指示したことが実行されていないのに、それをそのまま放置しておいてはならない。(写真:PIXTA)
指示したことが実行されていないのに、それをそのまま放置しておいてはならない。(写真:PIXTA)

「口頭で指示する」のは危険を伴う

 ひとつ質問をしてみます。「あなたは部下に業務上の指示をするとき、どんな形で伝えているでしょうか」。そう問うと、まず大部分のかたは「口頭で伝える」とお答えになる。──そんなこと当たり前じゃないか。いったいなにが悪いんだ。あなたはそう思うかもしれない。それはあなたが優秀な管理職だからです。

 ここに誤謬が発生します。あなたは優秀でしょう。しかし、その指示を受けるあなたの部下はどうですか。もちろん優秀な人はいるでしょうが、「それなり」の人材も多いはずです。

 この「それなり」の人材にとって、たった一度の口頭の指示だけで仕事を達成することは難しいもの。悪意があって仕事を怠けるわけではない、単純に「覚え切れない」のです。またあなたとて、煩雑な日常業務の中で、すべての指示を覚えておくことはほぼ不可能。あなたが口頭で指示をしている限り、その何割かは常に実行されないことになる。

 指示したことが実行されないのにそれを放置しておくことは、「忙しければ、上司の指示はやらなくてもいい」といっているのと同じです。それでは組織は立ち行きません。つまり部下に指示を下すときは、「いつ、だれに、なにを、どう」指示したのか、そしてその指示はきちんと実行されたのか、こうしたことを記録し、確認する仕組みが必要です。

指示と報告にITを使えば時間・場所に縛られず管理ができる

 では、どうしたらいいのか。

 もう40年近くも前、私が武蔵野(当時は日本サービス・マーチャンダイザーという社名でしたが)の部長をしていたころ、私は部下に仕事を命ずる際は市販の「発注書」を使っていました。「これをしなさい」と書いて渡しました。部下は仕事を終えると、「納品書」に「終了」と書いて私に返す。私は毎週日曜日に発注書と納品書とを突き合わせ、納品が遅れている者には翌月曜日に「早くやりなさい」と新たに「請求書」を出していました。通常、請求書は納品する側が出すものですが、私は逆でした。

 ITツールが発展した現在では、さすがに手書きの発注書は必要ないです。手っ取り早く電子メールやグループウェア、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などを使えばいい。そうすればあなたはいつでも、部下に指示を出すことができ、またチェックができます。私は「コミュニケーションはアナログ的に」とよく言いますが、こと1対nのコミュニケーションを取るときはデジタルの力を活用することです。

 私は、部下に仕事をやらせる際は、その大部分を「チャットワーク」などのコミュニケーションツールで指示しています。私は暇さえあれば自分の出した指示を読み返し、終了報告のない案件には催促の連絡を再送信しています。

 指示と報告にITを使うメリットは、時間・場所に縛られないことのほかにも、もうひとつあります。指示してからそれが完了するまでの時間が明確な数字となって記録され、一元管理できる。こうすればどこの部門のだれが仕事を滞らせているのか、高いパフォーマンスを出しているのはどこのだれかがすぐにわかる。当然、改善も手早くできますし、上手くいってること・成果が出ていることの横展開もスムーズにできます。

「見える化」とは、見た瞬間にアクションが変わるもの

 いうまでもないことですが、IT「だけ」に頼っていては駄目です。凡庸な管理職は、部下の担当業務や行動予定などを社内のネットワーク上に置く。それで情報が共有されていると安心しますが、これが大間違い。いかに検索性に優れたデジタルデータでも、量が積み上がっていけば見返すことは億劫になります。

 だとしたら「それなり」の部下が、みずから進んでチェックするはずはありません。第一あなただって、いちいちパソコンを起ち上げてサーバーにログインして、項目を選択して…、という作業が毎日何度にもなると、相当な負担を感じるでしょう。

