日経ビジネスは3月19日号で特集「大事なのは高校」を掲載した。大学の画一化と高校の多様化が同時並行で進む中、優れた人材を輩出する高校を把握しておくことが、有能な人材を採用できる鍵になりつつある。 今、どんな高校に注目しているのか。高校教育に一家言ある人事担当者に、覆面座談会で本音を語ってもらった。
参加者は以下の通り。
- A氏:関西出身。私立の中高一貫校から私大へ進学。ITベンチャーで人事を担当。
- B氏:東京都内の国立高校、国立大を卒業後、コンサルティング会社に就職。メディア企業などを経て、ベンチャー企業の人事担当役員に。
- C氏:中部地方の県立高校、都内の私大出身。人材系企業の創立などに関わった後、人事や組織運営を専門とするコンサルタントとして独立。
- D氏:地方の私立進学校から都内の国立大へ。大手IT企業の人事を担当。
- E氏:スポーツ推薦で私立校、私大へ進学。人材系企業などを経て、現在はベンチャーで人事を担当。
記者:採用、人事において、対象者の出身高校を判断材料としてどのように見ているか、お伺いさせてください。
C氏:難関国立に行ける偏差値があるということはやはり大事です。地方の上位校から関東に来て、東京大学、東工大学、一橋大学などの難関大学に行く人はやっぱり優秀です。上位校から横浜国立大学に進学する人はITベンチャーのトップになるイメージもありますね。
大学受験と違って、高校受験は浪人が原則ない。AO(アドミッション・オフィス)入試とか指定校推薦もないからごまかしも効かないですよね。ここでどういう風に努力をしたのかはすごい大事ですね。
A氏:自由を売りにする高校は多いですが、自由放任なだけのところはうちの会社には厳しいですね。全員同じ目標に向かって走る、という組織風土に合わない。自由で、かつ文化祭が盛んな高校なんかはいいと思いますね。
記者:自由にも色々ありますよね。私立中高一貫の御三家はいずれも自由は掲げていますが、ちょっと特色が違う。武蔵高校(東京・練馬)の関係者は、「武蔵はのんびりした自由だけど、麻布高校(同・港)は闘争的自由」と表現していました。開成高校(同・荒川)はもう少し生真面目なイメージです。
トップ女子高に敢えて「下ネタ」
C氏:みなさん、トップの女子高校はどういう風に評価してますか?桜蔭高校(東京・文京)、雙葉高校(同・千代田)、女子学院高校(同・千代田)、豊島岡女子学園高校(同・豊島)、浦和明の星高校(さいたま市)など。
A氏:プライドが高くて温室育ちの子は多いですけど、自分で意思決定ができる子はものすごく優秀ですね。
B氏:潔癖度合いに着目してます。ビジネスって曖昧な情報しかない中での判断が多いじゃないですか。潔癖な人ってなんでもはっきりさせようとするので、こういう判断には馴染まない気がします。見極める方法の一つとして、敢えて面接で下ネタを言って反応を見る時もあります。
E氏:うちはまだ小規模なベンチャーなので、高校時代の文化祭や体育祭、部活でリーダーをやっている人に注目しますね。グループを率いるプレッシャーを経験していることが大事。
記者:キャプテンのような日が当たるポジションではなくても、戦略立案をするマネージャーなんかが活躍するということはないんですか?
E氏:会社のフェーズとして100人ぐらいの規模になっていく時に是非欲しいですね。リーダーばかりだと、会議をしても攻めのアイデアしか出てこないので(笑)。ちなみに、みなさん海外の高校はどう評価しますか?
C氏:流動性が高い人材が多くて、一つの会社に止まらないですよね。日本のオールドカンパニーにはフィットしない。BCG(ボストン・コンサルティング・グループ)とか外資系に行くイメージですね。
B氏:海外の高校はICU(国際基督教大学)に進学する人多いですよね。こういう人は頭はいいけど、やっぱり日本の企業には合ってない。
C氏:ICUからめちゃめちゃアマゾン(・ドット・コム)に行ってますよね。もちろんリクルート(ホールディングス)も多いけど。
記者:同じようなタイプで、APU(立命館アジア太平洋大学)はどうでしょう?
