるのだが、片側の車線が消えかかっているようなところでも、車線を見失うことはなかった。ただ、今回の試乗コースでは古い車線が斜めに現在の車線を横切っているところがあり、そこでは古い車線に沿ってステアリングを切る場面があった。ステアリングに手を添えていたので、修正舵を当てることで問題はなかったのだが、こういう場面があるので、手放し運転にはまだ少し改良が必要なようだ。

今どき貴重なハードトップ

 では次にEクラスクーペに乗り換えよう。Eクラスクーペは、ダイムラーの高級セダン「Eクラス」のクーペ版という位置づけだ。従来、ダイムラーではSクラスのクーペを「CLクラス」、Eクラスのクーペを「CLKクラス」と呼んでいた時代があったが、先代から名称が「Sクラスクーペ」「Eクラスクーペ」に改められた。一クラス下の「Cクラスクーペ」も含め、ダイムラーは主力車種のSクラス、Eクラス、Cクラスのすべてにクーペタイプの車種を揃えていることになる。

 日産自動車の「スカイラインクーペ」やトヨタ自動車の「レクサスRC」などを残すのみで、国内市場では “絶滅危惧種”となりつつある2ドアクーペだが、これらと比べてもEクラスクーペが異彩を放っているのは「2ドアハードトップ」であることだ。ハードトップとは、センターピラーのない車体構造のことで、このEクラスのドアはサッシュレス(窓枠がない)であるうえに、センターピラーもない。さらにドアウインドーもサイドウインドーもすべて収納可能なので、窓を全開にすると高い開放感を得ることができる。これに対して、Cクラスクーペはセンターピラーを持つ構造なのが異なる(ちなみに上級のSクラスクーペもハードトップである)。

新型Eクラスクーペのサイドウインドーを全部引き下げたところ
新型Eクラスクーペのサイドウインドーを全部引き下げたところ

 デザインの差が大きかった先代のCクラス、Eクラス、Sクラス(のセダン)に対して、現行型はC、E、Sクラスとも、よく似ている。EクラスをSクラスと見間違えたり、極端な場合、CクラスをSクラスと見間違えてしまうこともあるくらいだ。新型Cクラス、Eクラス、それにSクラスクーペのフロント周りやテールランプのデザインもよく似ているのだが、セダンよりも見分けやすいのは、リアピラーの形状がそれぞれ異なっていることだ。Cクラスクーペはリアピラーの根本でウエストラインが切れ上がっているし、Eクラスは水平基調で、大きな三角窓が設けられている。そしてSクラスは後ろ上がりのウエストラインでそれと分かる。

内装はまるでSクラスクーペ

 新型Eクラスクーペの内装は、Eクラスセダンとほぼ共通である。もともとEクラスのインストルメントパネルのデザインがかなりSクラスに近いので、自動的にEクラスクーペもSクラスセダン/クーペに近いデザインということになる。ただし、Eクラスクーペで独自なのは、空調の吹き出し口のグリル形状である。セダンではルーバーの形状が横基調なのに対して、クーペでは放射状の、よりスポーティなデザインとなっている。これだけでも雰囲気がずいぶん違うから不思議だ。

新型Eクラスクーペの空調の吹き出し口
新型Eクラスクーペの空調の吹き出し口

 写真がなくて恐縮なのだが、試乗車のインストルメントパネルは水色の本皮をあしらった贅沢かつ個性的なもので、質感に文句があるはずもないのだが、そこに張られた黒色の樹脂製パネルの質感は、表面に木の導管のような模様を付けてあるのだが、本皮の部分に質感が及ばず、改良の余地ありと思った。

 それではEクラスクーペの自動運転機能を試してみよう。Eクラスクーペは、エクストレイルの3倍以上の値段だけあって、自動運転システムもエクストレイルよりもはるかに複雑だ。エクストレイルがセンサーとして単眼カメラ1個で済ませているのに対して、Eクラスクーペは前方監視のためだけでも、長距離用と中距離用の二つのミリ波レーダーと、ステレオカメラの三つのセンサーを備える。このほか後方監視用のミリ波レーダーを二つと、周辺監視用の6つの超音波センサーがあり、合計で11個ものセンサーを備える計算だ。

