ハイブリッドモデルを追加したスズキの「スイフト」(上)と、部分改良したホンダ「フィットハイブリッド」(下)
ハイブリッドモデルを追加したスズキの「スイフト」(上)と、部分改良したホンダ「フィットハイブリッド」(下)

 トヨタ自動車の「ヴィッツハイブリッド」を取り上げたこのコラムの第79回でも触れたのだが、いよいよBセグメントのコンパクトカークラスでも、ハイブリッドが主流になる勢いを見せている。というのも、スズキの「スイフト」が2017年7月にハイブリッドモデルを追加し、このクラスでハイブリッドモデルがないのは、マツダの「デミオ」だけとなったからだ。そのデミオはハイブリッドモデルの代わりに、低燃費技術としてディーゼルエンジンを積んだモデルを用意している。

 スイフトのハイブリッドモデルが登場したのとほぼ時期を同じくして、ホンダも「フィット」をマイナーチェンジし、ハイブリッドモデルにも大幅な改良を加えてきた。そこで今回は、同じBセグメントのスイフトとフィットのハイブリッドモデルを連れ出して乗り比べてみることにした。

ちょっと似ている両車のシステム

 スイフトのハイブリッドモデルに搭載されているシステムについては、すでにこのコラムの第72回で取り上げた「ソリオ」に先に搭載されており、このときに詳しく解説している。一方でフィットのハイブリッドシステムについては、このコラムの第13回で、このシステムの度重なるリコールについて取り上げたときに、やはり詳しく紹介している。だからここでは両車のシステムについて深入りするつもりはないのだが、筆者が両車を比較しようと思ったのは、じつは両車のハイブリッドシステムがちょっと似ていると思ったからだ。

 フィットとスイフトのハイブリッドシステムのどこが似ているのか。まず第1に、どちらも1モーター式のシステムであること(ヴィッツハイブリッドや「ノートe-POWER」は駆動モーターに加えて独立した発電機を備える2モーターのシステム)だ。またホンダで22kW、スズキで10kWと、モーターの最高出力が比較的小さい(ヴイッツハイブリッドは45kW、ノートe-POWERは80kWある)こと、さらには、組み合わせる変速機が平歯車を使った手動変速機(MT)をベースにしていることも似ている。

 両車のシステムについて少しだけおさらいしておこう。まずフィットハイブリッドのシステムの特徴は、7速DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)を内蔵したことだ。DCTは、クラッチを二組用意し、1速、3速、5速、7速の奇数段の歯車と、2速、4速、6速の偶数段の歯車を2本の軸に分けて搭載している。通常の手動変速機では、クラッチは一組だけで、すべての段の歯車も同じ軸に搭載されている。変速するときは、クラッチを切り、エンジンと変速機の間の動力伝達を遮断してから、変速段を切り替える。このため変速に時間がかかる。

フィットハイブリッドのハイブリッドシステム「i-DCD」。7速DCTとモーターを組み合わせているのが特徴だ(資料:ホンダ)
フィットハイブリッドのハイブリッドシステム「i-DCD」。7速DCTとモーターを組み合わせているのが特徴だ(資料:ホンダ)

 これに対してDCTでは、例えば1速から2速に変速するとき、2速の歯車はあらかじめ噛み合わせておく(厳密にいうと違うのだが、ここでは原理の説明なのでご容赦いただきたい)。そして一つ目のクラッチを切ると同時に二つ目のクラッチをつなぐ。こうすることで、変速にかかる時間を非常に短くすることができるのが特徴だ。欧州では、小型車の自動変速機の機構として広く使われている。

 フィットハイブリッドでは、奇数段の歯車が搭載されている軸にモーターが直結しており、モーターの駆動力で発進できるようにしている。この構成だと、奇数段の歯車が駆動力を伝達しているときしかモーターで駆動力をアシストできないように見えるが、実際には、偶数段の歯車が動力を伝達しているときにも、偶数段の歯車と噛み合っている奇数段の歯車を介して駆動力を伝えるので、どの変速段のときも、モーターで駆動力をアシストすることができる。また、クラッチを二つとも切ってしまえば、エンジンと変速機の間で駆動力は遮断されるので、モーターのみで駆動する「EVモード」が実現できる。

AMTと組み合わせるスイフト

 一方のスイフトのハイブリッドシステムの最大の特徴は、AGS(オートギアシフト)と組み合わせたことである。AGSは手動変速機(マニュアルトランスミッション)の主要な機構をそのままに、変速操作だけを機械化した自動変速機である。欧州では一般にAMT(オートメーテッド・マニュアル・トランスミッション)と呼ばれている。