B氏:それこそ高校で決まりますね。入学できる学力の幅が広いので、地頭がいい高校を出ているかによります。
ある大手メディア企業では人材を3種類で分けてるそうです。まず、起業家魂を持った人材。独立心がある分、何人かやめるかもしれないけど、新規事業を作れる能力を持った人のことです。そして次に、KPI(主要業績評価指標)のマネジメントがしっかりできて、そのために馬車馬のように働ける人。そして最後にリーダーシップはないけど、飛び抜けてすごいものを作る人。そういう分類で考えると企業のフェーズによって必要な人材を考えやすいと思います。
進路にストーリーがあるか
記者:高校と大学の組み合わせで、このルートは面白い、という事例はありますか。
C氏:王道の高校→王道の大学はもちろん優秀なんですが、都立の工業高校から東工大なんていうルートも興味が湧きますね。その裏にどんな背景があるのか知りたくなる。
B氏:親に流されて大学を決めるのではなく、そこに自分自身の意思決定がある、語れるストーリーがある、という場合は期待が持てますよね。
記者:逆に王道の高校→非王道の大学のパターンはどうですか?
C氏:それも同じく、ストーリーがあればいいんじゃないかと思います。日本で1つしかない学部だからここに行くとか、経済的事情のために何としてもトップ合格で学費免除になりたいからとか。もしかしたら掘り出し物の人材かもしれないと期待しちゃいますね。
18歳の意思決定ってすごい大事です。逆に、思考停止で王道高校→王道大学のパターンだと、会社のカルチャーによっては合わないかもしれないですね。
B氏:高校ではないですけど、高専出身者は人材獲得の穴場だと思ってます。
C氏:わかる!高専から北陸先端(科学技術大学院大学)、奈良先端(科学技術大学院大学)はエンジニアの超王道ですね。あとははこだて未来大学とか、会津大学なんかへの進学者もいいですね。
A氏:大阪大学大学院のビジネスエンジニアリング専攻にも高専出身者は多い。でも、このケースはモラトリアムの延長という人が多い印象。そういう意図が見える場合は採用にはマイナスですね。
やっぱり受験はしてほしい
D氏:中学→高校のエスカレーターはいいんですが、高校→大学の内部進学はいまいち信用できないところがある。やっぱり、しっかり受験というハードルを超える経験をしている方が安心できる。
内部進学生は親の所得が高くて、大学生でブランド物を着こなしている人多いんですよね(笑)。やっぱり尖った個性を持っている子と比べると弱い。企業の最前線に立つイメージが持てない。
E氏:内部進学者は、愚直さはあるんだけど意思決定が弱いという人はいますね。適材適所にハマれば力を発揮するんですが。
C氏:E氏は付属校からのスポーツ推薦ですけど、そこに自分の意思決定はありました?
E氏:強豪大からの誘いは敢えて蹴りました。弱小大を勝たせたいという考えで学校を決めましたね。
C氏:例えば法政大学みたいに、付属高校の偏差値が高いと、内部進学生はハングリー精神にかけるイメージですね。大学も3年ぐらいまではモラトリアム。そこでうまく切り替えられると化けるケースもありますが。
D氏:進路の意思決定は地域特性もある気がします。関西の高校は大学で東京に来ても、就職は地元という傾向が強いのではないでしょうか。
C氏:東海もそのイメージ強いですね。
記者:企業城下町があるところはそうかもしれませんね。
C氏:その通りだと思います。家業、公務員、銀行以外の選択肢がある地域。
D氏:九州の高校生はなかなか地元から出てこないですね。
A氏:修猷館高校(福岡市)、福岡高校(同)、鶴丸高校(鹿児島市)から九州大学だと、ちょっと悩んでしまいますね。自分の安全圏を守りたいという思考なのかと感じてしまう。
記者:文部科学省は近年、高校教育改革の一環で、アクティブラーニング(能動的学習、AL)を推し進めています。
C氏:学ばなきゃいけない、という危機感を生み出すことがALのポイントだと思ってます。上位校の生徒は社会に将来どういうインパクトを与えたいか。高校の頃から考え始めてほしい。本当に優秀な人は最初からALの素地が備わっていますよね。日本の政治を変えたい、とか強い学びの意志がある。
D氏:高校のうちに視座を植え付けておいてほしいですね。どんな分野に進むかはともかく、いま自分が努力している先に何があるのか。えらい経営者じゃなくてもいいから、苦労して結果を出した人の講演をたくさん聞いてほしい。部活でも、毎年強結果を出している強豪校の先生は「将来お前らどうするのか」という問いかけまでしていますね。
古豪は地頭が良い?
記者:そんなアクティブな人が多い高校ってどこでしょう?