 わが社でも各種のデータをネットワーク上に置いてはいますが、「そんなものは社員は見ない」という前提のもと、同じものを壁一面に貼っています。すると営業に出かけるとき、帰社したとき、デスクワーク中にと、常に現在の状態が目に入ってきます。この「常に目に入る」が大切です。そうすれば部下は「次は何をしなくてはならないか」がきちんと認識できるようになりますし、あなたもより適した指示がリアルタイムで出せるようになる。

 7~8年くらい前、ビジネスの世界で「見える化」という言葉が流行りました(現在でも重要なビジネス用語として定着していると思います)。この見える化の要諦は、見ようとしなくても必要な情報が目に入り、そして見た瞬間にその人のアクションが変わるものにすること。それが実現できないものは「見える化」とは呼びません。ただの「見せる化」です。

人は他人と比べられているうちは成長しない

 ここでひとつ、部下の頑張りを引き出すための「見える化」のコツを紹介しておきましょう。

 それは、部下1人ひとりが今の自分と過去の自分とを比べられるように「見える化」することです。たとえば、部下の営業成績を時系列で見えるようにします。そして、部下A君の今月の成績が、先月あるいは前年同月の成績に達していないとわかれば、あなたは書かれた数字を示してこのことをきちんと指摘する。

 大事なのは、「過去の本人」と比較することです。多くの管理職が、部下同士を比べ、競争させて育てようとします。今の若い人たちは、他人と比べられるのを嫌がります。「あの人だから、あの営業エリアだからできるんだ」と開き直るからです。しかし、過去の自分との比較であれば言い訳のしようがありません。担当業務や担当エリアが変わって単純比較ができない場合も、比べる相手が自分なら「あの頃の俺には負けたくない」と素直に思えるはず。

 それとからめて、仕事の管理を徹底するためには何を「見える化」しなくてはいけないのかを説明しましょう。まず最低限必要なのは以下の2つです。ひとつは「仕事のタイトルの見える化」です。グループウェアなり模造紙なりで自分や部下の仕事を管理する際には、必ずひとつひとつの仕事に分かりやすいタイトルを明記してください。

 一つひとつのタイトルは、具体的にする。単に「お客様訪問」とするよりは「○○地区のお客様訪問」としたほうがいいし、「商談」よりは「××の件に関してA社部長と打ち合わせ」とするほうがいい。新聞のTV欄を思い出してください。「プロ野球ナイター・巨人×阪神」とか「○○ニュース・××特集」とか、一目で放送内容が分かるようになっています。仕事の管理もそれと同じです。一見して仕事内容が分かるようにしておかないと管理などできません。

あなたは部下に「その仕事は止めろ」といわなくてはならない

 もうひとつは「時間の見える化」です。仕事を始める時間と終える時間を決めておく。普通の管理職は、仕事を始める時間は決めますが、終わる時間は決めない。だから部下はいつまでもだらだらと仕事をしてしまう。あなたは、部下があらかじめ決めておいた時間を過ぎても仕事が終わらないなら、はっきりと「時間切れだ。それはもう止めなさい」と指示しなくてはならない立場にいます。しかしこういうことができる管理職はいまだに少数派です。

 あなたにも学生時代に一夜漬けで試験勉強をした経験がおありでしょう。「明日はテストだ」「進級がかかっている」と思うといつもの怠け癖もどこへやら、素晴らしい集中力を発揮して、それなりの点数を取ったはず。仕事もそれは同じです。仕事に「締め切り」が決まっていないと社員はいつまでもやる気を出しません。

 「この仕事は完遂するまでやる」。これは言葉だけ見ると素晴らしいように思えますが、実はそれが一番仕事の効率を下げ、質も落とす考え方です。真面目で熱心な管理職ほどそういう傾向があるため、あなたは是非とも気を付けてください。時間は有限です。その限られた時間の中でベストを尽くす。これが仕事のルールです。「完遂するまでやる」は芸術家に任せて下さい。

(構成:諏訪 弘)

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