スズキのハイブリッドシステムの構成。AGSとモーターを組み合わせるのが特徴
スズキのハイブリッドシステムの構成。AGSとモーターを組み合わせるのが特徴

 スズキがハイブリッドシステムと組み合わせる変速機としてAGSを採用した理由はいくつかある。通常のガソリンエンジン車に採用しているCVT(無段変速機)よりもコンパクトなため、軽量化や搭載性の面でCVTよりも有利なこと、CVTのような滑りがないので伝達効率が高いこと、そしてアクセル操作に対する応答のダイレクト感でも勝ることなどだ。

 駆動モーターは、エンジン/変速機の後、デファレンシャルギアに直接取り付けられている。スイフトにはISG(インテグレーテッド・モーター・ジェネレーター)と呼ぶ大出力のスタータ兼発電機を搭載してアイドリングストップ時のエンジンを再始動したり、駆動力をわずかに補助する簡易型のハイブリッドシステム「マイルドハイブリッド」を搭載する仕様もある。これに対して今回の本格的な「フルハイブリッド」では、ISGや、エンジン再始動用の12Vリチウムイオンバッテリーはそのままに、新たに駆動力補助用のモーターと高電圧リチウムイオンバッテリーを加えた構成になっている。これに伴って、ISGはほぼ、エンジン再始動専用になった。

軽快なスイフトハイブリッド

 ではまず、スイフトハイブリッドから走り出してみる。アクセルを踏み込んでまず感じるのは、マイルドハイブリッド仕様でも感じたことだが、軽量な車体がもたらす軽快な走りだ。このコラムの第76回ですでに紹介しているように、現行型のスイフトは、先代スイフトに比べて最大で120kgもの軽量化を果たしている。今回のハイブリッド仕様は、モーターや電池を積むせいで、マイルドハイブリッド仕様に比べて約60kg重くなっている。マイルドハイブリッド仕様自体が、通常のエンジン仕様に比べて約40kg重くなっているので、合計でベースのガソリン車より約100kg重くなった計算だ(実際には装備の違いがあるので、実質的な差はもっと小さいが)。

 それでも、今回のハイブリッド仕様の車両重量は前輪駆動仕様(HYBRID SL)で960kgと、1000kgを切っている。これは、この後で紹介するフィットハイブリッド(前輪駆動仕様)の1080kgに比べると100kg以上も軽い。スイフトのほうが車体も小さく、室内スペースや荷室も小さいのでフェアな比較ではないのだが、それでもスイフトの軽さは際立っている。

 そして、これは従来のマイルドハイブリッド仕様でも感じていたことだが、軽量化していても、ボディ剛性や乗り心地などが犠牲になっていない。確かに、ドイツ車のようなガッチリとしたボディ剛性というわけではないが、サスペンションのばねの硬さ、車体の剛性、そしてシートの硬さが高い水準でバランスしている。しかも路面から伝わった衝撃を丸めて伝えてくるので、運転していて不快感がない。またシートの出来がいいので、左右にステアリングを切ったときのクルマの動きとドライバーの間に一体感がある。これが運転の楽しさにつながっている。

 また、ソリオのときもそうだったのだが、モーターとの組み合わせで、AGSの欠点をうまく消しているのも特徴だ。AGSは伝達効率が高く、燃費の面では有利なのだが、変速時に動きがぎくしゃくするのが難点だった。これは、変速時にクラッチを切るので、加速時などに駆動力が途切れてしまうのが原因だ。これに対して、今回のハイブリッドシステムでは、クラッチが切れたときにはモーターで駆動力を補うのでこのぎくしゃく感がない。フィットのようにDCTを使えばそもそも駆動力が途切れないのだが、DCTよりも機構が簡単でコストも低いAGSでも滑らかな変速を実現しているのは、設計の妙といえる。

 もう一つ印象的だったのがエンジン始動のショックが小さいことだ。通常のハイブリッドでは、まずモーターで発進し、しばらくEV走行してから、途中でエンジンを駆動系に接続することでエンジンを始動する。駆動系にはエンジンを再始動するための余計な抵抗が加わるわけで、モーターの出力を上手に制御していても、始動のショックが車両に伝わる。これに対して、スイフトハイブリッドではエンジンの始動はISGに任せているので駆動系に伝わるショックが小さい。筆者はハイブリッド車に乗っているときにエンジン始動のショックがけっこう気になるほうなのだが、スイフトではそういうことがなかった。