 前方だけでなく、後方監視用にもミリ波レーダーを備えるのは、Eクラスクーペがオートレーンチェンジの機能を備えるからだ。これは、ドライバーがウインカーレバーを操作すると、ステアリングを自動的に操作して車線変更をしてくれる機能だ。ドライバーがウインカーを操作した時点で、ドライバーが後方の安全を確認することが前提になっているのだが、念のため、後方から近づいてくるクルマがないかどうかをレーダーで監視していて、もし近づいてくるクルマがあれば警告音や警告表示が出て車線変更を実行しない。

こちらも安心して任せられるが…

 Eクラスクーペの自動運転機能も日産のプロパイロットと同様に、高速道路の単一車線を走行する際のステアリング、アクセル、ブレーキ操作を自動化したものだ。ステアリングに手を添えている必要があるのも同様である。Eクラスクーペの場合には、ステアリングの左側に取り付けられたレバーを手前に弾くと自動運転モードに入り、レバーを上下に操作することで設定速度を変えられるようになっている。

 Eラスクーペが搭載しているステアリングの自動操作機能は「ステアリングパイロット」と呼ばれており、白線を検知して車線を維持するだけでなく、白線が認識できないときでも、ガードレールや先行車両などを認識することで、極力車線を維持しようとする機能を備えている。先程のエクストレイルとは試乗コースが異なるため、古い車線が新しい車線を斜めに横切るような条件での走行は試せなかったが、車線が消えかかっているようなところでも、確かに車線を維持し続けることができていた。ただし、エクストレイルとEクラスクーペで、ステアリングの自動操作の機能で大きな違いを感じることはなく、単眼カメラだけというシンプルなセンサー構成で、Eクラスクーペと同等の機能を実現している日産の技術はお買い得だと思った。

ステアリングに手を添えているのに…

 ただし、どちらのシステムでも共通して気になったのは、ステアリングに手を添えているのに「ステアリングを握ってください」という警告表示がときどき出ることだ。こういうときは、ステアリングを左右に少し振ってやると、システムがそのトルクを確認し、表示は消える。システムは自動でステアリングを動かすときの抵抗値でドライバーが手を添えているかどうかを判別するのだが、直線が続くとステアリングを回す機会が少ないので確認ができずに、こういう表示が出る頻度が高まる。将来的にはステアリングにタッチセンサーを備えるようなことも検討すべきだろう。

 また、ステアリングを握っていることを示すためにわざとステアリングを左右に動かすと、その動きが大きい場合に、手動でステアリングを操作したいのだとクルマが勘違いして、ステアリングの自動操作が解除されてしまうことがまれにあった。このときは、ステアリングの自動操舵が続いているような気がして運転していて、カーブでステアリングが動かないのに気づいて慌てて手動で動かすことになってしまった。

 ステアリングの自動操舵がオンになっているかどうかは、メーター内のステアリングの形をしたランプが点灯しているかどうかで日産、ダイムラーどちらのシステムでも確認できるのだが、その表示が小さいので、見落としてしまうこともある。こうした見落としを防ぐために、ステアリングの自動操舵が切れるときには、音声で「ステアリングの操作補助を解除します」などといった音声ガイダンスも必要ではないかと思った。筆者の乗っているクルマでは、年式が古いこともあるのかもしれないが、同じ交差点を通るたびにカーナビゲーションシステムが「交通事故多発地点です」と丁寧に説明してくれる。カーナビでは、多少うるさくても安全性が優先されていることを思えば、運転支援システムでも音声で動作状況を確認することを検討してもいいのではないだろうか。

まずは会員登録(無料)

登録会員記事(月150本程度)が閲覧できるほか、会員限定の機能・サービスを利用できます。

こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

この記事はシリーズ「クルマのうんテク」に収容されています。フォローすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。