E氏:渋谷幕張高校(千葉市)なんかはそういうイメージですね。
B氏:渋谷幕張は先生もすごい熱心で優秀ですよ。計画の立て方も民間企業のようですね。中長期を見越して自分で授業の企画を立ててフィードバックを校長から受けてというPDCA(計画、実行、評価、改善)のサイクルをうまく回している。
E氏:スポーツの強豪校でも、本当にアクティブで、ビジネスで活躍できる人は2割ぐらいしかいないんじゃないでしょうか。2割の人は20代で年収1500万円のコンサルタントになったりしますけど、残り8割はアルバイト、とかいうこともある。
C氏:バスケットボールの洛南高校(京都市)みたいに進学校でスポーツも強いケースはやっぱり優秀ですよね。でも、能代高校(秋田県能代市)みたいに飛び抜けた伝統強豪校も、実は地頭が良い。すごい戦術が複雑で進化してますからね。頭が良くないとできない。
記者:ビジネスの視点から見て、高校までにやっておいてもらいたい学びってどんなものでしょうか。
C氏:財務とプログラミングですね。大前研一さんも数字、IT、英語に秀でていればビジネスマンとして選択肢が増えると言っています。でも、今は英語しか日本の高校でちゃんと教えていない。特にお金の流れ、仕組みについては、商業高校ぐらいしか授業でやらない。
D氏:だから、転職前提でメガバンクに就職して、財務を学ぶという人も多いですよね。
C氏:うちは親が中小経営者だったんですけど、ゲームとか何か欲しいものがあるときは、親にプレゼンをしなくちゃいけなかったんですよ。それがなぜ必要なのか示せと。「みんな持ってるから」という理由はダメ。「ゲームがなきゃ遊べないやつなんて友達じゃない」て言われましたね(笑)。こういうお金を交渉して得る経験って重要だと思うんですよね。
E氏:知人の事例ですが、5歳の子供が(任天堂のゲーム機)「Wii」がほしいとねだるので、親は自分で稼げと言って、(ネットショップを無料で作れるプラットフォーム)BASEを勧めたそうです。ここで絵でも売れ、と。そしたら本当に5歳の絵を買ってくれる人がたくさんいて、Wiiが買えた。これはいい学びですよね。
記者:なるほど。自分の努力を他人に認めてもらう。その対価がお金なんだと考えれば、お金の議論を高校でもあまりタブー視しないほうがいいのかもしれません。
E氏:高校で何かのめりこめるものを見つけて、突き詰める時間を持ってほしい。その結果として、お金をもらえるくらい認められたら最高ですよね。
B氏:何かに熱中させてやり切らせることはすごい重要です。面接の時には「お前の狂気を見せてくれ」と投げかけてます。対象はなんでもいいんですよ。なぜかレンガがとにかく好きで、30分ずっと語れる、なんて人もいる。そんなことでも、ハマればすごい人材になるんですよ。
C氏:同じ東大の学生でも(自分自身の行動や感情を客観的に把握する)メタ認知力を持っている人は特に優秀です。自分の感情もいろんな観点から立体的に分析できる。そういう人はコミュニケーション力もある。メタ認知力はまだ育成メソッドが確立されてはいませんが、高校までの教育が重要なんじゃないかと思ってます。
B氏:人って本来、バイアスの奴隷です。そこで、そもそもなんで自分がこういう考えなのか、というところに立ち帰れるか。これができるビジネスマンになってほしいですね。
記者:先日見学したALの授業では、脳死移植の是非について議論する上で、スマートフォンで情報を検索するんですが、「どんな情報も真偽を見極めろ」と教えていました。情報の発信者が誰か、そしてその主体がどういった利益を得たい人間なのか考える。それによって、少なくとも情報のどの部分が正しいと言えるのか変わってくる。そうしていろんな情報に触れて少しずつ自分の軸を作っていく。これはメタ認知にも通じる訓練なんじゃないかと思います。
C氏:それは面白い学びですね。そういう思考力が高い生徒はアクセスする情報の質が変わってくる。同じグーグルで検索するのでも、適した検索ワードが入れられる。
D氏:SNSで自分のお気に入りのヒトの意見だけ取り入れるのは危険ですしね。
C氏:そうそう。あらゆる問題でイエスノー両方の視点から見れる。これはビジネスでも武器になる。
B氏:私見ですけど、(SNSの投稿をキーワードで検索する)ハッシュタグ検索だけで情報を取得しようとする子はあまり思考していないんじゃないかと思います。なぜそれを調べるのか、はっきりした理由がそこにない。
高校のデータをもっと積み上げるべき
C氏: 我々企業側の問題として、どんな高校の人材がどういう風に育っていくのか、もっと経年でデータを積み上げたいですよね。自分の企業の社風にフィットするかどうか、もっと高校で見極められると思う。
高校って、多くの人にとっては初めて自分で選択できる環境だと思うんですよ。私立なのか公立なのか、地元か寮生活か。その自分が選んだ環境で、自分の世界を広げる経験があるといい。大学でもできるでしょうが、やっぱり早いほうがいい。
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