上級車らしさ感じるフィット

 スイフトからフィットに乗り換えると、車体が大きく、室内も広いことも手伝って、同じBセグメントの車種でありながら、1クラス上級の車種に乗り換えたような感覚がある。フィットのシートのほうが、感触がソフトで身体を柔らかく受けとめてくれるせいもあるだろう。走り出すと、今回の試乗車が最上級車種の「HYBRID・S Honda SENSING」だったこともあり、静粛性も高い。というのもこの車種は、フロントウインドーに遮音ガラスを装備するなど、上級車種からの乗り換えユーザーである「ダウンサイザー」を意識した仕様だからだ。

 一方で、足回りは意外と硬めで、高速道路では安定した走行性能を示すのだが、低速走行で状態の悪い路面を走行したときには、ざらついた感触を車体に伝えてくる。シートが柔らかめなのでその感触が直接には身体には伝わってこないのだが、逆にそのことが、車体と身体が遮断されているように感じる。上級車的な快適性を備えているのはフィットハイブリッドだが、クルマとの一体感や低速での乗り心地という点ではスイフトに魅力を感じた。

 一方で、両車の間で大きな差がつくのが室内や荷室のスペースだ。フィットのほうが、全長が150mm長い〔フィット3990mm(今回の試乗車はバンパー形状がベース車と異なり、4045mmと55mm長い)に対してスイフト3840mm〕ので、横並びの比較はフェアではないのだが、スイフトハイブリッドの室内長1910mmに対して、フィットハイブリッドの室内長は1935mmと25mm長い。実際には数値以上にフィットのほうが広く感じる。特に後席の足元スペースには歴然とした差がある。ただ、スイフトハイブリッドでも大人2人が乗るのに不足があるわけではなく、足元スペースは十分に確保されている。

スイフトハイブリッド(左)とフィットハイブリッド(右)の後席足元スペースの比較。どちらも運転席を筆者のドライビングポジションに合わせた場合だ。
スイフトハイブリッド(左)とフィットハイブリッド(右)の後席足元スペースの比較。どちらも運転席を筆者のドライビングポジションに合わせた場合だ。
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 また荷室の比較では、スイフトハイブリッドは荷室の床下に高電圧バッテリーを積むため、ベース車よりも荷室の床が高くなっており、容量も265Lから178Lに減っている。これに対してフィットハイブリッドは、やはりベース車よりは少ないのだが、それでも314Lあり、数値の上では2倍近い。室内スペースや荷室スペースを重視する向きにはフィットだろう。

スイフトハイブリッド(左)とフィットハイブリッド(右)の荷室の比較
スイフトハイブリッド(左)とフィットハイブリッド(右)の荷室の比較
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燃費はスイフトが予想以上に健闘

 最後に燃費について触れておこう。今回の試乗コースは静岡県の裾野~御殿場周辺だったのだが、郊外の空いた一般道のほぼ同じコースを走った結果は、どちらも燃費計の読みで、スイフトハイブリッドが26.8km/L、フィットハイブリッドが24.3km/Lとなった。スズキには失礼ながら、スイフトはモーター出力も電池の容量もフィットの半分以下なので、燃費向上効果も限定的だろうと思っていたから、この結果はちょっと意外だった。誤差を考慮しても、一般道においてスイフトハイブリッドはフィットハイブリッドと同等以上の燃費性能を備えていると思う。

 一方で高速燃費は、100km/h程度で巡航した場合、どちらも22km/L程度だった。ただ、フィットが120km/h程度まで速度を上げてもさほど燃費が悪化しないのに対して、スイフトは速度を上げると燃費の悪化が顕著で、120km/h程度の巡航だと20km/Lを割る傾向だった。これは、フィットハイブリッドのDCTが7速なので100km/h巡航時のエンジン回転数が2000rpm程度に抑えられているのに対して、スイフトのAGSは5速なので変速比の幅が狭く、100km/h巡航でも2500rpm、120km/hだと3000rpm程度エンジンを回さなければならなくなるのが効いているようだ。将来的にはAGSの多段化が期待される。

 このように、同じBセグメントのハイブリッド車でも、フィットとスイフトにはキャラクターに大きな差がある。同様に、アクセルペダルで加速から停止までコントロールできる日産のノートe-POWERや、車高が低くスポーティな走りを提供するトヨタのアクアなど、それぞれの個性は異なっており、ユーザーから見ると、今回のスイフトハイブリッドの登場は、選択肢の幅をさらに広げたといえそうだ。

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